【特集】吉田沙保里以上の逸材!? “10年間無敗”の西牧未央




 昨年の世界女子選手権で初出場初優勝を果たした55kg級の吉田沙保里(中京女大)が、元全日本王者の父の英才教育によって幼少の頃からずば抜けた成績を残していることは、レスリング界では周知の事実。その吉田を上回る成績を残しているのが、この春、大阪・関西大一中から愛知・中京女大付高へ進んだ西牧未央だ。

 4月6日の「ジャパンクイーンズカップ2003」(栃木・足利市)と26日の「JOC杯ジュニアオリンピック」(神奈川・横浜市)のカデット56kg級をすべてフォール勝ちでW制覇。幸先いい高校生活をスタートさせた
(写真左はJOC杯の決勝戦、右は同表彰式)。来年の今ごろは吉田沙保里の“五輪金メダル・ロード”を苦しめる存在にまで成長しているかもしれない。

 大阪・吹田市民レスリング教室時代から卓越した才能を見せていた。全国少年選手権は93年の幼年の部優勝にはじまって7年連続優勝。00年からは中学の2大会(全国中学生選手権、全国女子中学生選手権)でともに3連覇。

 「ジャパンクイーンズカップ」(以前は全日本女子オープン選手権)のキッズの部から積み重ねた優勝は、今回の勝利で「11年連続」にまで伸びた。ことし1月には、フランスのトゥルクァンで行われた「ショーブ女子国際大会」でも優勝。国際舞台でも白星街道をスタートさせた。

 選手生活での黒星といえば、「西日本の大会で男子に負けたことがある」(本人)という1敗を除けば、中学1年生で出場した00年全日本選手権で高林恭子(中京女大)に延長7分15秒の激闘の末に2−3で敗れた試合のみ。当時は中学生も出場できたからこその敗北であり(翌年からは国際レスリング連盟=FILA=の規定通り)、“公式試合”とは認めがたい一戦。実質的に“選手生活無敗”と言ってさしつかえない。

 西牧は、強さの秘訣を問われると、はにかみながら「毎日、休まずに練習しているからだと思います」と答えた。しかしオリンピックの金メダルに話が及ぶと、「アテネ五輪は無理でしょうけど、北京五輪を目指します」と、こちらの方はきっぱり言い切った。北京は間違いない、もしかしたらアテネで、とさえ思えるだけの素材であることは確かだ。

 同高の栄和人監督は「学業も優秀で、考えるレスリングのできる選手」と評価し、この先、壁にぶつかることがあっても、それを乗り越えられる選手だと強調する。吉田沙保里がいるので「アテネ? う〜ん…」と苦笑いするが、北京五輪では間違いなく金メダルを狙わせると断言する。

 中京女大には、吉田沙保里のほか、岩間怜那(59kg級ワールドカップ・チャンピオン)、伊調馨(63kg級世界チャンピオン)と、同じくらいの体重の世界トップランカーがいる。吉田の場合は、山本聖子、篠村敦子、伊調千春といった強いライバルがいて、時に黒星を喫し、その悔しさの中から世界で勝てる強さを身につけていった。他チームのライバルが刺激だった。だが西牧は強い同僚の間で毎日もまれる。毎日が悔し涙の連続となるかもしれないが、その分、飛躍の期待度は吉田以上のものがあるといえる。

 もっとも、それは先輩選手にとっての刺激材料でもあり、相乗効果によって日本女子レスリングの中量級の確固たる基盤つくりにつながっていく。「北京五輪までには他国がすごくレベルアップしてくる」として、日本の世界一転落を予想する声もあるが、西牧の強さを見る限り、それは杞憂(きゆう=いらぬ心配)に終わる可能性が強いといえるだろう。



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