世界選手権延期、富山英明強化委員長に聞く


 82か国から693選手の出場が予定されていた史上最大のニューヨーク世界選手権(マジソン・スクウェア・ガーデン=MSG)が、米国中枢同時多発テロの影響で中止(延期)となった。アテネ五輪種目採用の最後のアピールとなる女子は、カンボジア、ギニアビサオなどの初出場国を含め30か国111選手がエントリー。前年度より6か国も多い最多出場の大会となるはずだっただけに、無念の中止だ。

 埼玉・自衛隊で最終合宿中の全日本男子チームは、中止の報が伝わった15日もいつも通りの練習をこなした。日本オリンピック委員会からは松永怜一強化本部長が訪れ選手を激励。国際レスリング連盟(FILA)か2週間以内にくだす開催に関する決定(延期か、代替国での開催か、ことしは中止か等)を待つことになった。

 富山英明強化委員長に聞いた。


Q:世界選手権の中止(延期)が決まりましたが、強化委員長として今の気持ちは?

富山:現場の様子がテレビで映し出され、あれを見る限り実施は難しいという気持ちはあった。何千人も死んで、人名救助に必死になっている時に、その近くの会場で大会を行うというのは人道的におかしい。中止は覚悟していた。選手も同じだと思う。あれだけの大舞台では、だれもが試合をしてみたかっただろうから残念だが、仕方ない。

Q:中止の報を聞いた時の気持ちは?

富山:やっぱりな、と思った。きょうの午前の練習では永田(克彦=グレコ69`級)はスパーリングしなかった。だれもがショックだったと思う。

Q:延期とは違いますが、富山強化委員長もモスクワ五輪ボイコットで、目標を失った経験をしていますね。

富山:みんなゴールがあるから走るし、苦しさに耐えられる。そのための合宿だった。目標がなくなるのは辛い。FILA(国際レスリング連盟)は2週間以内に開催に関する決定をするとしているが、代替国開催になるかニューヨークでの延期開催になるか…。だがテロの報復が始まれば、どの国でも開催が難しくなる。でも、オリンピックは3年後には間違いなくあると思う。長い目で考えることが必要。いい経験ととらえたい。

Q:いま選手に気をつけさせることは?

富山:気がゆるんだことで、けがをしないことだ。ただ、当初17日までだった日程を、明日(16日)午前で終わることにした。この状態で続けさせるのは酷だ。FILAの2週間以内の結論を待って合宿を組み直したい。

Q:若いチームだけに、延期開催となった場合、それまでの3か月や半年の間に実力を伸ばす選手もいるはず。

富山:そうだね、すべていい方向に考えたい。大会開催中にこのテロがあったかもしれない。テロに遭わなかったのは不幸中の幸いと考えるべきかもしれない。

Q:日をずらして実施するにしても、MSGでやりたいでしょうね。

富山:わくわくしていたからね。MSG開催は、日本なら東京ドームでやるようなもの。日本女子は必ずいくつかの金メダルを取れたと思われるだけに、悔しい。

Q:これまでの練習を振り返ってみて、やりたいことの達成度はどのくらいでしたか?

富山:シドニー五輪のあと若手主体のチームに切り替わり、大きく力を伸ばしてくれたと思う。小幡(邦彦=フリー76`級)なんてすごい力をつけていた。東アジア大会で善戦し、ブダエフ国際大会で優勝。サイキエフ(ロシア=世界一4度)からポイントも取っている。世界と比較して自分の力が分かったころで、これからまた伸びる時だった。永田だって着実に強くなっていて、自信を持っていた。

Q:100パーセントと言わなくとも、95パーセントくらいの出来で強化できた、と。

富山:力を試してみたかった。これは日本だけじゃないだろうが…。必死になって準備していたアメリカが一番かわいそうだね。



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