【特集】吉田沙保里へのリベンジ魂を横におき、団体優勝を目指す山本聖子




 「きん差で負けてしまった吉田沙保里との戦いに勝っていれば」…。あるいは、「吉田沙保里が別の階級だったら」「59kg級が五輪で実施されていれば」…。

 何度使っても歴史が変わることはない「たら・れば」だが、それでも使ってみたくなる。前記3つのどれかでも実現していれば、間違いなくアテネ五輪の金メダルを手にしたはずの世界V4の山本聖子(ジャパンビバレッジ)が、10月8〜9日の加ト吉杯2004女子ワールドカップ59kg級で、2月の「ジャパンクイーンズカップ」(アテネ五輪第2次選考会)以来、7か月半ぶりにマットへ戻ってくる。

 五輪出場を逃したあとは、はっきりとは口にしないが、マットへの情熱が消えかかったようだ。ジャパンビバレッジの同僚で同じ境遇の斉藤紀江が奮戦したのとは対照的に、地元開催のアジア選手権(5月)への出場などの眼中になかった。しかし、時間がたつにつれ、徐々に気持ちが戻ってきた。

 「気持ちが盛り上がってきたのは、4月下旬に右ひざの手術をした時。いえ、『またやろう』という気持ちになったので、手術に踏み切りました」。手術によってブランクができ、すべての練習メニューをこなせるようになったのは最近とのこと。以前のような動きが試合で出せるかどうかは未知数だが、少なくとも練習では支障ない程度にまで回復している。

 オリンピックの期間中は親族の結婚式のために日本におらず、吉田沙保里の試合などを見ることはなかったという。帰国してビデオで見て「(金メダルを取って)よかった、と思いました。自分も頑張るんだ、という気持ちが湧いてきました」と振り返る。

 こうした祝福の気持ちとは別に吉田へのリベンジ魂も十分にある。2008年北京五輪は今回と同じ4階級で実施されることがほぼ確定しているが、「私の体型で63kg級は無理だと思いますので…」と、吉田との再度の対決の時が訪れるのは承知済み。「再戦は常に頭の中に入れてやっています」と、こちらの方の気持ちも燃えつつある。早ければ、ことし12月の天皇杯全日本選手権で実現するかもしれない。

 今回の加ト吉杯女子ワールドカップは、その気持ちを横へおき、まず手術後の動きなどを確かめる大会になるだろう。「タックルへ入る前の動きをきちんとやりたい。崩したり、腕をとって前へ出てタックルへ入れるようにしたい」という課題をつくっている。

 「団体優勝へ全力を尽くします」と日本チームを引っ張るとい気持ちもしっかり持っている。団体戦とはいえ、表彰台の一番高いところに上がることで、今以上に気持ちが激しく燃え上がることも十分にありうる。いろんな意味で奮戦が期待される“世界V4”の山本聖子だ。

(取材・文=樋口郁夫)




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