【特集】「多彩な技に挑む浜口京子の今後に期待」…ウィリアム・メイの目




 10月8〜9日に東京・駒沢体育館で行われた「加ト吉杯2004女子ワールドカップ」には、かつて国士大でコーチを務めていた元日本協会広報委員のウィリアム・メイ氏(チェコ・プラハ在住)が広報の通訳として訪れた。米国ミネソタ州の大学でレスリングに取り組み、和田貴広(現日本協会専任コーチ)、嘉戸洋(現日本協会ジュニアコーチ)らに飛躍の基礎を教えたメイ氏に、ワールドカップを分析してもらった。


 約1年10か月ぶりに日本の地を踏み、通訳のボランティアを兼ねて加ト吉杯女子ワールドカップを観戦させていただきました。まず目についたのは、浜口京子選手がいろんな技に挑んでいたことです。レスリングの幅を広くしようとしているのがよく分かりました。一本背負い(写真右)、片足タックル、ローシングル…。新しい技にチャレンジしていることがはっきりと伝わってきました。

 もっとも、カナダのオヘネワ・アクフォにタックルを返されて3点を許したシーンがありました。さらに、パーテールポジションの防御の機会があまりなかったので、オリンピックで見つかった課題(中国の王旭に2度もローリングを許した)をどれだけ克服できたかは、今回の戦いでは判断できません。まだまだ研究する点はあると思います。

 私は短期間でしたが、東京周栄クラブで浜口選手を指導したことがあります。それだけに、成長を目の当たりにしてうれしい気持ちになりました。レスリングに対する考え方が変わり、やり直すことをやり直しているので、もっと強くなれると楽しみにしています。このまま北京五輪まで、いろんな技を覚え、いろんな戦術を身につけていけば、今以上に強くなれると思います。

 吉田沙保里選手は評判通りに強いですね。チェコではオリンピックのレスリングがほとんど放映されなかったので、オリンピックでの試合は見ていません。今回、吉田の試合を目の当たりに見て、完成されたレスリングで、今、間違いなく世界最強の選手だと感じました。

 アテネ五輪ではベテランのアンナ・ゴミス(フランス)にやや苦戦したようですね。でも若いチャレンジャーはいない状況でしょう。現在、政治的な問題でロシアの代表になれないナタリア・ゴルツ(ロシア=2003年世界3位)は体力がまだ足りないと思うし、米国のテラ・オドネルは経験が足りません。ただ、オドネルが今回見せたカウンターレスリング
(写真左)は、吉田の上をいっているような気がしました。レスリングに“完成”という言葉はないのかもしれません。

 いずれにしても、吉田沙保里には強いチャレンジャーが出現してほしいと思います。チャレンジャーの存在が吉田をさらに強くするでしょうし、チャレンジャーがいないと、吉田の強さは理解されないかも知れません。

 アテネ五輪で天敵サラ・マクマン(米国)に3連勝した伊調馨選手は、マクマン相手にいろんな技と組み手を見せており、冷静な試合運びで天才的なレスリングをする選手だと思います。強いですね。ただ、まだ完成されていません。潜在能力を出し切っていないと思います。今後の練習次第でもっと強くなるような気がします。将来的に、世界V6の浦野弥生さんのレスリングを超えることができるでしょうか。どこまで強くなるか楽しみにしています。

 坂本日登美選手もいいレスリングをしていました。久しぶりの全日本チームでの試合にもかかわらず、4試合に出て3試合フォール勝ち。日登美の試合をじっくりと楽しもうとしたファンは物足りなかったと思います。さすがは国際レスリング連盟(FILA)の2001年のレスラー・オブ・ザ・イヤー! しかし、4年後の北京五輪ではまた4階級しか実施されないことが濃厚です。また困る状況になってしまうでしょうか。

 伊調千春選手はレスリングのスタイルを変える必要があると感じました。坂本真喜子選手が伸びていますので、今のままのスタイルを続けると、逆転されることもあると思います。減量はどうでしょうか。48kg級にしては体が大きく見えます。いつまで48kg級でやれるでしょうか。

 山本聖子選手は、ひざの手術後で本調子ではないと聞きました。確かに2003年3月のポーランドオープンで見た時とは動きが違いました。けがの影響なのでしょうか。そうでないとしたら、あの頃のレスリングを取り戻す必要があると思います。

 中国は若手が参加してきて、北京五輪へかける姿勢が伝わってきました。団体の世界一を決めるという「ワールドカップ」の趣旨からすれば、若手を多くいれてきたのは感心できないことかもしれません。しかしオリンピックの直後ということで、ある程度は仕方ないことかもしれません。

 中国の若い選手はこれからの3〜4年に国際試合を多く経験し、飛躍してくると思います。特に48kg級の登偉嬋(Deng Weichan
=写真右)と59kg級の蘇麗慧(Su Lihui)に将来性を感じました。

 来年以降の大会は、どの国もベストメンバーで臨み、真の団体世界一を決める大会になってくれることを期待します。そのためにも、賞金大会にすることを提案します。男子でも、ワールドカップという大会には、だいたい2、3軍の選手が参加しているような気がします。賞金があれば、ベスト・メンバーを出してくるのではないでしょうか。関係者の努力を期待したいと思います。

 日本はベストメンバーで臨み、強さを世間にアピールできて大きなプラスになったと思います。今回は日本テレビのバックアップのもと、かなり凝った演出がなされました
(写真左)。このようなPR活動は必要だと思います。女子レスリングのPRには最高だったと思います。(談)




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