【特集】鈴木光・女子強化委員長インタビュー




 昨秋に2004年アテネ五輪での採用が決まった女子レスリング。オリンピックに照準を合わせて年度初めを迎えるのは今回が初となる。第1回全日本合宿(5月2〜8日、新潟県十日町市「日大合宿所」)に参加している全日本女子連盟の鈴木光強化委員長に、ことしの練習や日本代表選考の方針などを聞いた。(聞き手・宮崎俊哉)


宮崎:まずは、6月カナダのエドモントで行われるユニバーシアードのメンバーが決定されましたが?(クリック

鈴木:有資格者の中から、昨年のインカレ、全日本選手権、クイーンズカップを参考に決定しました。

宮崎:
吉田沙保里選手岩間怜那選手はクイーンズカップの階級から一階級上の代表となっていますね。

鈴木:
本人、所属チームの監督から了承を得て、日本としてベストのメンバーを考えました。

宮崎:
監督、コーチの人選は?

鈴木:監督については、ナショナルチームの強化委員ではありませんが、大学関係者でもある杉山三郎先生 (中京女子大教、女子レスリング連盟広報委員長) が適任と考えました。コーチそのほかのスタッフについては未定です。

宮崎:
全日本強化合宿で行われる試合の位置づけについて教えてください。

鈴木:11月にギリシアで開かれる世界選手権、10月の韓国・釜山のアジア大会、同じく10月エジプトのワールドカップ、この3つの大会の代表選手選考参考試合として行います。

宮崎:
全日本選手権、クイーンズカップ、選考試合、全てを同列に扱い、トータルの勝ち数で代表を決定するわけですか?

鈴木:大会での成績はもちろん重要ですが、それに選考試合での成績、合宿への参加意識、海外での試合経験、外国人選手相手の強さなど、できるだけ多くの点を考えて、世界で勝てるベストの選手を送り出したいと思っています。

宮崎:海外での試合経験、外国人選手相手の強さとなると、野口美香選手 (中京女子大)、吉田沙保里選手 (中京女子大) はシニアでの世界選手権出場こそないものの、外国人選手には滅法強いですが。

鈴木:確かに2人とも海外では負けていませんからね。楽しみです。

宮崎:一方、パワーがあり、リーチ、足の長さも外国人選手に一歩も引けをとらず、アテネ・オリンピック期待の日本の秘密兵器と見られている伊調馨 (中京女子大) は外国人選手と戦った経験が全くありませんが。

鈴木:
強化委員会としても、彼女の強さは認めています。今年の世界選手権でも、坂本日登美選手以来の初出場初優勝を狙える選手と考え、冬の間にフランスやドイツの国際大会を経験させておきたいと思いましたが、まだ高校生ということもあり、できませんでした。一番の理由はパスポートが間に合わなかったということ。関係者一同不手際を反省しています。

宮崎:強化指定を受けながら今回の合宿に不参加の選手の扱いは?

鈴木:
今回不参加だからといって、一切資格がないということはありません。また、合宿には参加していますが、リハビリ中で試合ができない坂本日登美選手 (中京女子大) については、世界選手権2連覇、国際レスリング連盟の年間最優秀選手賞獲得という実績を考慮して、ケガの回復を見ながら決めたいと思いますが、その点については福田富昭理事長以下意見は一致しています。

宮崎:
平井審判長、増田審判員と2人の審判を合宿に呼び、計量も前日11時30分から12時30分までときっちり定め、さらには得点板まで持ち込んで大会同様の用意をされていますが、2kgオーバー計量とされたのは?

鈴木:
代表選手の選考とともに強化も合宿の重要な目的と考えています。そのため、試合の行方に影響ない範囲と考えられる2kgオーバーとして、試合後すぐにでもきつい練習ができるようにしました。

宮崎:
選手本人、所属チームの監督、コーチなど関係者からの異議申し立てなどは?

鈴木:今のところ一切ありません。

宮崎:3大会の代表選手はいつ決定されますか?

鈴木:
今回の試合のほか、6 月、7 月の合宿でも試合を行い、7 月下旬に東京都十日町で行われる世界合宿の前には決定したいと思っています。

宮崎:世界初の合同合宿になりますがが、参加状況は?

鈴木:今のところ、日本を含め10カ国80名以上の参加希望が届いています。なかには費用は自分たちで持つから、ぜひできるだけ多くの選手を参加させたいという国もあります。東京都北区の「国立トレーニングセンター」、日本オリンピック委員会から昨年9月に「レスリング競技強化センター」の指定されたここ新潟県十日町の桜花レスリング道場ともに収容人数を超えているので、近くの宿泊先を探さなければならない状況です。

宮崎:3大会の代表選手を同時に決定、発表される予定ですか?

鈴木:そうなると思います。ただし、団体戦で行われるワールドカップについては試合ごとに選手を代えることができる。連盟の予算の関係もありますが、できるだけ多くの階級で複数名の選手を連れていきたいと、強化委員会からお願いしています。

宮崎:
昨年の菅原美々選手のように大会途中でのケガが心配ですからね。

鈴木:そうです。たとえ誰かがケガしても、代わりの選手が勝って、ぜがひでも大会2連覇を達成しなくてはなりませんから。また、外国のチームに比べてそれだけの層の厚さが日本にはあると考えています。

宮崎:
アジア大会は、オリンピック階級である48kg級、55kg級、63kg級、72kg級の4 階級のなかから1国3階級のみの出場となります。日本が派遣する階級は?

鈴木:それも現段階では未定です。最大のライバルである中国をはじめ、台湾、インド、モンゴルなどがどの階級に出場してくるか、情報を集めつつ、金メダル3個、全階級優勝が目標にベストの布陣で臨むつもりです。

宮崎:国内大会や世界選手権は7階級、オリンピックは4階級、アジア大会ではさらに減って3階級…。複雑過ぎて、選手選考はもちろん、選手自身も戸惑いもあると思いますが?    

鈴木:
世界選手権とオリンピックの階級が違うなんていうのは、ほかの競技では例がないでしょうね。ようやくオリンピック種目となり、選手の多くはアテネ・オリンピックを目標にがんばっていると思います。連盟の強化委員も、オリンピックでの金メダル4 個獲得を大目標として、一応アテネまでということでやっていますが、女子レスリングとしてはアテネ以後、階級を増やしていくようにしているわけです。できるだけ早い段階で男子のフリー、グレコローマンと同じ数になるようにと。そうなったとき、日本としては全ての階級で常に金メダルが狙えるように、今から全階級鍛えておかなければなりません。ですから、今年はもちろん、来年、オリンピック予選となる世界選手権でも全ての階級に力を入れていきます。

宮崎:オリンピック予選となると、今年以上に来年の世界選手権は難しくなるでしょうね。オリンピックにない階級でがんばっていても仕方ないと考える選手も出てくるでしょうし。

鈴木:そうですね。個人的な意見ですが、男子のように世界選手権でオリンピック出場権を獲得してきた選手が即代表とはならないと思います。

宮崎:最後に、強化委員長として、合宿に参加される選手たちへ一言お願いします。

鈴木:私自身、モスクワ・オリンピック代表に選ばれながら、日本のボイコットによって出場できなかった苦い経験があります。それだけにオリンピックへの思いは誰にも負けません。そんな自分と、オリンピック出場経験を持つ栄和人コーチ、金浜良コーチが、勤務先の会社・学校の有り難い支援を受け、全てをかけ一切妥協せず打ち込みます。選手は、これが「世界一の合宿」だとの覚悟と誇りを持って、自分自身との闘いに負けず、全力でがんばって欲しいと思います。





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