【特集】帰ってきた頼もしい元世界女王、坂本日登美



 2000・01年に2年連続で51kg級世界一に輝いた坂本日登美(和光ク=当時中京女大)が、10月8〜9日に東京・駒沢体育館で行われる第4回女子ワールドカップで全日本チームに復帰する。アテネ五輪に3人の教え子を送り、金2個・銀1個を取らせた中京女大の栄和人監督が最初に育てた世界チャンピオン。長いトンネルを抜け、いま、再び世界へはばたこうとしている。

 01年に世界一になったあと、アテネ五輪を目指すために左ヒザの手術に踏み切った。1年近く戦列から離れることになるが、前進のための後退だった。02年全日本選手権55kg級は吉田沙保里には負けてしまったものの、翌03年4月のジャパンクイーンズカップ51kg級では、前年世界2位の伊調千春を撃破するなど、術後の経過は順調だったといえよう。
(左写真は2001年に2度目の世界一に輝いたシーン)

 苦しさは、自分の階級の51kg級が五輪で実施されないことで始まった。48kg級には落とすには体が大きすぎ、55kg級で戦うには小さすぎる。頭の中が混乱し、妹・真喜子に当り散らすことも。2003年夏ごろにはアテネ五輪への道をあきらめ、故郷・青森へ戻った。

 しかし、妹がアテネ五輪を目指す姿を見るうちに、気持ちが戻ってきた。今年3月には、来春に自衛隊に入隊することを前提に和光クラブで練習を開始。6月の全日本社会人選手権で優勝し、7月にはカナダカップへ出場。カナダの48kg級アテネ五輪代表選手にフォール勝ちして優勝。全盛期の力を取り戻しつつある。

 4月からここまでを、「北京五輪へ行きたい…、その気持ちいっぱいで練習してきました」と振り返る。アテネ五輪代表選手は、帰国後、祝勝会や報告会が続き、何よりも熱く燃えた直後でクールダウンしていたのを横目に、「私は、もう北京五輪を目指してスタートしています」と言い切り、誰よりも早く“スタートダッシュ”を切っていると言わんばかり。北京五輪への思いは強い。

 現在の段階で、北京五輪での女子の実施階級はアテネ五輪と同じ4階級の予定。このままなら、再び自分の階級が実施されない悲哀に直面することになる。しかし、今の坂本に悲壮感はない。「55kg級でオリンピックを目指そうと、99パーセント、気持ちが決まっています。48kg級には落とせないと思うし、妹が今以上に強くなっているはず。無理に姉妹対決をすることもない。55kg級で吉田沙保里に兆戦することになると思います。1回負けているので、それも(吉田へのリベンジ)いいかなと思います」ときっぱり。

 もっとも、「まだ4年ありますし…」と、そこに到達するまでの間に51kg級で世界チャンピオンに返り咲く方が先だ。いや、51kg級で世界一にならなければ、55kg級で北京五輪に挑むということも口にできまい。世界の強豪選手数人と対戦する今回のワールドカップは、今の坂本の力をはかる最適の舞台となる。

 練習環境は大学時代と180度違っている。大学時代は、周囲はすべて女子選手だったが、自衛隊では男子選手の間での練習だ。それでも、戸惑いはない。「男子選手は高い技術を持っています。新たな発見が多く、毎日が新鮮な気持ちで練習できます」と、とても充実した日々をおくっているようだ。
(左写真は、和光クラブの藤川健治コーチから指導を受ける坂本)

 左ひざの手術のあとは何の問題もなし。逆に、右ひざを痛めてしまい、こちらの方が完ぺきとは言い難いそうだが、問題あるほどではなく順調によくなっている。カナダカップでの圧勝Vは「まだいけるな、と自信になった」と言う。

 8月下旬のアテネ五輪は、日本でテレビ観戦した。「日本選手を応援しました。頑張ってほしいという思う一方で、自分と妹がなぜここ(アテネ)にいないのかな、という気持ちもありました。北京五輪には絶対に行くぞ、という気持ちを確認できました」と、これも闘志を燃やす要因になった。

 その闘志を燃やす第一弾がワールドカップになる。過去、2001年の第1回大会に出場しており、この時は6試合すべてにフォールかテクニカルフォール勝ち。平均タイムが2分36秒という文句なしの圧勝Vを飾っている。最高に縁起のいい大会だ。

 坂本のレスリングの真骨頂は、試合開始から積極的に攻める小気味いい攻撃レスリング。フォールへつなげることもあるが、まず確実にポイントを取っていく。デフェンスが強く、テークダウンを奪う技術を持っている積極果敢なスタイルは、来年から実施される2分3セット制の新ルールにぴったり合ったスタイルのような気がする。それも含め、ワールドカップでの坂本のファイトが注目される。

(取材・文=樋口郁夫)

坂本日登美の主な国際大会成績
 《2000年》

  
【アジア女子選手権】=51kg級
 第1試合 ○[フォール] Chang Wensia(台湾)
 第2試合 ○[11−2] Yhi Min(中国)
 第3試合 ○[フォール] Bak Ji Young(韓国)
 決   勝 ○[フォール] Wrzed Batzayz(モンゴル)

  
【世界女子選手権】=51kg級
 予選1回戦  ○[Tフォール、4:42=10-0] Anne Catherine Deluntsch (フランス)
 予選2回戦   BYE
 予選3回戦  ○[Tフォール、3:39=10-0] Lyndsay Belisle(カナダ)
 決勝T1回戦 ○[Tフォール、5:26=10-0] Elena Egochina(ロシア)
 準 決 勝   ○[Tフォール、3:59=10-0] Innessa Rebar(ウクライナ)
 決    勝   ○[Tフォール、5:16=10-0] Patricia Miranda(米国)

 《2001年》

  
【東アジア大会】=51kg級
 予選1回戦 ○[フォール、4:22=8-0] Gao Yanzhi(CHN)
 予選2回戦  BYE
 予選3回戦 ○[フォール、0:50=9-0] Bremner Kyla(豪州)
 決     勝 ○[フォール、1:16=10-0] Park Ji-Young(韓国)

  
【ワールドカップ】=51kg級
 1回戦 ○[フォール、2:11] Lauriane Mary(フランス)
 2回戦 ○[フォール、5:59] Gao Yanzhi(中国)
 3回戦 ○[フォール、0:42] Nour Beaoui(チュニジア)
 4回戦 ○[フォール、2:15] Teresa Pearson(カナダ)
 5回戦 ○[フォール、2:59] Patricia Miranda(米国)
 6回戦 ○[フォール、1:30] Elena Tolstenko(ロシア)

※公式リザルトにフォールとテクニカルフォールの区別がないため、すべてフォールと表記します。

  
【世界女子選手権】=51kg級
 予選1回戦  ○[フォール、3:59=13-2] Ida Hellstrom(スウェーデン)
 予選2回戦   BYE
 予選3回戦  ○[フォール、3:37=13-3] Kareisha Alena(ベラルーシ)
 決勝T1回戦 ○[フォール、1:30=10-0] Boobryem Vanena(フランス)
 準 決 勝   ○[6−1] Gao Yanzhi(中国)
 決    勝   ○[Tフォール、4:59=12-1] Stephanie Murata(米国)



《前ページへ戻る》