V4の松本慎吾が明治乳業杯獲得…全日本選抜選手権



 ことしの世界選手権の代表選考を兼ねた明治乳業カップ全日本選抜選手権は5月2日、各階級の3位決定戦と決勝が行われ、昨年の天皇杯受賞選手であるグレコローマン84kg級の松本慎吾(一宮運輸)が4年連続4度目の優勝を遂げ、明治乳業杯を獲得した。

 優秀選手は、フリースタイルが55kg級優勝の田南部力(警視庁)、グレコローマンが60kg級優勝の笹本睦(綜合警備保障)。

 フリースタイルの60、66、120kg級の3階級で昨年の全日本選手権と優勝者が違い、全試合終了後にプレーオフが行われ、世界選手権の代表が決まった。正式には6月24日の日本協会理事会で決定される。

 各階級の結果は下記の通り。


 ◎フリースタイル

 【55kg級】
 
 ▼3位決定戦
長尾勇気(宮崎・宮崎工高教)○[3−2]●斎藤将士(日大)

 ▼決勝
田南部力(警視庁)○[3−1]●松永共広(日体大研)

 
《経過》松永が先にパッシブを取り、パーテールポジションからローリングを仕掛けるが、田南部がこらえる。田南部は逆にパッシブを取ってからのローリングを見事に決めて2点を先行した。

 第2ピリオドに入っても田南部が優勢に試合を進め、パッシブを取った。このあとの攻撃はノーポイントに終わったものの、スタンドから片足タックルをしつこく決めて3点目を獲得。松永の攻撃に不本意な場外逃避を取られて1点を失ったものの、3−1のスコアで勝った。田南部は2年連続4度目の優勝。(写真は赤が田南部)

 ○…アンクルホールドを得意とする田南部が、バックを取ってのローリングでポイントを取り、その得点を最後まで守り抜いた。アンクルホールドが研究されていると思い「(昔の得意技である)ローリングを使おうと思いついた。一方へ行くと見せかけて反対側に決めるローリングです」と、作戦勝ちを強調した。

 96年に大学3年生で全日本王者に輝いた田南部も、28歳となり体力の維持が課題となる域に入ってきた。当然、練習にも変化があり、以前は1日6時間、がむしゃらに練習していたのが、今は1日3時間程度。しかし質は高まっているという。「練習を長くやると、時間がもったいない」とさえ言う。質にはかなりの自信があるようだ。「世界選手権は金メダルを獲るために出ます」ときっぱり。

 【60kg級】

 ▼3位決定戦
太田亮介(警視庁)○[3-1=8:37]●松尾大士(日体大研)

 ▼決勝
関川博紀(新潟・三条工高教)○[3−0]●井上謙二(自衛隊)

 
《経過》井上が先にパッシブを取り、ローリングで攻めるが決定力に欠ける。このあと、関川が低い位置への正面タックルで1点を先行。第2ピリオドへ入っても関川が片足タックルから回りこんで1点を加えた。

 関川は完全に試合のペースをにぎり、ラスト1分にもパッシブを取る。これのパーテールポジションはノーポイントに終わったが、ラスト15秒でも相手のバランスが崩れたところを攻め、バックを取って貴重な3点目。延長にもつれることなく勝った。関川は2年ぶり2度目の優勝。(写真は青が関川)

 ▼プレーオフ
太田亮介(警視庁)○[3-1=8:23]●関川博紀(新潟・三条工高教)

 
《経過》お互いに攻めるが、両者とも防御もうまくともにポイントにつながらない試合は、関川がパッシブを取って突破口を開こうとするが、アンクルホールドは決まらない。太田のパッシブからのパーテールポジションも無得点。

 第2ピリオドのクリンチは、1分たっても両者ともポイントがなく、コイントスで勝った関川が1点を失った。このあとの太田のグラウンド攻はノーポイントだったが、ブレークのあと正面タックルを決めて2−0へ。

 そのままのスコアで延長へ入り、クリンチから再び静止状態が続き、太田が先に攻めたが組み手がはずれて1点を失ってしまった。ラスト1分15秒、関川が片足タックルで攻めるが惜しくも場外。逆に太田が片足タックルからテークダウンを奪い、3−1で振り切った。(写真は赤が井上)

 ○…初日の準決勝で負けた太田亮介がプレーオフで生き返った。「気持ちを切り換えて臨んだ。昨日はちょっと油断があったのかもしれない」と振り返る。

 プレーオフの相手の関川は全日本3度優勝の強豪であり、昨年の全日本選手権決勝でも延長7分56秒で辛勝した相手。しかし「年寄りには(世界へ)絶対に行かせたくなかった。内容を振り返ったら雑だったかもしれないけど、あしいうベテランを倒すにはいい内容だったんじゃないかと思う」と言う。

 「世界に出られるのは僕しかいないと言い聞かせていた」そうで、「今大会は3位だったけど、世界選手権では必ず10位以内に入ってオリンピック出場を決めたい」と、力強くアテネ五輪ロードのスタートを宣言!。

 【66kg級】

 ▼3位決定戦
金渕清文(国士大助手)○[3−0]●筧田幸宏(国士大助手)

 ▼決勝
池松和彦(日体大助手)○[5−1]●宮田和幸(クリナップ)

 
《経過》池松がパッシブを取ってパーテールポジションで攻めるが、無得点。しかしブレークのあと、宮田のすきをついてバックを取り、1ポイントを先制した。その後も積極的に攻め、第1ピリオドのラスト44秒にバックを取って2−0へ。終了間際にも2点を加えた。

 第2ピリオドは宮田が片足タックルで1点を返したが、後が続かない。終盤の宮田の必死の呼応激も、池松がすべて見切り、最後にも1点獲得。5−1で終了のホイッスルを聞いた。池松は3年連続3度目の優勝。(写真は青が池松)

 ▼プレーオフ
池松和彦(日体大助手)○[4−0]●宮田和幸(クリナップ)

 
《経過》池松の片足タックルを受けて下がったしまった宮田。場外逃避の警告となり、池松が1点を先行。第1ピリオドの中盤と終盤にもタックルを決めて3−0とした。

 第2ピリオドも池松の攻勢が続き、タックルで場外逃避を誘って1点を追加。そのままのスコアで勝った。(写真は青が池松)

 ○…昨年の世界選手権代表の池松がシドニー五輪代表の宮田を相手に本戦、プレーオフと連勝し、ことしも日本代表を獲得した。「今年の世界選手権はオリンピックがかかっているので、絶対にこの大会に勝たなければならなかった。これが最後というつもりで頑張りました」と、五輪を目標に頑張ることができたという。

 プレーオフに勝ったあとは「ホッとしました。試合前には負けたらどうなるのかなとかいろいろ考えましたけど、なくすなくすものは何もないので全力で集中してやろうと考えました」と言う。宮田がオリンピックに出た選手なので、「その人を倒して自分が出るという気持ち」があったそうだ。「世界選手権では10位以内というよりトップを狙うつもりで頑張ります」と優勝宣言!

 【74kg級】

 ▼3位決定戦
工藤祐士(東和タクシー)○[4−2]●中筋裕太(日大)

 ▼決勝
小幡邦彦(綜合警備保障)○[5-4=8:52]●長島和幸(早大)

 
《経過》小幡の突進を長島がうまく首投げを決め、けさ固めでがっちりと押さえ込んだ。そのままフォールかと思われたが、小幡が必死に返し1回転してバックを奪う。ブレークのあと、怒り心頭の小幡はタックルから一気に2点を獲得。

 第2ピリオドは、45秒ころに小幡がバックを取り4−4の同点へ追いつく。その後も前へ、前へと出るがポイントにはつなげられず、延長へ突入。40秒ころに小幡がパッシブを取り、パーテールポジションで攻めるがノーポイント。ラスト数秒、このままでは負けとされる長島が勝負をかけてタックルへいったところを、小幡がうまくかわして3点目。苦戦しながらも地力を見せた。小幡は3年連続3度目の優勝。(写真は赤が小幡)

 ○…国内で無敵を続ける小幡が、長島の首投げを受けてあわやフォール負けのピンチを迎えた。「相手にポイントを先制されたら、だいたい負けパターンにはまってしまう。海外では特にそうなんですよ。今日も(いきなりフォール寸前まで追い込まれて)ヤバいかなと思った」という。

 しかし、このビハインドで闘志に火がつき積極的な攻撃につながった。「結果的に自分の攻撃を試せたので、良かったんじゃないですかね」と、これも試練というふうにとらえることにしたようだ。しかし「普通に戦ったら問題のない相手なんだけど、最初のミスですっかりリズムが狂ってしまった」と反省を忘れず、「とりあえず代表権は獲ったけど、気は抜かないようにしたい」と、気を引き締めて世界選手権へ臨む。

 【84kg級】

 ▼3位決定戦
横山武典(岡山県協会)○[Tフォール、1:02=10-0]●浜中和宏(高田道場)

 ▼決勝
横山秀和(秋田・秋田商高教)○[3−0]●磯川孝生(拓大)

 
《経過》横山がパッシブを取り、ローリングを仕掛けるが磯川はうまい身のこなしで粘る。そのまま0−0で第2ピリオドへ。コインとスで勝った磯川だが、横山が内がけで倒し、グラウンドで2点を追加した。

 その後、磯川が18歳の若手らしく積極的に攻めるが、32歳の横山がベテランらしい身のこなしでかわし、そのままのスコアでタイムアップ。横山は4年連続4度目の優勝(フリースタイルは初優勝)。(写真は赤が横山)

 ○…ベテランの横山が、高校五冠王の期待の大学選手を下し、久しぶりにフリースタイルの日本代表権に獲得した。

 「動きは100%ではなかったし、戦った感じで相手の手ごたえがあったので、苦戦するなと思ったんですけど」と言うが、若くて力強さのある磯川の攻撃をベテランらしい身のこなしでしのぐうまさは以前のまま。「クリンチには自信があった」そうだ。

 磯川とは昨年の全日本選手権でも戦っている(6−3の判定勝ち)。その時はまだ大分・日本文理大付高の高校生だったが、自分が高校の先生であるので「生徒には負けられない」という気持ちが強かったという。磯川が拓大へ進学したので、「いくらか気持ちは楽になった」という。

 それでも、出てくるのは磯川へのほめ言葉ばかり。「勝つための集中力が素晴らしい。重みや力強さがあって、前半は苦労してなかなか得点を取ることができなかった」と話し、自らの日本代表返り咲きより、若い磯川の将来性を強調していた。

 【96kg級】

 ▼3位決定戦
川合達夫(群馬・板倉高教)○[5−0]●森山政英(日体大)

 ▼決勝
中尾芳広(エス・ピー・ネットワーク)○[3-2=6:01]●小平清貴(警視庁)

 
《経過》小平が開始早々の片足タックルで1点を取り、ローリングでさらに1点。このあと一進一退の攻防が続き、第2ピリオドに入って小平がパッシブを取り攻めるがノーポイント。終盤、中尾が回りこんで1点を返す。

 延長に入り、クリンチからタイミングが合わずに1度ずつの注意のあと、小平の組み手が反則に取られて痛恨の2失点。中尾の手が上がった。中尾は2年連続2度目の優勝。(写真は赤が中尾)

 ○…中尾が辛うじて小平を下し、昨年に続いて2年連続優勝を達成した。

 「恥ずかしい話だけど、大会前、風邪をこじらせて体調を崩してしまった。今日も熱が38度ちょとある中での試合だった。おかげで試合前から疲労していました」と言うが、延長戦になった時でも、汗が出てきて体が動き始めた矢先だったから「負けることはないなと確信していた」ときっぱり。

 問題の場面は、最初は小平に2ポイント入ったが、その後、ビデオ確認の結果で中尾のポイントとなる後味の悪い結末。「それでも僕は自分の勝ちを信じていました」と話し、負けることは全く考えていなかったという。

 (注:全試合終了後の強化委員会で、両者は世界選手権代表をかけて5月23日に再戦が決定)

 【120kg級】

 ▼3位決定戦
沢田直樹(拓大)○[フォール、5:59=8-2]●幸野亨(大東大)

 ▼決勝
諏訪間幸平(クリナップ)○[3-2=6:03]●田中章仁(専大)

 
《経過》田中、諏訪間の順でがパッシブを取ってグラウンドで攻めるが、ともにノーポイント。第2ピリオドはクリンチでスタート。コイントスで勝った諏訪間がそり投げを失敗して田中が2点を獲得。さらにパッシブを取り(スタンドを選択)攻勢に試合を進めるが、ポイントにまではつながらない。

 延長に入り、クリンチから田中がそり投げを仕掛けるタイミングで諏訪間がおおいかぶざり、値千金の3点を獲得。逆転勝ちした。諏訪間は初優勝。(写真は青が諏訪間)

 ▼プレーオフ
諏訪間幸平(クリナップ)○[7−5]●田中章仁(専大)

 
《経過》田中がタックルで1点を先制。さらに正面タックルを決め、開始から1分15秒で4−0とリードした。諏訪間は投げ技をタイミングよく決めて3点を取ったが、すぐに返されて1点を失う。3−5。

 第2ピリオドは一進一退のまま、お互いにポイントにつなげられる呼応激がなかったが、ラスト30秒を切ったころに諏訪間がタックルで田中を押し倒し、3+1点を獲得。諏訪間が執念の逆転勝ちお演じた。(写真は青が諏訪間)

 ○…諏訪間が本戦、プレーオフとも前半の劣勢をばん回して勝ち、初優勝を遂げるとともに初の日本代表権をゲットした。

 本戦で勝ったあと、「プレーオフがありますから」と、試合間隔が十分にあるにもかかわらず取材を一切拒否し、次の試合に備えた。プレーオフで勝つと、その分もじょう舌になり、「とうとう世界に出ることができてうれしい。今までで一番うれしいです。きついことやってきてよかった。警視庁のトップレベルの方たちとの練習で、苦しくてもついていった。2Rも苦しかったけど練習の方がきついことをやっていたから試合の方が楽でした」と、うれしそうに話した。

 これまで全日本のトップレベルをキープしていたものの、優勝や日本代表には縁がなかった。「諦めないでやっていてよかったです。世界選手権では出場資格を取れるよう練習し直します。投げが得意なので、四つ組みとかができれば世界でもチャンスはあると思います」と初のチャンスに燃えていた。

 ◎グレコローマン

 【55kg級】

 ▼3位決定戦
村田知也(滋賀・日野高教)○[フォール、2:16=5-0]●藤田康人(日体大)

 ▼決勝
豊田雅俊(警視庁)○[4-0=6:05]●安原隆(自衛隊)

 
《経過》豊田が安原の攻撃をかわしながら攻め、先にパッシブを取る。パーテールポジションからローリングを決めて1点先行。安原は第1ピリオドのラスト30秒秒にパッシブを取るが、ローリングは決まらない。

 第2ピリオドは1分経過ころに安原がパッシブを取る。しかしローリングはあと一歩のところで決まらない。その後もスタンドの攻防で一進一退が続き、第2ピリオド終了。延長へ入ってのクリンチは、1度ずつ注意されタイミングが合わない。ようやくスタートしたあと、豊田がそり投げ気味に1回転して安原を転がし3点を獲得。4−0で勝った。豊田は2年ぶり3度目の優勝。(写真は赤が豊田)

 ○…昨年末、やっと全日本王者に輝いた豊田が、そのときに続いて安原を撃破。初の世界選手権代表を手にした。

 安原は準決勝で昨年の世界選手権代表の村田知也を破り、リベンジ燃えてきた。しかし豊田は「ガチャガチャしてくるタイプなので、それに合わせてしまうとリズムが崩れるので、前半は自分のペースを保って焦らないように心がけていました」と作戦通りの試合運び。延長にもつることも計算し「最後(クリンチ)に集中しようと思って」後半も無理に仕掛けなかったという。スタミナは十分に残っていて、差し押しも思い通りにできたという。

 豊田といえば、高校時代から豪快なリフト技を武器に抜け出てきた逸材。しかし20代後半となり、いつまでも昔ながらのレスリングはできなくなる。剛速球投手が年齢を重ねるとともに変化球投手に変わっていくように、豊田もレスリングを変えている。もう豪快なリフト技にはこだわらず、ローリングで確実に1、2ポイントを取り、スタミナ勝負で勝つ戦法に変えているという。「全日本選手権に続いて、今回もそれに徹し、成功したかなと思います」と振り返った。

 世界でもこの戦い方が通用できるようになることがこの後の課題だろう。「スタミナと技をもう一段階磨き、世界選手権でぜひとも10位以内に入って、オリンピックの出場権を獲得したい。まず一つに絞って頑張りたいと思います」と今秋の闘いを見据えていた。

 【60kg級】

 ▼3位決定戦
富谷光雄(自衛隊)○[Tフォール、1:36=10-0]●高田丈裕(日体大)

 ▼決勝
笹本睦(綜合警備保障)○[フォール、1:00=9-0]●伊藤光(岡山県体協)

 
《経過》伊藤の胴タックルをさばいてバックを取った笹本は、まずローリングで2点を加えた。さらに俵返しで相手を持ち上げ、そのまままっ逆さまに近い体勢で相手をマットにたたきつけ、そのままフォールで圧勝した。笹本は3年連続3度目の優勝。

 ○…グレコ84kg級の松本とともに世界トップクラスにランクされる笹本が、実力通りの試合を見せ、圧勝した。2試合(1回戦は試合なし)とも1分台の文句なしの優勝だ。国内で勝つのは当たり前のせいか、出てくる言葉は世界選手権へ向けての話がほとんど。「世界の上位選手との差はそんなに変わらないので、あとは気持ちの持っていき方とか、ふだんの練習をきちんとやることですね」と言う。

 昨年の世界選手権は、減量に失敗し「計量が終わった時からいつもの動きじゃなかった」ことを明かした。それをアジア大会の時に反省して、3位入賞とまずまずの出来。世界選手権で好成績を挙げる鍵は“コンディション”であり、技術と体力では引けをとらない。「調整さえうまくいけば必ずメダルを取れる」と確信。日本のエースの貫禄を見せた。

 【66kg級】

 ▼3位決定戦
平井満生(綜合警備保障)○[2-1=9:00]●斉藤柔(自衛隊)

 ▼決勝
飯室雅規(自衛隊)○[3-1=8:43]●大井将憲(自衛隊)

 
《経過》手の内を知っている選手同士の対戦は、大井が最初にパッシブを取る。しかしパーテールポジションからの攻めに決定力に欠ける。逆に飯室がパッシブを取り、ローリングを決めて2点を取った。

 第2ピリオドは、再び大井が先にパッシブを取ったが、またしてもグラウンド攻撃でポイントへつなげられない。そのままのスコアで終了し延長へ。クリンチからの攻防は大井がそり投げを決めて1点を取ったが、終了間際、勝負をかけた投げ技を飯室がカットしてバックへ回り、3点目を取った。飯室は2年連続3度目の優勝。(写真は赤が飯室))

 ○…拓大〜自衛隊と同じ道を歩んだ飯室と大井の戦いは、飯室が競り勝った。練習はいつも一緒であり、「やりづらいといえばやりづらい。当然、お互いに手の内はわかっているし…」ということだが、勝因には「グラウンドでしっかり守れたことと、しっかりと獲れるところでポイントを獲れたこと」を挙げた。

 
2年連続の日本代表権獲得は、ライバルに2勝1敗と勝ち越せた白星でもあり、気分はよさそう。一方で、世界選手権では「最初にパッシブを取られないようにしたい。外国人には、それで負けるパターンが多いんですよ。もっと積極的なレスリングをしたい」と気を引き締めていた。

 【74kg級】

 ▼3位決定戦
鶴巻宰(国士大)○[4-1=6:40]●子川亮介(日体大)

 ▼決勝
永田克彦(新日本プロレス職)○[4−0]●菅太一(警視庁)

 
《経過》永田が開始早々から攻勢をとり、パッシブを取るが、ローリングは決まらない。しかし、2度目のパッシブからのパーテールポジションではしっかりと決め、2点を取った。

 第2ピリオドは、菅がパッシブを取るが、パーテールポジションからの攻撃はノーポイント。逆に永田のがパッシブからのグラウンド攻撃でローリングを決め、4−0とした直後に終了のホイッスルが鳴った。永田は3年連続6度目の優勝。(写真は赤が永田)

 ○…おなじみとなった74kg級の全日本王者対決(永田は69kg級全日本V5、菅は00・01年76kg級王者)は永田が勝ち、五輪を含めて7年連続で日本代表権を獲得した。

 最近は松本(84kg級)や笹本(60kg級)にレスリング界に関心がいっているが、シドニー五輪銀メダルの威光は消えておらず、報道陣をもっとも集めていたのが永田。「これに勝たないと世界選手権でオリンピックの切符にチャレンジすることができないので、とりあえず最初の関門を突破できてよかったです。昨日はあまり体が動かなくて自分本来の動きができなかった。でも気持ちを切り替えて盛り上げて勝ててよかったです」と、慣れた受け答えで勝利の喜びを表した。。

 1階級アップのための肉体改造は「6、7割」の段階。世界での戦いの課題はパーテールポジションで、「いかに自分が取られず確実に取っていくか。そういう部分を磨いていきたい」と言う。

 兄・裕志は新日本プロレスの東京ドームのメーン出場のため会場に姿はなかった。しかし「試合前に電話をして、勇気づけてくれたので安心して試合に臨めました。兄には一番最高の舞台であるオリンピックを見に来てほしいので、なんとしてもその切符を取ってきたいですね」と、五輪代表資格獲得に思いを馳せていた。

 【84kg級】

 ▼3位決定戦
太田充洋(大分・日本文理大職)○[フォール、2:06=6-0]●高橋裕二郎(新潟県体協)

 ▼決勝
松本慎吾(一宮運輸)○[Tフォール、1:26=11-0]●木下英規(練馬駐屯地ク)

 
《経過》パッシブを取ったあとの強さで松本が圧勝した。まずローリングで2点。このあと豪快なバック投げで5+1点を取り、そのままの姿勢でニアフォール。2+1点が入り、あっという間に11点。世界で勝ち抜ける選手の強さを見せつけた。松本は4年連続4度目の優勝。(写真は赤が松本)

 ○…大会の最後を飾る一戦は、松本の強さとグレコローマンの醍醐味を十分に感じさせてくれた試合だった。「俵返しを出したかったけど、リフト技(バック投げ)だけで終わってしまった。最後はもう一発狙えるかなと思ったけど、気がついたらテクニカルフォールになっていた」と、一気の攻めのためポイント計算を間違ってしまったようだ。

 昨年の全日本選手権は直前に左手を骨折して戦い、それでも優勝した。その回復に2か月もかかってしまい、いまも完治はしていないが(7〜8割程度の回復)、大きな影響はないので、立ち止まるわけにはいかない。ヨーロッパ選手権(5月23〜25日、ユーゴスラビア)を視察したあと、約2か月の予定でウクライナへ向い、現地選手との練習に臨む。「ヨーロッパ勢を倒さないと、メダルが見えてきませんからね」。見えているのは世界チャンピオンだけだ。

 【96kg級】

 ▼3位決定戦
谷口周平(自衛隊)○[4−1]●太田宣明(自衛隊)

 ▼決勝
加藤賢三(自衛隊)○[フォール、1:45=3-0]●森角祐介(新日本プロレス職)

 
《経過》森角がパッシブによるパーテールポジションからローリングを狙う。決まったかに見えたが、最後が回りきらず、加藤がすかさず押さえ込む。そのままフォール勝ちした。加藤は2年連続2度目の優勝。(写真は赤が加藤)

 ○…加藤がピンチをチャンスに転じ、フォール勝ちで日本代表権を手にした。昨年はこの大会と全日本選手権の二大大会制したが、ともに2年連続世界選手権代表の森角には勝っておらず(森角が反対側のブロックで負けたため)、全日本王者に輝いたあとも「森角さんに勝っていないので…」と不満足な優勝を口にしていた。今回は宿敵に初勝利しての栄光。「本当にうれしいです。今まで勝てなかったので、全日本で優勝した時よりうれしい」と顔をほころばせた。

 自衛隊に進んで約1ヵ月間。「本当に勉強になります。これからもいろいろと教えていただいて頑張っていきたいです」というが、世界選手権へ出ることに対しては、「まだ実感はないんです。これから海外に行って一つでも多く勝てるように頑張りたいと思います」と控えめに話した。

 【120kg級】

 ▼3位決定戦
新庄寛和(国士大)○[フォール、1:41=2-0]●室谷正憲(和歌山県立武道館)

 ▼決勝
鈴木克彰(警視庁)○[1-1=9:00]●瀬川浩寿(警視庁)


 《経過》鈴木が先にパッシブを取ってパーテールポジションで攻めるが、がポイントにはつながらない。もう1度パッシブを取るが、立たれてしまう。第2ピリオドはクリンチでスタート。1分経過を前に鈴木の組み手がはずれ、瀬川が1点を先行した。

 鈴木は再度パッシブを取って反撃するが得点へつなげられない。1−0のまま延長へ入り、クリンチでスタート。瀬川の組み手がはずれ1−1へ。ラスト1分、瀬川がパッシブを取ってグラウンドで攻めるが無得点。そのままのスコアで試合時間が終了し、パッシブ数の差で鈴木が勝った。鈴木は3年ぶり2度目の優勝。(写真は赤が瀬川)

 ○…同門対決を制した鈴木は「疲れました。ずっと練習してる相手なんで、やりづらかったです」とほっと一息。瀬川を「目標にしている先輩の1人」と立てることを忘れず、威勢のいい言葉は控えた。



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