【世界選手権・総評】銅メダル獲得の波及効果を期待…男子




 アジア選手権で日本唯一の銀メダルを獲得した62kg級の池松和彦が、世界選手権でも8年ぶりにメダルをもたらした。今春のアジア選手権は、新型肺炎(SARS)の影響と五輪予選である世界選手権を控えて各国ともベストメンバーを送らず若手中心の大会だった。そんな中での銀メダル獲得に、「本当の実力は?」と見る向きもあったが、池松の実力は本物だった。多くの国が集まる大会で勝ち、メダルを取ることが自信をつけさせ、いっそうの実力アップにつながることを証明した。

 特に3位決定戦でパンアメリカン王者のキューバ選手を接戦の末に破っての銅メダルは高く評価される。やはり日本選手のスタミナは抜群。後半勝負となれば、かなりの高さで勝利につながることが分かった。第1ピリオドの失点を防ぐことが、日本選手の勝利への道だろう。

 池松の技で目立ったのが外無双。予選3回戦のモンゴル戦で見事に決めて優位に立ち、この勝利で五輪出場権を獲得。それ以外の試合でも随所で仕掛け、実戦で試そうとする意思が見てとれた。最近の日本選手はなかなか組み合わず、離れてタックルというパターンが多く、元全日本コーチのセルゲイ・ベログラゾフ氏が「それでは世界で勝てない」と指摘してきた。

 うまくいけば3点を取れる外無双の効果を他の選手が知れば、日本のレスリングそのものが積極的に組み合いを挑む戦いに変わることになるだろう。8年前のメダル獲得者は、池松とほぼ同じ階級で活躍し、セコンドにもついている和田貴広・日本協会専任コーチだった。セルゲイの遺伝子を受け継いで世界のトップに踊り出た和田が、いまはその遺伝子を後輩たちに引き継ごうとしている。8年ぶりの銅メダルがもたらす波及効果は大きい。

 池松の快進撃を引っ張ったのは、チームのエースでもある田南部の奮戦だったことを忘れてはならない。初戦で01年世界王者に辛勝。一時は5−8となり、あきらめの気持ちが出てもおかしくない状況をひっくり返した勝利への執念で、チーム全体が燃えたことは事実。3回戦でも元グルジアのカナダ選手を破っていち早く五輪出場資格を獲得し、チームを引っ張ったからこそ池松の快挙があった。

 10位となって五輪出場資格に滑り込んだ小幡邦彦とともに、この3選手に共通していることは国際大会の多さである。3選手とも、ここ数年間で、世界選手権やアジア大会などのほかセーロ・ペラド国際大会(キューバ)、セルゲイ国際大会(ロシア)、デーブ・シュルツ国際大会(ロシア)といった大会を経験。この場数の多さが今回の好成績につながったと思われる。

 今回の銅メダル獲得によって、女子に負けじと強化補助金が増えていくことが予想される。それは海外遠征の機会が増えることを意味する。一時、「弱体 → 強化補助金の減少 → 弱体」の悪循環に陥っていた男子レスリングは、いま間違いなく好循環に転換してきている。王国復活の曙光(しょこう=夜明けの光)が、はっきりと見えてきた。(文=樋口郁夫、文責=日本協会広報委員会)



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