【特集】世界選手権に挑む(6)…フリー96kg級・中尾芳広



 高校時代(東京・東京工高)は全国大会無冠。大学(東洋大)でも学生タイトルを取ることができなかった“雑草”が、アジア大会出場を間にはさんで2年連続で世界選手権に出場し、アテネ五輪を目指すことになった。

 自衛隊を経て現在のエスピー・ネットワークに入社し、01年の全日本選手権で「29歳5か月28日で初優勝」という史上4位の遅咲きでやっと優勝。“雑草”たちの見本となるようなストーリーを“書き始めた”。そのストーリーの最後は、遅咲きの先輩である長島偉之(30歳1か月6日で全日本初制覇し、翌年ロサンゼルス五輪出場)や三宅靖志(29歳9か月27日で全日本初制覇し、3年後にアトランタ五輪代表)らと同じく、五輪出場へ展開させて完結させたい。

 世界選手権初出場となった昨年は、直前に半月板の手術をやらざるをえない状況となり、日本を発つ1週間前に退院という状況。練習不足であり、不安をかかえて不本意な状態で大会に臨んだ。しかし、そんな状況でも3位に入ったバディム・タソエフ(ウクライナ)と1−4の試合をするなど、「あの状態でもまずまずできたことは、いい勉強になった」と振り返る。

 今回は「けががないこと」を考えて夏の練習を乗り切った。以前の全日本合宿での測定で記録した背筋力300kgは、日本歴代最高級。しかし、背筋力の高さがレスリングの強さに直結するものではないことは十分に承知済み。このパワーを「レスリング的なパワーに変えて試合で使えるようにすること」を心がけている。

 さらに日本選手特有のスタミナの強さも、外国選手と戦ってみて「上回っている」と実感している。パワーで相手の攻撃をしのぎ、後半へ持ち込めば十分に勝機はやってくる。「0−0でクリンチになったら勝てる」と言い切れる自信も頼もしい。「ここまできたら、注意するのはケガだけです」。ことしは万全の状態で臨めそうだ。(取材・文・写真/樋口郁夫)


 【中尾芳広の最近の国際大会の成績】

 《2002年》

 【キエフ国際大会】=8位

予選1回戦 ○[不戦勝] Olexandr Sitinsky(ウクライナ)
予選2回戦 ●[0−6] Sergiy Priadun(ウクライナ)
予選3回戦 ●[1−6] Olexey Mastepanov(ベラルシア)

 【ヤシャドク国際大会】
予選1回戦 ●[2−4] Michal Stanislaeski(ポーランド)
予選2回戦 ●[0−3] Vusal Muslumov(アゼルバイジャン)
予選3回戦 ●[0−5] Islam Bailmukov(カザフスタン)

 【ヤリギン国際大会】
予選1回戦 ○[6−1] Azamat Tochiev(ロシア)
予選2回戦 ●[3−2] Roman Kudriavtsev(ロシア)
予選3回戦  BYE

 【世界選手権】

予選1回戦 ●[1−4] T. Enkhtuya(モンゴル)
予選2回戦 ●[1−4] Vadim Tasoev (ウクライナ)
予選3回戦  BYE

 【アジア大会】=8位

予選1回戦 ●[0−3] Kang, Dong-Guk(韓国)
予選2回戦 ○[Tフォール、2:18=10-0] Shareeda, Walled(カタール)
予選3回戦 ●[0−8] Krupniakov, Alexej(キルギスタン)




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