【特集】世界選手権に挑む(12)…女子63kg級・伊調馨
世界選手権に初出場初優勝しても、そのまますんなりと連勝記録を続けることのできる選手は、そう多くはいない。山本聖子は、世界一になった直後に階級を上げたこともあって清水真理子に2連敗。清水の壁を乗り越えて56kg級で世界一になったと思ったら、その半年後に伊調馨にフォール負けしてしまった。吉田沙保里も初出場初優勝の選手だが、今春、山本聖子に2連敗し、一時は世界選手権出場が危うくなった。
18歳で世界選手権初出場初優勝を果たした伊調も例外ではなかった。ことし3月のクリッパン国際大会で(スウェーデン)で、世界選手権ではフォール勝ちしたサラ・マクマン(米国)に判定負け。世界チャンピオン奪取後の初の国際大会でつまずいてしまった。
順調に世界のトップに駆け上がると、油断といった気持ちが出てしまうのか。だが伊調は「体重の影響です」と分析し、油断説を一蹴する。なぜか冬の間に体重が落ちてしまい、とても63kg級の選手の体重ではなかったという。「相手が重かったです」。だが、これもやはり“油断”なのではないか。
その結論は置いておくとして、この経験から伊調は体重調整ひとつをとってみても、万全でなければ勝てない現実を知った。世界V2の課題に、まず体重を挙げ、「減らさなければ大丈夫です」と自信を見せる。
世界選手権へ臨む気持ちは、「去年より落ち着いているような気がします」と言う。デフェンディング・チャンピオンとして世界中の選手から研究されていることが予想されるが、「研究されても、勝つだけです」と言い切り、不安を蹴散らす。
ことし7月の日本代表の最終選考試合では、報道陣の数の多さに「硬くなって体が動かなかった」というコメントが多くの紙・誌面に流れた。今度の舞台は2万2000人が入るマジソン・スクエア・ガーデンで、取材する社は250社。日本からも多くのマスコミが押しかける。その面では大丈夫なのか?
伊調は「あれは(カメラマンが)マットに近かったからですよ」と笑う。試合のあったのは国立スポーツ科学センターのレスリング場であり、マットサイドに限りなく近いところにカメラマンが陣取った。大会ではありあえないシチュエーションであり、それに戸惑いを感じたのだという。世界選手権では、カメラマンはあそこまでマットに近づくことはないだろうから、「それなら大丈夫です。アジア大会(釜山)でも、観客とマスコミが多かったですよ」と言う。
もっとも、そのアジア大会では決勝で中国選手(シュ・ハイアン)に敗れて銀メダルに終わっている。世界一になったのはその後のことで、シュとの対戦はなかった(シュは4位)。「やはり中国に勝って優勝したい」。マクマンとシュを倒してこそ、誰からも認められる真の世界チャンピオンと言える。デフェンディング・チャンピオンでありながら、ある部分ではチャレンジする世界選手権。健闘が期待される。(取材・文/樋口郁夫)
※「歴代世界チャンピオン」の項目参照 ⇒
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【伊調馨の最近の主な国際試合の成績】
《2002年》
【アジア大会】=2位
リーグ1回戦 ○[フォール、2:04=7-0] Kokorina,
Oksana(トルクメニスタン)
リーグ2回戦 ○[フォール、2:59=8-0] Chuang,
Shu-Fang(台湾)
リーグ3回戦 ○[フォール、1:46=5-0] Hang,
Jin-Young(韓国)
決 勝 ●[5−6] Xu, Haiyan(中国)
【ワールドカップ】=優勝
リーグ1回戦 BYE
リーグ2回戦 ○[Tフォール、10-0] Basulina,
Olga(ウクライナ)
リーグ3回戦 ○[フォール、4-0] Elashram,
Sara(エジプト)
リーグ4回戦 ○[6−3] Meng, Lili(中国)
リーグ5回戦 ○[フォール、5-0] Ben Sassi,
Soumaya(チュニジア)
リーグ6回戦 ○[4−3] Volossova, Lubov
Michailovna(ロシア)
リーグ7回戦 ○[10−3] Yanik, Viola(カナダ)
【世界女子選手権】=優勝
リーグ1回戦 BYE
リーグ2回戦 ○[フォール、2:01=5-0] Yoon,
So-Young(韓国)
リーグ3回戦 ○[フォール、2:58=4-3] McMann,
Sara(米国)
決勝T1回戦 ○[4−1] Bassa, Malgorzata(ポーランド)
準 決 勝 ○[3−0] Aanes, Lene(ノルウェー)
決 勝 ○[フォール、4:38=4-0] Eriksson,
Sara(スウェーデン)
《2003年》
【クリッパン国際大会】
予選1回戦 BYE
予選2回戦 ●[判定] Sara Macmann(米国)
予選3回戦 ○[フォール] Madelen Nilsson(スウェーデン)
【ポーランド・オープン】=優勝
予選1回戦 ○[Tフォール、3:59=11-0] Oxana
Shalikova(ウクライナ)
予選2回戦 ○[フォール、5:48=12-3] Anna
Polavneva(ロシア)
予選3回戦 ○[5-0=6:03] Malgorata Bassa(ポーランド)
準 決 勝 ○[フォール、4:49=7-2] Lene
Aanes(ノルウェー)
決 勝 ○[Tフォール、5:33=10-0] Stephanie
Gross(ドイツ)