【特集】目指すは栄和人監督超え…AACC成国晶子さん




 全国中学生選手権女子57kg級決勝戦の両サイドのセコンド席には、かつての全日本女子チームのチームメートが座っていた。青コーナーは世界チャンピオンだった成国晶子さん(旧姓飯島=AACC、写真右)、赤コーナーは世界選手権銀メダリストの和久井美子さん(旧姓遠藤=東洋大倶楽部、写真左)。ともに1991年の東京世界女子選手権の代表選手。時代の流れを感じさせる闘いは、成国さんの教え子の小俣内夏未(神奈川・市ヶ尾)が歌田圭純(埼玉・志木)をフォールで下し、金メダルを捧げた。

 和久井さんの夫・始さんは自衛隊&全日本チームのコーチなのでレスリングの振興に理解を示すのは当然だが、成国さんの夫・隆大(たかひろ)さんも、明大ラグビー部のトレーナーをやっておりスポーツへの理解は十分。アテネ五輪における女子レスリングへの注目によって、夫が女子レスリングへ理解を示すことが増えることが予想される。

 これまで、少年少女レスリング・クラブに携わってキッズレスラーの指導をする女子レスラーのOGはいた。しかし女子中学選手が少ないことや、結婚して家庭に入ったりすると中学生選手まではなかなか教えきれないのが現状だった。今後は、元日本代表選手が指導する中学選手がごく普通に出てくるはず。日本の女子レスリングはまたひとつ新しい時代を迎えたといえるだろう。

 成国さんは選手を引退後、まず東京・高田道場で指導。全国少年選手権で優勝選手を多数輩出させた。現在は東京・AACCへ移り、約25人の少年少女レスラーを教えている。女子中学生選手は2人で、そのうちの1人が今回勝った小俣内
(写真の右)。全試合フォール勝ちの強さでの優勝に、「本人もうれしいでしょうが、私もうれしいです」と顔をほころばせた。

 「自らがんばることを見せるのも指導」と、2002年のジャパンクイーンズカップに突如として出場し、伊調馨に挑んだりもした熱血漢(テクニカルフォール負け)。アテネ五輪に3人の教え子を送る中京女大の栄和人監督とは、京樽時代に監督と選手の関係だった。当時は世界チャンピオン特有のガンコさもあって何度も衝突したが、「今から振り返ると、栄監督は本当にいい監督でした。私たちのことを真剣に考えてくれていました。指導で大事なのは、愛情をもって教えることなんですね」と言う。その気持ちが、自分が指導者になったいま、しっかりと表れて強豪選手の育成につながったのだろう。

 この大会のあとにも、会場(茨城県スポーツセンター)のレスリング道場を借りて応援に来ていたキッズ・レスラーの練習を実施。体力のある子にもない子にも、均等に、そしてていねいに教える成国さんの姿があった。このあとも数多くの選手が小俣内に続くことが予想される。中学レスリング界ででも成国イズムを結実させつつあるといえる

 「いい選手を発掘して育て、栄さんに預けようかと思いましたが、それよりも自分でオリンピック選手を育てるのもいいかな、とも思います。栄さんの育てる選手よりも強い選手をつくるのも、栄さんへの恩返しですよね」と話し、時代が早すぎて自らは夢で終わったオリンピックにも夢をはせる。

 こうしたことができるのも、夫の理解があればこそ。「愛してます、ダ〜リン!」とは言わなかったものの、「いつも感謝しています」とよき伴侶に感謝しつつ、子供たちの練習を追っていた。

(取材・文=樋口郁夫)


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