【特集】アテネ五輪にかける(3)…フリースタイル66kg級・池松和彦


 昨年の世界選手権で銅メダルを獲得し、一躍日本レスリング界のヒーローであり救世主としての活躍が期待されることになったフリースタイル66kg級の池松和彦(日体大助手)。世界3位になってからここまでが「早かった」と振り返る。

 しかし焦りの表情はない。今年4月のアジア選手権でも地元選手を破って優勝し、世界3位がフロックでないことを証明した。その金メダルを含め、この1年2か月、出場した大会はすべてでメダルを取る好成績をマークしており、勝ち抜き方を覚えたという感じが体全体からにじみ出ている。

 アジア選手権の決勝の相手は、昨年の大会の決勝でも戦い、延長に入って無念にも逆転負けされた相手。昨年も互角近くに戦っていた相手だけに、「そんなに成長しているようには思えないんですよ」と、周囲が考えるほどの感激は見せない。

 それでも「去年よりいい成績ということは、力がついたということでしょうか」と話し、「試合を多くやっても大丈夫という感じ。昔は2回戦で終わることもあったけど、今は試合が多くなっても勝つ気持ちを強く持てます」と言う。いい成績を取るごとに確かな成長を遂げてきたことは間違いない。

 それだけに、6月の欧州選手権の2大会をいずれも銀メダルに終わってしまったことが、物足りない。もっとも、周囲がその思うのは、もう完全に日本のエースとしての成績を期待されているからだろう。目標を聞かれた時には必ず答えるのが"金メダル"。「金メダルと口にすることで、あらためて自分に言い聞かせられる」という強気になるためでもある。

 いまはどの階級も群雄割拠で、五輪後の3度の世界選手権を3連覇するような選手がいないどころか、連覇できる選手も数えるほどだ。池松もライバルを絞るのが難しい状況で、「みんながライバル」と言う。「でも、少しは研究しないとダメでしょうね」と、最後の詰めのライバル分析はしっかりとこなす予定だ。

 故郷の福岡・夜須町からは初のオリンピック選手。地元での壮行会をやってもらい、プレッシャーも感じた。しかし「期待されるのはうれしいですね。みんな、自分のことのように喜んでくれるし。期待に応えられなかったら、という不安も出てきますが、元気になる力の方が大きいですね」と言う。

 合宿を重ねるごとに、日本代表としての意識が強くなってくるようだ。「オリンピックの開会式は、ビデオカメラをこっそり持っていこうと思っているんですよ。できるかどうか分からないですけど」。アテネの五輪会場が、そして五輪のマットが待ち遠しいという表情。期待されるというプレッシャーとは無縁の様子であと数日を過ごそうとしている。

(取材・文=樋口郁夫、
上記写真はいずれも7月21日、菅平


◎フリースタイル66kg級の強豪と池松和彦の対戦成績


 昨年の欧州・世界チャンピオンはイルベク・ファルニエフ(ロシア)だが、国内で18歳の新鋭のマハチ・ムラタザリエフに敗れた様子。ムラタザリエフは欧州選手権でも優勝している。勢いに乗ってロシアの代表権を取ったようだ。

 和田貴広(現日本協会専任コーチ)のライバルでもあったエルブラス・テデエフ(ウクライナ)は、世界・欧州ともにコンスタントにいい成績を残している。イラン代表は池松がアジア選手権で2年連続金メダルを争ったハサン・タフマセビではなく、シドニー五輪63kg級優勝(2001・02年とも世界2位)のアリ・レザ・ダビエルとの情報もある。どちらが出てくるか。

 2001年の世界チャンピオンのセラフィム・バルザコフ(ブルガリア)は昨年も世界2位になっており、あなどれない。

 池松は昨年の世界選手権でファルニエフに1−10で完敗している。ムラタザリエフが出てくることも想定し、十分なロシア対策が必要。6月のドイツグランプリで、アゼルバイジャン代表が予測される2001年欧州2位のエルマン・アスガロフに1−4で負けているので、リベンジせねばなるまい。
(写真左は18歳のムラタザリエフ、写真右は左からダビエル、バルザコフ、テデエフ)

 

 ※池松の最近の国際大会成績 ⇒ クリック


◎フリースタイル66kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位 
ロシア(Makahach Murtazaliev)
03年世界選手権2位 
ブルガリア(Serafim Barazakov)
03年世界選手権3位 
日本(Kazuhiko Ikematsu)
03年世界選手権4位 
キューバ(Serguei Rondon)
03年世界選手権5位 
グルジア(Otari Tushishvili)
03年世界選手権6位 
ウクライナ(Elbrus Tedeev)
03年世界選手権7位 
ギリシャ(Apostolos Taskoudis)
03年世界選手権8位 
カナダ(Evan MacDonald)
03年世界選手権9位 
ハンガリー(Gergo Szabo)
03年世界選手権10位 
スロバキア(Stefan Fernyak)
03年世界選手権11位 
モルドバ(Ruslan Bodisteanu)
二次予選(1)1位    
カザフスタン(Leonid Spiridonov)
二次予選(1)2位    
ウズベキスタン(Artur Tavkazakhov)
二次予選(1)3位    
米国 (Jamill Kelly)
二次予選(1)4位    
韓国 (Jin-Kuk Baek)
二次予選(1)5位    
イラン (Ali Reza Dabir)
二次予選(2)1位    
アルメニア(Shirayr Hovhannisyan)
二次予選(2)2位    
アゼルバイジャン(Elman Asgarov)
二次予選(2)3位    
インド(Ramesh Kumar)
二次予選(2)4位    
トルコ(Omer Cubukcu)
開  催  国       =世界7位参照
ワイルドカード      
ナイジェリア(Fred Jessy)


◎2000年シドニー五輪〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 
【2000年シドニー五輪】=63kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[4-1=6:25]●Julian Carlos(キューバ)
Mohammad Talaee(イラン)○[3−2]●Arshak Hayrapetyan(アルメニア)

 ▼準決勝
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[4-0=6:57]●Mohammad Talaee(イラン)
Mourat Umakhanov(ロシア)○[?]●Jae-Sung Jang(韓国)

 ▼5・6位決定戦
Arshak Hayrapetyan(アルメニア)○[不戦勝]●Carlos Julian Ortiz Castillo(キューバ)


 ▼3位決定戦
Jae-Sung Jang(韓国)○[Tフォール、5:20=12-2]●Mohammad Talaee(イラン)

 ▼決勝
Mourat Umakhanov(ロシア)○[3−2]●Serafim Barzakov(ブルガリア)

 
【2000年シドニー五輪】=69kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Daniel Igali(カナダ)○[3-1=6:15]●Yosmany Sanchez Larrudet(キューバ)
Lincoln McIlravy(米国)○[3−1]●Ivan Diaconu(モルドバ)

 ▼準決勝
Daniel Igali(カナダ)○[6-3=8:14]●Lincoln McIlravy(米国)
Arsen Gitinov(ロシア)○[3−2]●Sergej Demtchenko(ベラルーシ)

 ▼5・6位決定戦
Yosmany Sanchez Larrudet(キューバ)○[6−3]●Ivan Diaconu(モルドバ)

 ▼3位決定戦
Lincoln McIlravy(米国)○[3−1]●Sergej Demtchenko(ベラルーシ)

 ▼決勝
Daniel Igali(カナダ)○[7−4]●Arsen Gitinov(ロシア)

 
【2001年世界選手権】=63kg級

 ▼準々決勝
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[不戦勝]●Otar Tushishvili(グルジア)
Elbrus Tedeev(ウクライナ)○[4−3]●Elman Asgarov(アゼルバイジャン)
Mehmet Yozgat(トルコ)○[6−3]●Lucjan Gralak(ポーランド)
Ali Reza Dabir(イラン)○[9−2]●Bill Zadick(米国)

 ▼準決勝 
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[5−2]●Elbrus Tedeev(ウクライナ)
Ali Reza Dabir(イラン)○[3−0]●Mehmet Yozgat(トルコ)

 ▼3位決定戦
Elbrus Tedeev(ウクライナ)○[4−0]●Mehmet Yozgat(トルコ)

 ▼決勝
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[3−1]●Ali Reza Dabir(イラン)

 【2001年世界選手権】=69kg級

 ▼準々決勝
Amir Tavakolian(イラン)○[3−2]●Yosmany Sanchez Larrudet(キューバ)
Jae-Sung Jang(韓国)○[4−2]●Ahmet Guelhan(トルコ)
Laszlo Szabolcs(ルーマニア)○[3−1]●Stefan Fernyak(スロバキア)
Nicolai Paslar(ブルガリア)○[3−2]●Emzari Betinidis(グルジア)

 ▼準決勝
Amir Tavakolian(イラン)○[フォール、5:30=5-2]●Jae-Sung Jang(韓国)
Nicolai Paslar(ブルガリア)○[Tフォール、5:30=5-2]●Laszlo Szabolcs(ルーマニア)

 ▼3位決定戦
Jae-Sung Jang(韓国)○[6−2]●Laszlo Szabolcs(ルーマニア)

 ▼決勝
Nicolai Paslar(ブルガリア)○[6−1]●Amir Tavakolian(イラン)

 【2002年世界選手権】=66kg級

 ▼準々決勝
Elbrus Tedeev(ウクライナ)○[4-3=7:20]●Serafim Barzakov(ブルガリア)
Engin Ueruen(ドイツ)○[4−2]●Lucjan Gralak(ポーランド)
Zaur Botaev(ロシア)○[3−2]●Jae-Sung Jang(韓国)
Ali Reza Dabir(イラン)○[4−1]●Neal Ewers(カナダ)

 ▼準決勝
Elbrus Tedeev(ウクライナ)○[4−0]●Engin Ueruen(ドイツ)
Ali Reza Dabir(イラン)○[2-1=9:00]●Zaur Botaev(ロシア)

 ▼3位決定戦
Zaur Botaev(ロシア)○[3−0]●Engin Ueruen(ドイツ)

 ▼決勝
Elbrus Tedeev(ウクライナ)○[5-4=6:24]●Ali Reza Dabir(イラン)

 【2003年世界選手権】=66kg級

 ▼準々決勝
Serguet Rondon Pedroso(キューバ)○[9−6]●Otar Tushishvili(グルジア)
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[5−1]●Evan MacDonald(カナダ)
Irbek Farniev(ロシア)○[6−4]●Elbrus Tedeev(ウクライナ)
池松和彦(日本)○[6−2]●Nikolaos Loizidis(ギリシャ)

 ▼準決勝
Serafim Barzakov(ブルガリア)○[4−3]●Serguet Rondon Pedroso(キューバ)
Irbek Farniev(ロシア)○[10−1]●池松和彦(日本)

 ▼3位決定戦
池松和彦(日本)○[6−5]●Serguet Rondon Pedroso(キューバ)

 ▼決勝
Irbek Farniev(ロシア)○[3-1=7:57]●Serafim Barzakov(ブルガリア)




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