【特集】世界選手権に挑む(17)…グレコ55kg級・豊田雅俊




 徳島・穴吹高時代から、高校生離れしたリフト技を駆使し、将来の日本レスリング界を背負う逸材と言われた豊田雅俊(警視庁)。しかし高校卒業後、ベテランの佐々木昌常の壁を乗り越えられず、そのためスランプに陥ったのか、気がついたら村田知也や安原隆に追い抜かれてしまい、いつしか関係者の脳裏から忘れ去られようとしていた。

 だが、稀(まれ)に見る才能の持ち主はそこで終わらなかった。昨年の全日本選手権で10度目の出場で初優勝すると、年が明けてのコンコードカップ(米国)で優勝。今夏のピトライスニスキ国際大会(ポーランド)では、準決勝で01年欧州王者、決勝で97年世界王者を連破して優勝。地下にひそんでいた実力が一気に開花。やはり、その実力は並ではなかった。

 だが豊田の口からは「まだ、世界で勝つコツまではつかんでいない。自信はついているが、これからが勝負」と、遠慮がちな言葉しか出てこない。60kg級の笹本睦や84kg級の松本慎吾が「金メダルを狙う」とはっきり口にするのとは対照的。このあたりは、まだ世界選手権で力を試していない選手の引け目なのだろう。それとも、「意識しすぎるとダメ。硬くならずに戦いたい」という気持ちの表れか。

 しかし、燃えていないわけではない。昨年のこの階級は日本代表の村田知也がトルクメニスタン選手に5−6の惜敗。その選手が銀メダルを獲得していることに、けっこう自信をつけている。「1秒の勝負が大きな違いとなってくる。勝負はほんの一瞬」。いかに集中力を持続させて勝負どころを見極めるかが、勝敗の分かれ目。長い間、この壁に苦しんで勝てなかっただけに、世界選手権に臨むにあたって「一瞬の勝負」を大事にしたい。

 すでにビデオテープで出場が予想される選手の戦い方は研究済み。「まず1回戦に勝つ。そうすれば波に乗れる」。いくら元世界王者を破った実力者とはいえ、世界選手権に初出場する選手のもっともな気持ちだろう。まず初戦に勝負をかける。(取材・文・写真=樋口郁夫)


 ◎豊田雅俊の最近の主な国際大会成績

 《2003年》

 【コンコードカップ(米国)】=優勝
1回戦 ○[Tフォール、0:58=10-0] Neal Rodak(米国)
2回戦 ○[6−0] Lindsay Durlacher(米国)
3回戦 ○[3−2] Brandon Paulson(米国)
4回戦 ○[4−0] Neal Rodak(米国)
5回戦 ○[不戦勝] −−−

 【デーブ・シュルツ国際大会(米国)】=5位
予選1回戦 ●[フォール、5:25] Lindsey Durlacher(米国)
予選2回戦 ○[6−1] Anthony Gibbons(米国)
予選3回戦 ○[3−0] Enrique Montiel(米国)

 【ピトライスニスキ国際大会(ポーランド)】=優勝
予選1回戦 ○[9−4] Piotr Jablonsiki(ポーランド)
予選2回戦 ○[Tフォール、10-0] Tenyo Tenev(ブルガリア)
予選3回戦  BYE
準々決勝  ○[4−3] Ir Tchotchua(グルジア)
準 決 勝  ○[3−1] Boris Radkevich(ベラルーシ)
決    勝  ○[フォール] Ercan Yildiz(トルコ)




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