【特集】五輪銅メダリストの血を引く女子選手の挑戦


 8月31日、駒沢体育館では女子レスリングの全日本学生選手権決勝を迎えていた。68kg級の決勝は、1カ月後に迫った世界女子選手権の日本代表を、つい1週間前まで争っていた2人の顔合わせだった。

 菅原美々(国士大)と坂本襟(中京女大)の決勝戦は、試合終了まで残り5秒の段階で、菅原が3−2でリードしていた。しかし不用意に踏み込んだタックルを捕まえられた。坂本は脚をかかえて返す体勢へもっていったが、なかなか返すことができない。

 残り3秒、菅原の体が浮いた。試合終了と同時に坂本が2点を獲得。世界選手権代表を手にしたばかりの菅原は、初優勝を飾ることができなかった。

 「まだまだ駄目です」。試合終了後、菅原は自分の試合を振り返り、未熟な自分を反省していた。中・高時代は柔道に没頭していた。しかし、最終目標はレスリングと決めていた。国士大入学後、本格的にレスリングを開始し、今年のアジア選手権と世界ジュニア選手権でそれぞれ3位入賞。急成長を続けている。

 父・弥三郎氏は1976年モントリオール五輪フリースタイル69kg級の銅メダリストで、74年世界選手権では2位に入賞した実力者だ。女子レスリングの世界選手権代表に五輪代表選手の娘が選ばれるのは、ミュンヘン五輪代表の山本郁英氏の娘、美憂・聖子姉妹に続き2組目。メダリストを父に持つ代表は初めてとなる。

 世界代表に決まったあと、父からはひとこと「お疲れさま」とだけ言われた。父の名声と実力を周囲から聞かされ、正直なところ、わずらわしくてならなかった時期もあった。でも、言葉は少なくとも、自分のことを一番理解してくれているのは、父なのだと承知している。

 菅原の今の目標は「父を超える」こと。今月末、ニューヨークでその第一歩を踏み出す。



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