「次は五輪王者を投げますよ」…笹本睦
約3週間の欧州遠征から帰国したグレコローマン60kg級の笹本睦(綜合警備保障)は、3週連続の減量と試合で疲れてはいたものの、「自信になりました」と遠征をふり返った。内容も納得がいくもので、世界選手権では確実に上位が射程圏内になったと確信したようだった。
「デモクリティア2002」(ギリシャ)、「ハンガリーグランプリ」(ハンガリー)の2大会で連続優勝。続けて優勝が期待された今遠征最後の「ミラノトロフィー」(イタリア)では2勝1敗で6位に終わった。今冬の遠征をふり返って、悔いが残るのはクラーツ(ドイツ)戦で敗れたことだ。
笹本睦の欧州大会成績 【デモクリティア2002】 優勝=14選手出場 【ハンガリーグランプリ】 優勝=15選手出場 【ミラノトロフィー】 6位=17選手出場 |
「分かりやすい試合をしないといけないと思いました。3大会に参加した中で、ひとつだけ負け。試合時間残り3秒で1ポイントを取られて負けてしまった。3秒しかなかったから何もできなかった。微妙な判定で、本当なら自分が勝った試合だと思っても、点を取られたらそれまでです。文句なしにポイントを取る試合をすることが、勝つことへつながるのだと思いました」
残り3秒でポイントを取られた敗戦を、笹本は自分の勝利だと思うことで気持ちを整理させようとしていた。何より、「本番」だと考える世界選手権の試合ではない。しかし、試合後にドイツのコーチから「あの試合はおまえの勝利だった」とミスジャッジを認める言葉をかけられたために、理不尽な結果への発憤が発動する。
「世界選手権では技をかけていって勝ちますよ」
連敗していたグルエンワルド(米国)に圧勝し、昨年の東アジア大会で敗れたカン(韓国)に失点なしで勝利。さらに昨年のヨーロッパ王者、スヴェラ(チェコ)も下している。苦手で、自分よりもハイクラスかもしれないとなんとなく感じていた選手に次々とリフトがかかった。彼らと同じクラスの土俵に上がったのだと実感したのだろう。
「以前は、ある程度のレベルの外国選手が相手だと、ローリングしかかかりませんでした。まだ理由はよくわかりませんが、今度はリフトもかかるようになってきている。どんどん投げていきますよ」
日本ではリフトをかけるばかりの笹本だが、世界では苦い経験もしている。シドニー五輪では、五輪二連覇を果たし、年間最優秀レスラーも獲得したナザリヤン(ブルガリア)に、いいように投げられた。ナザリアンとは昨年(2001年)の世界選手権(ギリシャ・パトラ)でも対戦し、リフトをかけられることはなかったものの、完全に相手のペースで試合を運ばれた。世界のトップを争う大会で、2度とも上位への進出を阻んだのはナザリヤンだった。
「次はナザリヤンを投げますよ」。スポーツ選手は、よく、自分の闘争本能を保つために、わざと強気な発言をすることがある。だが、笹本の予告は、次の世界選手権を見据えた現実的な言葉だ。秋のモスクワ(世界選手権=9月19〜22日)では、それまで見たことがない、ナザリヤンが宙に舞う姿を期待したい。
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