【特集】プロ格闘家、浜中和宏(猪木事務所)が全日本選手権へ復帰挑戦




 12月21〜23日に東京・代々木第二体育館で行われる天皇杯全日本選手権のフリースタイル84kg級に、PRIDEで活躍し、現在は猪木事務所所属選手としてプロ活動を続ける浜中和宏(26歳=
写真右)が2年ぶりに出場する。男子のプロ選手がアマの大会に出場するのは、1986年の谷津嘉章(フリー130kg級)、1993年の石沢常光(フリー90kg級)に続いて11年ぶり3人目。浜中の挑戦に注目が集まる。

 浜中は青森・光星学院時代に全国高校選抜大会、JOC杯ジュニア選手権、国体を制覇(インターハイはけがで不出場)。日体大へ進み、00年の世界学生選手権(東京)フリー85kg級で6位入賞するなど力をつけた。卒業後、高田道場所属のアマ選手としてレスリングを続け、01年に97kg級で全日本選抜選手権、全日本選手権とも2位に入賞。日本一へあと一歩と迫った。

 同時にプロ格闘家への思いも強く持っており、03年5月、「プロに行くには今しかない」とプロ入り。デビュー戦となった6月のPRIDE26で、3ヶ月前に桜庭和志をKOで下したニーノ“エルビス”シェンブリ(ブラジル)を判定で破り、将来を嘱望された(
写真左クリック

 しかし、いいことばかりは続かない。同年10月のハイアン・グレイシー(ブラジル)戦の試合中に古傷の右ひざを痛め、それが原因で同道場を退団。それでも戦うことへの気持ちは消えず、手術に踏み切り、ことしに入って猪木事務所の所属で復帰。6月にロサンゼルスで行われた総合大会「TOUKON5」に出場した。

 術後の経過は良好で、アマ復帰を決意したのは「レスリングは自分のベース。基本となる分野でタイトルを取って、今後のプロでのファイトに生かしたい」という理由から。デビュー戦は華々しかったが、その後壁にぶつかったため、原点に戻りたいという気持ちがあるようだ。

 アマ時代に日本一がなかったことの心残りもあり、プロ入りした当初から、「またアマでやってみたい気持ちがあった」という。プロ入りした動機のひとつに、「自分を変えてみたい」という理由もあり、その目標を達成した今、再びレスリングのチャンピオンを目指す気持ちが戻ってきた。全日本選手権で優勝したら冬の欧州遠征にも参加する予定で、世界選手権、さらには08年北京五輪へ向けての挑戦が始まる。

 プロがアマの大会に出るのは、負けた時のことを考えるとリスクが大きい。「勝って当たりまえ」と思われ、負ければ「プロがアマに負けた」とたたかれる。勝っても収入はなく、アマ大会に出場するメリットはあまりない。プロ野球選手の中にはアテネ五輪でのドリームチーム結成に対して何の関心も示さなかった選手も少なくない。

 ましてレスリングと総合格闘技あるいはプロレスとは、ファイトスタイルが大きく違うため、レスリングを専門に練習している選手に勝てない可能性は高い。事実、11年前の石沢常光は勝てなかった。だが浜中は自信をもって言う。「人が何と言おうとも、自分への挑戦です。呼び方はアマと言っても、みんなプロの意識を持ってやっている。みんなプロです。本気になって勝ちにいきます」。生半可な気持ちではない。覚悟をもっての挑戦だ。

 出場するフリー84kg級は、アテネ五輪代表の横山秀和が出場しないので、磯川孝生(拓大)、山本悟(岡山県協会)、松本真也(日大)らが横一線の状態。レスリング選手としては1年半のブランクのある浜中だが、何とか彼らに食い込みたいところ。「みんなが敵です。自分に勝てれば、誰にでも勝てると思います」と、あくまでも優勝を目標においている

 ブランクがあると言っても、その間、何もしていなかったわけではない。PRIDEというビッグイベントでのファイトを経験し、他の選手にはない財産も得ている。まず精神力を挙げた。さらに、「レスリング以外のファイトを経験したことで、レスリングを幅広く見られるようになった」という。以前はレスリング一筋で、「視野が狭くなっていた」と振り返る。

 「パンチ、キックのある闘いを経験すると、より度胸がつくのでは?」という筆者の問いは、きっぱりと否定した。「そんなことありません。レスリングでも総合でもK−1でも、最高の舞台に出てくる選手は覚悟ができている選手ばかりです。観客数は違っても、注目される緊張感の中で勝ち抜くすごさは、プロもアマも一緒です」。こうした持論を即座にきっぱりと口にできるあたりに、若い選手とは違う精神面の成長を感じる。

 小学校2年の時にオリンピックを見て以来、オリンピックへの憧れは強かったという。プロ入りしても、オリンピックへの思いは持ち続け、あらためて目指す気持ちになった。母校・日体大では、階級が上の森山政秀、米山祥嗣らの学生トップ選手と連日ハードな練習をこなし
(写真上)、かなり仕上がっているようだ。1回3分のスパーリングは何本でも続けてこなすことができ、「スタミナには自信あります。いかに(新ルールの)2分間でそれを出し切るかです」と言う。

 現在26歳で、4年後の北京五輪も十分に狙える年齢。まず北京五輪へのスタートをしっかりと踏み出したいところだ。

(取材・文=樋口郁夫)


 ◎浜中和宏の主な成績

 
【1996年】
全国高校選抜大会優勝=74kg級
JOC杯ジュニア選手権優勝=フリー74kg級
世界ジュニア選手権出場=フリー74kg級
国体優勝=フリー74kg級

 【1997年】


 【1998年】

JOC杯ジュニア選手権2位=フリー76kg級
東日本学生春季新人戦3位=グレコ85kg級

 【1999年】
全日本選手権8位=フリー85kg級

 【2000年】
全日本選抜選手権3位=フリー97kg級
世界学生選手権6位=フリー85kg級
全日本学生選手権2位=フリー85kg級
全日本大学選手権2位=フリー85kg級
全日本選手権5位=フリー85kg級

 【2001年全日本選抜選手権】=フリー97kg級
予 選  ○[フォール、0:36=4-0]幸野亨(大東大)
1回戦  ○[フォール、2:36=7-0]裾分隆仁(南九州大)
準決勝 ○[5−2]福田力(山梨学院大)
決  勝 ●[0−6]小平清貴(警視庁)

 【2001年全日本選手権】=フリー97kg級
予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[フォール、2:52=9-0]鳥羽信介(日大)
予選3回戦 ○[フォール、2:32=7-0]角川康成(ロジテム)
準 決 勝  ○[フォール、0:47=8-0]中邑真輔(青山学院大)
決    勝  ●[1−3]中尾芳広(エスピーネットワーク)

 【2002年全日本選抜選手権】=フリー85kg級
1  回  戦 ○[Tフォール、5:16=11-0]●平澤光秀(専大)
準 決 勝  ●[6−10]仙波勝敏(立命館大)
3位決定戦 ●[フォール、1:06=0-3]横山武典(岡山県協会)

 【2002年全日本選手権】=フリー84kg級
予選1回戦 ○[8−0]藤岡裕士(山梨学院大)
予選2回戦 ●[フォール、2:27=0-3]磯川孝生(大分・日本文理大付高)
予選3回戦 ○[フォール、2:10=5-3]森陽保(明大職)

 【2003年全日本選抜選手権】=フリー84kg級
1  回  戦 ○[7−3]山本悟(日体大)
準 決 勝  ●[2−3]磯川孝生(拓大)
3位決定戦 ●[TF1:02=0-10]横山武典(岡山県協会)


 ◎プロ選手のアマ大会への出場成績

 《谷津嘉章(ジャパンプロレス)》

 【1986年全日本選手権フリー130kg級】

1回戦 ○[警告、5:34]猿田充(山梨県民スポーツ事業団)
2回戦 ○[フォール、0:58]三田晴康(日体大)
3回戦  BYE
4回戦 ○[フォール、0:52]奈良英則(日大)
5回戦 ○[警告、3:50]浅井功(日体大)

 《石沢常光(新日本プロレス)》

 【1993年アジア選手権代表選考会フリー90kg級】

2回戦(初戦)   ○[Tフォール、3:57=10-0]大村達哉(長崎・島原高教)
3  回  戦   ●[2−3]藤田和之(日大)
敗者復活1回戦 ○[Tフォール、3:00=11-0]小玉康二(高知・室戸高教)
敗者復活2回戦 ●[フォール、4:25=3-7]菅原文太(大東大)
5・6位決定戦  ●[不戦敗]平野准矢(国士大)

 【1993年世界選手権代表選考会フリー90kg級】

1回戦 ●[3−4]菅原文太(大東大)




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