【特集】「東よりも先に女子リーグ戦を実施します!」…西日本学生連盟・伴義孝会長




 “東高西低”という状態が続いている学生レスリング界。最近は立命館大から世界選手権の日本代表選手が生まれるなど、改善の兆しが見えてきた。

 この勢いを逃してはならないと、西日本学生界の改革を推し進めようとするのが、この4月に会長に就任した伴義孝氏(関大レスリング部顧問
=写真右)。かつて国際審判としてならし、76年モントリオール五輪、84年ロサンゼルス五輪、88年ソウル五輪、92年バルセロナ五輪の4大会に出場した(モスクワ五輪に日本が参加していたら5大会)。米国とスイス在住の経験もあって英語は堪能。国際的な視野を持っている。

 1996年に国際特級審判を返上(現在は名誉審判)、日本協会の役職も降りた。その後は西日本学生連盟の副会長職として岩野悦真会長の補佐に力を注いでいたが、このほどトップに立ったことで活動欲がいっそう高揚した様子。西日本レスリング界に、新たな道を切り開こうと張り切っている。

 “東高西低”の打破が西日本学生連盟のトップに長年課せられた使命であるが、伴会長は、「学生スポーツの基本を忘れてはならない」と強調する。「4年間のレスリング活動を通じ、社会でも通じる人間に育ってほしい。このことを忘れてまで、レスリングの実力で東に追いつこうとは思わない」と言う。クラブ運営や大会運営は学生を主役として行動させることで、責任感を持った行動を望み、勉強をおろそかにしてはならないと各クラブに徹底していきたいという。

 また競技人口の減少はレスリング界にとって由々しき事態。西日本はこの10年間に天理大、立命館大、東亜大、日本文理大、中京学院大が加盟した一方、廃部となった大学もあり、トータルは横ばい状態。伴会長は「レスリングの加盟数の少なさは、あらゆる競技の中で最低レベル。一丸となって普及に努力しなければならない」と警句を発する。その解消には「協会を挙げた取り組みが必要」と訴え、その一案として提案するのがインターハイにおけるグレコローマンの実施だ。

 国体の成績は、時期的に大学の推薦入試に引っかからない。インターハイでグレコローマンを実施することで、大学の推薦枠に引っかかる選手が多くなり、競技人口の増大につながるという。日本グレコローマンのレベルアップにもつながるので強く提案したいという。

 その前段階として望みたいのが、日本協会と傘下連盟代表による懇談会だ。現在、日本協会の傘下連盟間のパイプが強いとは言いがたく、これはレスリング界に大きなマイナスだと主張する。「高体連に学生レスリング界の事情を分ってもらい、逆に学生レスリング界が高体連の事情を理解することで、プラスになる何かが生まれるはず。各連盟が独自に活動していては1+1が2にしかならない。横のつながりを持つことで、1+1が3にも4にもなる」。

 さらに、その前段階として、「東日本学生連盟と西日本学生連盟がもっと密にならなければならない」とも言う。張り合う気持ちが強いのか、東西の学連間でもあまり交流がないのが実情だ。「大学レスリング界の競技人口の減少は、全体で力を合わせて取り組んでいかなければならない問題。全体で発展を考える努力をしていきたい」とし、もっと活発な交流を訴えた。
(写真左は西日本学生リーグ戦)

 問題の“実力”に関してだが、これまでにも石森安一(大体大=ロサンゼルス五輪代表)、中井直也(同大)、大橋理秀(桃山学院大)ら全日本レベルで通用する選手は出てきていた。立命館大が加盟して以来、さらなる底上げが感じられるという。

 立命館大は昨年、84kg級の仙波勝敏が全日本選抜選手権で勝って世界選手権とアジア大会に出場し、インカレでも優勝。66kg級の鈴木崇之が1年生ながらインカレ3位に入賞。全日本大学選手権では2選手が3位に入賞し、対抗得点で8位に食い込んだ。全日本学生王座決定戦でも東日本一部大学の東洋大を破り、日体大に2−5と食いついた。

 「(日体大卒の)太田充洋君の入った日本文理大(今季二部優勝)も強くなりますよ」と期待を寄せている。こうした全体の底上げは、高校の監督にも徐々に浸透しているそうで、強豪を送ってくれるケースも増えてきたという。「5年後、10年後を見ていてください」と言う。

 東日本を意識したわけではないだろうが、西日本学生連盟ではホームページの開設、女子大会の実施、ビデオの導入
(写真右)などを東日本に先駆けて取り入れた。伴会長は「東日本を挑発するつもりではありませんが」と前置きしながら、次に東日本よりも先にやりたいのが女子の対抗戦またはリーグ戦の実施だという。一昨年、中京女大が連盟に加盟し、昨年は西日本学生選手権で女子の部をスタートさせた。中京女大、福岡大、関大の出場しかなく、3階級で出場1選手、1階級で出場なしだったが、五輪種目となった女子を放っておいてはならない。「各大学に呼びかけ、選手を増やして、必ず東より先にリーグ戦を実施します」と公約した。

 審判員の実力は西の方が上という現実もある。伴会長のほか、福田耕治、中田保彦、岩井角夫、坂口和夫、上誠一、芦田隆治(敬称略=順不同)の国際特級審判の経験者(福田、芦田は現在も特級)が関西に在住。西日本の大会にはボランティアでホイッスルを吹いてくれるという。「この団結力というか、アトホームな面を見てください」と、西日本の魅力をアピールする伴会長。「いろんな方々やいろんな連盟との共存共栄で、西日本学生界、しいてはレスリング界を発展させたい」と声を強めた。

(取材・文/樋口郁夫)



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