【特集】これまでの練習が脳裏をよぎった…女子63kg級・伊調馨




 姉・千春の初優勝をウォーミングアップ場のモニターで見た伊調馨(中京女大)。自らがマットに上がる前に、吉田沙保里、山本聖子と優勝が続き、最高のムードができ上がっていた。しかし、会場の観客にはフラストレーションがたまっていた。48kg級、55kg級と決勝に出た地元選手が敗れていたからだ。それだけに伊調の相手のサラ・マクマン(米国)にかける期待は大きく、時に会場全体から「USAコール」が起こり、日本の快進撃を阻もうとした。

 伊調は、USAコールを聞いて「逆に燃えました」というが、意に反して3−3で延長にもつれる展開へ。3月に負けていることもあって嫌な予感もなくはなかったが、スタミナ勝負となれば練習量にまさる日本選手が有利。相手の動きを冷静に見切って決勝ポイントをマーク。姉に続いての優勝、2連覇を達成した。

 「攻め続ける気持ちでいたのに、リードしたことで、最後は守りに入ってしまった」。どんな選手でも優勝を意識すると、攻めるより守ることを考えてしまうものらしい。しかし、1点をめぐる攻防の時には、今まで練習してきたことや、チームメート、監督、コーチ、家族、友人など、応援してくれる人のすべてが頭に浮かび、「負けられない」という気持ちを生み出してくれたという。

 アップ場へ戻ると、ドーピング検査を終えた姉とがっちり抱き合った。練習時間以外で一緒にすごす時間はほとんどないという姉妹だが、昨年、自分が優勝した時に、自らが銀メダルに終わった悔しさを押し殺してうれし涙を流してくれた姉の気持ちを忘れることはなかった。「よかったね」。ことしは2人で優勝の感激を共有でき、2人でうれし涙を流した。

 2連覇を達成したとはいえ、反省することはたくさんあった。「練習して課題を克服していきたい。まずは増量と筋力アップ。外国選手のようなパワーを身につけなければダメだと思います」。10代で2度の世界一を経験した日本選手は伊調馨だけ。若くして世界の頂点に君臨する女王は、まだまだ向上心に燃えている。



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