【特集】日本チームに誕生した若きエース…フリー66kg級・池松和彦




 3位決定戦で勝つことは、ある意味で、決勝で勝つより難しいと言われる。3位決定戦へ進むということは、準決勝で負けることであり、ここで緊張の糸がプツリと切れてしまうからだ。

 池松和彦(日体大助手)も準決勝で欧州チャンピオンのロシア選手に完敗した。外国の強豪の力を見せつけられ、心がしぼんでもおかしくはなかった。しかしパンアメリカン王者に向かっていく池松には、落ち込みは感じられなかった。リードされても、しぼむことなく戦った。

 後半は、明らかにばてている相手に対し、絶対に負けないという気迫がにじみ出ていた。「最後まで守りに入らず、攻め続けたのがよかった」。値千金の銅メダルは、勝利への執念のたまものだと言っていい。

 一昨年、昨年の世界選手権はともに予選リーグ敗退。世界の壁を知り、「アテネには間に合わないと思いました」と振り返る。だが昨年の大会で、シドニー五輪王者であり優勝したイラン選手に善戦しているのだから、いくらかの自信が生じたのではないか。そして今春のアジア選手権で銀メダル獲得。池松の心に、最初は小さくても、徐々に大きな自信が生まれていったはずだ。

 予選リーグで勝ち、五輪出場資格を獲得した時、喜びの表情がほとんどなかったことに、その自信が見てとれる。「メダルを目標にしていましたから」。五輪出場資格獲得など「通過点。当然」と言わんばかりの姿勢は、これからアテネ五輪までの日本チームのエースにふさわしい貫録と言えるだろう。

 もちろん、五輪で金メダルを取るために課題は多い。今のままでは、欧州王者に勝つことはできまい。「富山監督や和田コーチに、もっと教えてもらいたい。アテネまでの1年間がんばって、今回よりも上を狙っていきたい」。今回の銅メダルは、苦しい試練に打ち勝つための最高の刺激剤になるだろう。

 まだまだ伸びる可能性を秘めている23歳。日本チームに若きエースが誕生した。



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