【特集】攻撃レスリングで全国中学V3を達成…小田裕之



 6月7〜8日に茨城・水戸市で行われた全国中学生選手権で、レスリング史上に残る快挙が達成された。53kg級の小田裕之(三重・久居)が3階級にわたって3年連続優勝。1年生の時から勝ち続けていたわけで、29年にわたる大会の歴史の中で3人目(女子を入れると5人目)の偉業となる。

 1年生の時に、1学年のみならず2学年上の選手を相手にして優勝しなければ達成できない記録。この年齢での1歳違いは体力的にかなりの差があるので、いくら少年レスリングが盛んになったとはいえ、そう簡単にできることではない。

 逆に言うならば、1、2年生で連覇すれば、あとは同い年か年下選手との戦いだけになるので、その可能性は高くなる。昨年、2年生でV2を達成した段階で、「3年連続優勝」は本人の視野にしっかりととらえられていた。それは、「自信ありました。練習してきたので当然だと思います」という言葉に表れている。

 階級を上げたことも、何の問題もなかった。昨年はマークする選手がいたが、ことしは出場選手をよく知らなかったこともあって、特にいなかった。「体力の差は感じませんでした。不安? う〜ん…」。負けることなど全く考えていなかった様子で、注意することは「先にポイントを取られると焦ってしまうから、絶対に先取点をやらないこと」。その思い通りの試合ができ、失ったポイントは準決勝で失ったわずか1点。このことを話した時は、「悔しい!」と語気を強めた。

 昨年は5試合で1点を失っており、ことしは0失点が目標だったようだ。ちなみに、昨年は5試合でスコアのトータルは50−1、平均タイムは1分37秒だった。ことしは6試合を戦いスコアは57−1、平均タイムは1分49秒。平均時間だけを比べれば「てこずった」ということになるが、あっさり勝ってしまっては勉強にならないから、十分に技をかけて攻撃し、“実践練習”を積んでから試合を決めたという感じ。フォール勝ち4試合のうち、3試合は10ポイントを超えた段階でフォールしているのだ。

予選1回戦    BYE
予選2回戦  ○[フォール、0:40=11-0]山岸大悟(神奈川・生麦)
予選3回戦  ○[フォール、2:16=12-0]山田一徳(福井・武生一)
決勝T1回戦 ○[フォール、0:17=5-0]神谷竜二(愛知・高浜)
準々決勝    ○[フォール、1:48=10-0]神田大輔(青森・弘前三)
準 決 勝   ○[Tフォール、3:01=13-1]高谷惣亮(京都・網野)
決    勝   ○[フォール、2:56=6-0]三浦和也(秋田・羽城)

 実力やキャリアの差があれば、返し技などで簡単に勝つことができる。少学生時代の強豪は、中高生あたりになると、楽に勝つことを覚えてしまい、攻撃レスリングを忘れてしまって世界で全く通じない選手となってしまうケースが少なくない。だが今の小田には、十分な実力差がありながら攻撃を忘れずに勝ちにいく姿勢がある。この基本を忘れない限り、世界で通じる選手に育つ可能性は十分だろう。

 まだ進む高校は決めていない。しかし、「どこへ進んでも、努力を忘れないことが大事だと思います。努力で勝ってきましたから」という言葉に、今後の飛躍を誓う意志が十分に伝わってくる。

 過去V3選手を達成した松永共広(現日体大研)は、昨年世界学生チャンピオンに輝き、あと一歩で世界6位の田南部力(警視庁)を追い越せるまでに育った。松本真也(現日大)は2年連続でアジア・カデット王者となり、世界で通用する選手の足がかりをつくった。「小田裕之」の名が彼らに続く選手として知れ渡るのは、そう遠い先のことではなさそうだ。

(取材・文/樋口郁夫)


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