【特集】アテネ五輪にかける(7)…グレコローマン60kg級・笹本睦



 2度目の五輪出場となるグレコローマン60kg級の笹本睦(綜合警備保障)は「気持ちは前回の方が楽かな。何も考えていなかったから。今回は藤本先生(日体大部長)から『金メダル取らなかったら帰ってくるな』なんて言われるし。藤本先生の言葉は冗談に聞こえないから…」と、2度目の五輪出場の今回の方がプレッシャーを感じてしまうことを口にした。

もっとも、それは期待の大きさの違いを表している。シドニー五輪のあと、世界学生選手権で優勝し、欧州の大会ででも勝つなど、グレコローマン・チームを支えた。2001年世界7位、2003年2月には01年世界チャンピオンを下すという実績からして、周囲がアテネ五輪でメダル獲得を期待するのは当然だろう。

今の笹本には、それを実現する力は十分にある。日本代表として戦うようになったのはシドニー五輪から。「優勝というのは自信になりますよね。自分のレスリングができても勝てなかったのがシドニー前。そのあとは、自分のレスリングができれば勝てるようになった」と、五輪を境に実力が大きく伸びたことは実感している。負けた試合は自分のレスリングができなかった時だそうで、いかにして先に仕掛けて自分のレスリングに持ち込むかが勝敗の分かれ目といえよう。

このクラスはシドニー五輪で完ぷなきまでにやられたアルメン・ナザリアン(ブルガリア=アトランタ・シドニー両五輪、02・03年世界チャンピオン)がすば抜けていて、昨年世界2位、パンアメリカン無敵のロベルト・モンゾン・コンザレス(キューバ)が続いているという勢力図。やはりこの2人には挑戦者という意識になるようで、「持ち上げられないこと」が勝つための最重要課題。リフト技さえ受けなければ、勝利が見えてくるという。ほかの選手には「五分以上に戦える。シドニーの時よりは上へ行けるという気持ちがある」ときっぱり。

 シドニー五輪の時は開会式のあとに現地入りしているので、開会式には参加しなかった。今回は開会式に参加する。しかし、特別に感慨は感じない。「女子のように金メダル100パーセントって状況なら、出て感動して気持ちを盛り上げるのもいいでしょう。でも、今の自分にはそんな余裕はない。オリンピックに出ることが目的じゃないから、それで喜んでいられない。メダルを取って閉会式に出たいです」という言葉に、決意の強さがうかがえる。

今回は、両親は日本で応援するという。「北京に行くからなって言うんですよ」。その代わり千恵夫人の両親が応援に来てくれるという。まだ北京五輪のことまでは考えられない。夫人の両親の前で、精いっぱいのファイトをすることが先決。両親の期待にこたえるのは、それを実現してからだ。

(取材・文=樋口郁夫、
写真は7月21日、菅平


◎グレコローマン60kg級の強豪と笹本睦の対戦成績

 アトランタ・シドニー両五輪、2002・03年世界チャンピオンのアルメン・ナザリアン(ブルガリア)が優勝候補の最右翼。02・03年の欧州選手権でも勝っており、かなりの完成度を持っている。グレコローマンで2年連続世界一に輝いているのはナザリアンだけだ。

 そのナザリアンを2001年世界選手権で下しているのが、カレン・ムナチャカニアン(アルメニア)とロベルト・モンゾン・ゴンザレス(キューバ)だが、アルメニアは出場権を獲得できなかったので、モンゾンが二番手と見ていい。

 ベテランでアトランタ五輪62kg級王者のウロジミエルズ・ザワジキ(ポーランド)アカキ・チャチュア(グルジア)らもコンスタントに上位に顔を連ねている実力者だ。

 アジアから日本、韓国、カザフスタン、イラン、中国と5か国が出場する。欧州の壁を破ることが期待される。

 笹本は、2001年世界選手権でナザリアンに2−8の判定負け。モンゾンとは2001年1月に0−5で負けているが、それから日が経っているので、この結果はあまり参考にならないだろう。

 ※笹本睦の最近の国際大会成績 → クリック


◎グレコローマン60kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位 
ブルガリア(Armen Nazarian)
03年世界選手権2位 
キューバ(Roberto Monzon)
03年世界選手権3位 
ルーマニア(Eusebiu Diaconu)
03年世界選手権4位 
米国(James Gruenwald)
03年世界選手権5位 
グルジア(Akaki Chachua)
03年世界選手権6位 
ポーランド(Wlodzimierz Zawadzki)
03年世界選手権7位 
トルコ(Bunyamin Emit)
03年世界選手権8位 
エジプト(Mohamed Ashraf)
03年世界選手権9位 
ウクライナ(Olexandr Khvoschsh)
03年世界選手権10位 
ドイツ(Jurij Kohl)
二次予選(1)1位    
日本(笹本睦)
二次予選(1)2位    
韓国(Hyun Jung Ji)
二次予選(1)3位    
イタリア(Paola Fucile)
二次予選(1)4位    
ロシア(Alexei Shevtsov)
二次予選(1)5位    
セルビアモンテネグロ(Davor Stefanek)
二次予選(2)1位    
カザフスタン(Nurlan Koizhaiganov)
二次予選(2)3位    
イラン(Ali Askhani)
二次予選(2)4位    
アゼルバイジャン(Vitali Radiomov)
二次予選(2)5位    
中国(AI Linuer)
開  催  国      
ギリシャ(Christos Gikos)
ワイルドカード      
ポルトガル(Hugo Passos da Silva)
ワイルドカード      
ペルー(Sydney Guzman)


◎2000年シドニー五輪〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 
【2000年シドニー五輪】=58kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
In-Sub Kim(韓国)○[3−1]●Ali Ashkani Agboloag(イラン)
Zetiang Sheng(中国)○[Tフォール、5:00=11-1]●James Gruenwald(米国)

 ▼準決勝
In-Sub Kim(韓国)○[4−0]●Zetiang Sheng(中国)
Armen Nazarian(ブルガリア)○[Tフォール、1:50=10-0]●Rifat Yildiz(ドイツ)

 ▼5・6位決定戦
Ali Ashkani Agboloag(イラン)○[3−2]●James Gruenwald(米国)

 ▼3位決定戦
Zetiang Sheng(中国)○[2-0=9:00]●Rifat Yildiz(ドイツ)

 ▼決勝
Armen Nazarian(ブルガリア)○[フォール、2:34=10-3]●In-Sub Kim(韓国)

 
【2001年世界選手権】=58kg級

 ▼準々決勝
Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)○[6−2]●Ali Ashkani Agboloag(イラン)
Dilshod Aripov(ウズベキスタン)○[3−2]●Djamel Ainaoui(フランス)
Karen Mnatsakanyan(アルメニア)○[4−0]●Kyung-Il Kang(韓国)
Armen Nazarian(ブルガリア)○[8−2]●笹本睦(日本)

 ▼準決勝
Dilshod Aripov(ウズベキスタン)○[4−2]●Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)
Karen Mnatsakanyan(アルメニア)○[5−4]●Armen Nazarian(ブルガリア)

 ▼3位決定戦
Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)○[3-1=6:08]●Armen Nazarian(ブルガリア)

 ▼決勝
Dilshod Aripov(ウズベキスタン)○[6−3]●Karen Mnatsakanyan(アルメニア)

 
【2002年世界選手権】

 ▼準々決勝 
Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)○[6−4]●Shamseddin Khudaiberdiev(ウズベキスタンh)
Wlodzimierz Zawadzki(ポーランド)○[7−6]●Akaki Chachua(グルジア)
Alexander Khvosch(ウクライナ)○[6−1]●Ion Gaimer(モルドバ)
Armen Nazarian(ブルガリア)○[Tフォール、2:46=10-0]●James Gruenwald(米国)

 ▼準決勝
Wlodzimierz Zawadzki(ポーランド)○[4−0]●Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)
Armen Nazarian(ブルガリア)○[5−3]●Alexander Khvosch(ウクライナ)

 ▼3位決定戦
Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)○[3−0]●Alexander Khvosch(ウクライナ)

 ▼決勝 
Armen Nazarian(ブルガリア)○[3−0]●Wlodzimierz Zawadzki(ポーランド)

 
【2003年世界選手権】

 ▼準々決勝
Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)○[3−1]●Wlodzimierz Zawadzki(ポーランド)
Eusebiu Diaconu(ルーマニア)○[フォール、3:35=11-2]●Bunyamin Emik(トルコ)
Armen Nazarian(ブルガリア)○[6−5]●Akaki Chachua(グルジア)
James Gruenwald(米国)○[5−0]●Mohamed Meligy Ashraf(エジプト)

 ▼決勝
Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)○[8−5]●Eusebiu Diaconu(ルーマニア)
Armen Nazarian(ブルガリア)○[途中棄権、5:21=4-1]●James Gruenwald(米国)

 ▼3位決定戦
Eusebiu Diaconu(ルーマニア)○[不戦勝]●James Gruenwald(米国)

 ▼決勝
Armen Nazarian(ブルガリア)○[6−2]●Roberto Monzon Gonzalez(キューバ)




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