【特集】アテネ五輪にかける(10)…女子48kg級・伊調千春



 日本代表決定がプレーオフまでもつれたため、本番まで一番期間の短かった女子48kg級の伊調千春(中京女大)。しかし焦りはない。「1月のプレ五輪でもタックルはよく決めることができた」と、外国選手が相手でも実力を出し切れば十分に勝てるという自信に満ちあふれている。

 今回の女子代表は4選手とも昨年の世界チャンピオン。福田富昭会長が「おまえらが世界で一番強いんだ」という叱咤(しった)は間違いではないが、各メディアでの伊調千春の金メダル獲得の予想度が一番低いのは、世界一になった階級と今回出場する階級が違っているからだろう。

まして48kg級には3度の世界選手権で無敗を誇るイリナ・メルニク(ウクライナ)がいる。違った階級のチャンピオンがそのままの体重で戦えば、上の階級の選手が勝つのは当然だろう。しかし、上の選手が階級を落とした場合、そうはならないのが階級制スポーツの難しさ。1階級ダウンによる体力のダウンは大きなマイナスとなる。48kg級へ変えて1年もたっていない伊調が、それまでより3kg多い減量をしいられた状態で、この強豪に勝てるかとういう疑問が残るのはもっともだろう。

 だが伊調は2001年世界ジュニア選手権51kg級でこのメルニクを破っている実績がある。メルニクは前年のシニア46kg級で世界チャンピオンに輝いており、ジュニアなら51kg級でも十分に勝てるという目算があったのではないか。しかし初戦で伊調の強さに直面。「メルニクは試合途中で泣きそうな顔をしていた」(その大会の監督でもあった鈴木光・五輪代表チーム監督)というほど、力の違いが明白な試合となった。この勝利は、伊調の大きなパワーになっていることだろう。

 もちろん、当時のメルニクは46kg級の選手であり、本来の階級が違う選手同士の対戦だった。ましてメルニクが本当の強さを身につけたのは、この3か月後に世界V2を達成したあたりから。甘く見てはならない相手だ。伊調もメルニクに対して自信を持っている反面、今のメルニクの試合を見て「(他の選手と)動きが違う」と警戒している。3年も前のただ1度の対戦の時のメルニクと思ってはなるまい。

 世界2位の選手など、ほかに考えられる敵との実力差は明白。伊調にとって、打倒メルニクがアテネ五輪金メダルのかぎである。

(取材・文=樋口郁夫、
写真は8月7日、国立スポーツ科学センター


◎女子48kg級の強豪と伊調千春の対戦成績

 2000・01・03年と最軽量級を制したイリナ・メルニク(ウクライナ)(写真右)。02年は国籍問題があって世界選手権には不出場だったので、世界選手権では無敗を誇っている。しかし欧州選手権や欧州の国際大会では時に取りこぼしもあり、決して万全の強さではない。

 02年の世界チャンピオンはブリジット・ワグナー(ドイツ)。ことしの欧州選手権ではメルニクに2連敗しており、力はやや劣るかもしれない。02年の世界選手権でも日本の野口美香に敗れながらその後勝ち続けての優勝という内容だった。ロシアは昨年の世界ジュニア・チャンピオンでありプレ五輪2位のラリサ・オーザクが出場見込み。中国は昨年世界3位のフイ・リ

 伊調は、世界チャンピオンのメルニク、世界2位のパトリシア・ミランダ(米国)、プレ五輪2位のオーザクのいずれにも勝っている。

 ※伊調千春の国際大会成績 → クリック


◎女子48kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位 
ウクライナ(Irini Merlini)
03年世界選手権2位 
米国(Patricia Miranda)
03年世界選手権3位 
中国(Li Hui)
03年世界選手権4位 
ギリシャ(Fani Psatha)
03年世界選手権5位 
日本(伊調千春)
03年世界選手権6位 
フランス(Angelique Berthenet)
二次予選(1)1位   
ドイツ(Brigitte Wagner)
二次予選(1)2位   
ロシア(Larisa Oorzhak)
二次予選(1)3位   
ベネズエラ(Mayelis Caripa)
二次予選(2)1位   
カナダ(Lyndsay Belisle)
二次予選(2)2位   
モンゴル(Tsogtbazar Enkhjargal)
二次予選(2)3位   
タジギスタン(Lidia Karamchakova)
開  催  国     =世界4位参照
ワイルドカード     
チュニジア(Fahila Louati)
ワイルドカード     
ギニアビサオ(Leopoldina Ross Davyes)


◎2001〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 【2001年世界選手権】=46kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Brigitte Wagner(ドイツ)○[フォール、5:49=12-2]●清水美里(日本)

 ▼準決勝
Irina Melnik(ウクライナ)○[5−1]●Brigitte Wagner(ドイツ)
Carol Huynh(カナダ)○[6−0]●Farah Touchi(フランス)

 ▼3位決定戦
Brigitte Wagner(ドイツ)○[4−2]●Farah Touchi(フランス)

 ▼決勝
Irina Melnik(ウクライナ)○[3−0]●Carol Huynh(カナダ)

 
【2001年世界選手権】=51kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
坂本日登美(日本)○[フォール、1:28=10-0]●Vanessa Boubryemm(フランス)
Yanzhi Gao(中国)○[4−1]●Natalya Karamtshakova(ロシア)

 ▼準決勝
坂本日登美(日本)○[6−1]●Yanzhi Gao(中国)
Stephanie Murata(米国)○[4−1]●Lyndsay Belisle(カナダ)

 ▼3位決定戦
Yanzhi Gao(中国)○[フォール、2:07=4-1]●Lyndsay Belisle(カナダ)

 ▼決勝
坂本日登美(日本)○[Tフォール、4:59=12-1]●Stephanie Murata(米国)

 
【2002年世界選手権】=48kg級

 ▼準々決勝
Inga Alekseevna Karamtshakova(ロシア)○[フォール、1:23=4-0]●Mayelis Caripa Castillo(ベネズエラ)
Ida Hellstroem(スウェーデン)○[4−3]●Carol Huynh(カナダ)
Brigitte Wagner(ドイツ)○[6−1]●Lauriane Mary(フランス)
Nicoleta Badea(ルーマニア)○[フォール、1:01=4-0]●Maria de las Angeles Barraza Sanchez(メキシコ)

 ▼準決勝
Inga Alekseevna Karamtshakova(ロシア)○[8−5]●Ida Hellstroem(スウェーデン)
Brigitte Wagner(ドイツ)○[フォール、0:57=5-0]●Nicoleta Badea(ルーマニア)

 ▼3位決定戦
Ida Hellstroem(スウェーデン)○[フォール、2:50=3-0]●Nicoleta Badea(ルーマニア)

 ▼決勝
Brigitte Wagner(ドイツ)○[4−3]●Inga Alekseevna Karamtshakova(ロシア)

 
【2002年世界選手権】=51kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
伊調千春(日本)○[フォール、0:55=4-0]●Nadir Ugrun Percin(トルコ)
Natalya Golts(ロシア)○[フォール、1:10=3-0]●Viktoria Brandush(ウクライナ)

 ▼準決勝
伊調千春(日本)○[4−0]●Natalya Golts(ロシア)
Sofia Poumbouridou(ギリシャ)○[6-3=6:14]●Lyndsay Belisle(カナダ)

 ▼3位決定戦
Natalya Golts(ロシア)○[3−0]●Lyndsay Belisle(カナダ)

 ▼決勝
Sofia Poumbouridou(ギリシャ)○[3-0=6:28]●伊調千春(日本)

 
【2003年世界選手権】=48kg級

 ▼準々決勝
Patricia Miranda(米国)○[Tフォール、4:19=11-1]●Angelique Berthenet-Hidalgo(フランス)
Fani Psatha(ギリシャ)○[5-1=6:03]●Alfia Zaynulina(キルギスタン)
Hui Li(中国)○[フォール、1:10=3-0]●Inga Alekseevna Karamtshakova(ロシア)
Irina Melnik(ウクライナ)○[5−2]●坂本真喜子(日本)

 ▼準決勝
Patricia Miranda(米国)○[フォール、1:51=7-0]●Fani Psatha(ギリシャ)
Irina Melnik(ウクライナ)○[6−1]●Hui Li(中国)

 ▼3位決定戦
Hui Li(中国)○[フォール、5:56=15-3]●Fani Psatha(ギリシャ)

 ▼決勝
Irina Melnik(ウクライナ)○[5−4]●Patricia Miranda(米国)

 
【2003年世界選手権】=51kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Jennifer S. Wong(米国)○[6−2]●Anne Catherine Deluntsch(フランス)
Natalya Karamtshakova(ロシア)○[4−3]●Juling Wen(中国)

 ▼準決勝
Natalya Karamtshakova(ロシア)○[3−0]●Jennifer S. Wong(米国)
伊調千春(日本)○[Tフォール、4:22=10-0]●Alena Ivanovna Kareicha(ベラルーシ)

 ▼3位決定戦
Jennifer S. Wong(米国)○[3-2=6:13]●Alena Ivanovna Kareicha(ベラルーシ)

 ▼決勝
伊調千春(日本)○[3−0]●Natalya Karamtshakova(ロシア)




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