【特集】世界選手権に挑む(15)…グレコ84kg級・松本慎吾




 フリースタイルの世界選手権で、66kg級の池松和彦(日体大助手)が銅メダルを取り、メダルこそ逃したが55kg級の田南部力(警視庁)が2年前の世界王者を破った波及効果はグレコローマン・チームに広がっている。フリー・チームが帰国する前に始まったグレコ・チームの国内最終合宿では、「フリーに負けてたまるか」という雰囲気が充満していた。

 期待される84kg級の松本慎吾(一宮運輸)は、田南部の2年後輩であり、池松の2年先輩。2年ずつ同じマットで汗を流した間柄。燃えないわけはない。後輩のメダル獲得に刺激される。決して運がいいとは言えない組み合わせにもかかわらず五輪出場資格を勝ち取った先輩のガッツは見習わなければならない。「今のルール下では、組み合わせが何であっても、勝たなければならない」と実感する。この壁を打ち破るには、金メダルを目標にして挑む挑むこと。金メダルを取るためには、誰にも負けてはならない気持ちで臨まねばならないからだ。

 松本には、昨年の世界選手権(モスクワ)の初戦でハムザ・イェルリカヤ(28=トルコ)と大激戦をしたことが自信になっている
(写真右)。イェルリカヤは1993年に17歳のグレコローマン史上最年少で世界チャンピオンに輝き(この記録はまだ破られていない)、アトランタ、シドニー両五輪を含めて4度世界一となり、欧州選手権を7度制している強豪。これまでの日本代表選手では、ちょっと手に負えない相手だった。

 だが松本は果敢に挑み、2度もパッシブを取る善戦。結果的には、この2度のパーテールポジションで2度ともエスケープポイントを取られ、0−3で延長にもつれることなく敗れてしまったが、攻撃を受けて取られたのは1ポイントのみ。「たら、れば」になるが、エスケープポイントを奪われることがなければ、延長にもつれ、日本選手の強いスタミナ勝負で逆転できたかもしれない。

 上位入賞を逃したものの、世界V4の選手とここまでやれたことで、周囲からの期待度は一気に高まった。事実、その後の釜山アジア大会で金メダルを取って日本のエースに上り詰めた。しかし、本人には悔しさが残っていた。この1年間は、イェルリカヤへのリベンジを心に秘めてやってきたといってもいい。イェルリカヤへリベンジを果たせば、金メダルは目の前にある。

 5月中旬から約2ケ月の欧州遠征で、欧州選手と嫌というほど手合わせしてきた。「(日本では経験したことのない)投げられたりもしました。でも、その中で徐々に感覚をつかんでいき、ディフェンス力が上がりました。駆け引きも学びました」という成果を振り返る。

 遠征の最後のドイツ・グランプリでは、01年世界3位のアレクサンダー・ダラガン(ウクライナ)と第1ピリオドを0−0で終わる激闘。第2ピリオド開始時のクリンチで誤審といえる判定があり、これで流れを作られて負けてしまったが、いまの松本には世界のメダリスト・クラスの選手と互角にできる実力があることを証明した試合だった。

 もちろん、負けは負け。紙一重を乗り越えるため世界の強豪がひしめいている現実をもしっかりと受け入れ、「(あの類の)ミスジャッジはよくあること。いい経験をした」と、気持ちは前向きだ。

 帰国してからの2ケ月間で、得たものをしっかり消化し、いよいよその成果を発揮する時がやってくる。 8月のポーランド遠征では、練習中に腹膜筋(わき腹)を痛め、大事をとって棄権したが、「その分、ほかの場所を強化できました」と、すべてをプラスに考えている。

 目標は五輪出場資格獲得なんかではない。ずばり金メダル! 勝負の時は間もなくだ。(取材・文・写真=樋口郁夫)


 ◎松本慎吾の最近の国際大会成績

 《2001年》

 【グランマ国際大会(キューバ)】=2位
第1試合 ○[4−0] Jorge L. Robinson(キューバ)
第2試合 ○[5−1] Raul Soto(キューバ)
第3試合 ○[4−1] Rafael Gomez(キューバ)
決   勝 ●[0−3] Luis Mendez(キューバ)

 【東アジア大会(大阪)】=優勝
1回戦 ○[棄権、0:47=1-0] Erdenebileg, Alagdaa(モンゴル)
2回戦 ○[5−1] Jabrailov, Abdulla(カザフスタン)
3回戦 ○[4-2=8:50] Seo, Sang-Myon(韓国)

 【アジア選手権(モンゴル)】=2位
予選1回戦 ○[6−0] Mambetov, Asset(カザフスタン)
予選2回戦 ○[フォール、10-0] Pawar, Govind(イラン)
予選3回戦  BYE
準 決 勝  ○[4−0] Erofailov, Evgeny(ウスベキスタン)
決    勝 ●[1−2] Be Man Ku(韓国)

 【ピトライスニスキ国際大会(ポーランド)】
予選1回戦  BYE
予選2回戦 ●[0−4] Nettekoven, Tim (GER)(ドイツ)
予選3回戦 ●[3−8] Makarenko, Vyatcheslav(ベラルーシ)

 【世界選手権(ギリシア)】=13位
1回戦 ○[Tフォール、2:52=13−0]Jerry Van De Pool (オランダ)
2回戦 ●[2-3=8:06] Sandor Bardosi (ハンガリー)
3回戦  BYE

 《2002年》

 【デモクリティア2003(ギリシア)】=優勝
予選1回戦 ○[8−2] Gennady Shabanov(ウクライナ)
予選2回戦 ●[1−4] Dimitrios Avramis(ギリシア)
予選3回戦 ○[Tフォール、1:26=11-0] Andreas Pieri(キプロス)
敗復リーグ ○[5−2] Sergey Putenko(ウクライナ)
敗復リーグ ○[6−4] Bojah Mijatov(ユーゴ)
準 決 勝  ○[9−7] Bosch Ethan(米国)
決    勝 ○[3−0] Dimitrios Avramis(ギリシア)

 【ハンガリーグランプリ】
予選1回戦 ○[3−1] Bojan Mijatov(ユーゴ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ●[3−8] Marcin Letki (ポーランド)

 【ミラノ・トロフィー(イタリア)】=2位
予選1回戦 ○[フォール、0:45] Ivanov Stoianov(ブルガリア)
予選2回戦 ○[7−0] Nabil Elnarde(フランス)
予選3回戦 ○[フォール、4:34] Kosta Kostanjevic(クロアチア)
準 決 勝  ○[4−0] Istvan Szabo(ハンガリー)
決    勝  ●[3−4] Kim Jung-Sub(韓国)

 【ピトライスニスキ国際大会】
予選1回戦 ○[5−1] (チェコ)
予選2回戦 ●[1−3] (ギリシア)
予選3回戦 ●[1−3] (ポーランド)

 【世界選手権(ロシア)】
予選1回戦 ●[0−3] Hamza Yerlikaya(トルコ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[3−0] Seo Sang-Myon(韓国)

 【アジア大会(韓国)】=優勝
予選1回戦 ○[4−1] Ken, Mohammad(シリア)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[フォール、3:29=11-0] Surinder(インド)
準 決 勝  ○[3-1=6:11] Erofailov, Evgeny(ウズベキスタン)
決     勝 ○[4-3=8:43] Kim, Jung-Sub(韓国)

 《2003年》

 【デーブ・シュルツ国際大会(米国)】=優勝
予選1回戦 ○[不戦勝] Ethan Bosch(米国)
予選2回戦 ○[8−0] James Meyer(米国)
予選3回戦 ○[10−2] Jake Clark(米国)
準 決 勝  ○[5−4] Keith Sieracki(米国)
決    勝  ○[5−0] Aaron Sieracki(米国)

 【ドイツ・グランプリ】=6位
予選1回戦    BYE
予選2回戦  ○[4−0] Mohammed Babulfath(スウェーデン)
予選3回戦  ○[5−0] Kosta Kostanjevic(クロアチア)
決勝T1回戦 ●[0−5] Alexander Daragan(ウクライナ)




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