【特集】女子48kg級プレーオフは“姉妹で対決”へ





 全日本女子チームは3月14日から、五輪代表選手が決定してから初の合宿を東京・国立スポーツ科学センターで行ったが、栄和人コーチ(中京女大監督)は4月13日に東京・駒沢体育館で行われる48kg級のプレーオフのセコンドには、伊調千春(中京女大)には妹の馨(中京女大)、坂本真喜子(愛知・中京女大付高)には姉の日登美(和光ク)をつけることを明らかにした。

 合宿に参加した主な選手のコメントは下記の通り。合宿は20日で終了。次回は4月8日から17日まで同所で行なわれる。(レポート:宮崎俊哉)

伊調千春 坂本真喜子 坂本日登美
吉田沙保里 伊調 馨 浜口京子

48kg級プレーオフ出場選手

 48kg級:伊調千春(中京女大)「クイーンズカップが終わって1週間ぐらいは、何をどうしていいのかわからず、4月13日にプレーオフがあるのは分かっていても、悔しさが強すぎて練習に気が入りませんでした。ボーとしていて、気がつくと泣いていました。初めての経験です。

 友だちが気をつかって電話とかメールとかしてきてくれたんですが、そのなかの一人から「馨を一人でアテネに行かせるのか」と言われ、ハッとして、それからはきちんと練習できるようになりました。クイーンズカップで真喜子に負けたビデオは毎日見ています。クイーンズカップと、真喜子に勝った全日本選手権では何が違うのか、なぜ全日本では勝てたのに、クイーンズカップでは負けたのか、最初は全くわかりませんでした。そうしたら妹に、『全日本のときはリラックスしていたけど、クイーンズカップのときは勝たなきゃという気持ちが強すぎて、緊張してガチガチだった』と言われ、自分でも最近ようやくわかるようになりました。動きが全然違っていましたね。相手は小さく、低く構えているのに、自分は構えも高かったし。

 全日本の時は、初めての48kg級だったので負けてもいいぐらいに考えていましたし、プレオリンピックのときはどんなものか知りたかっただけですし。それが、クイーンズカップのときは守りに入ってしまったんでしょうね。妹に『勝たなきゃいけないと思ってると、すぐ顔に出るからわかる』と言われました。今一番大切にしていることは、リラックスすること。正直、プレーオフが延びてよかったと思います。自分の悪かった点に気づいて、すぐ試合するより時間がある方がいいですから。

 真喜子のことは意識しますが、共通の仲間が多いので、気づいたらいつも同じグループにいます。周りの人が気をつかって、助けてくれているがありがたいです。妹には、毎日練習後アドバイスをしてもらっています。今日も、タッックルに入るときも、つぶされたときも、頭が落ちないようにしろと言われました。

 クイーンズカップが終わってから、妹がずっと自分の練習そっちのけでつきあってくれています。4月13日まで残りの日数、悔いの残らないようにがんばり、やるだけやったという気持ちで戦います。妹の言うことを聞けば勝てます。相手と一回組み合ったら、腰を落としてかまえてリラックスします。それでも緊張したり、焦ってきたも、妹の顔を見ればリラックスできるのでもう大丈夫です」


 48kg級:坂本真喜子(愛知・中京女大付高)「今は姉がいてくれているので、ものすごく力強いです。最初は、姉はクイーンズカップが終わったら青森に帰る予定でしたが、私がそばにいて欲しいと頼みました。全日本選手権の決勝では全く動けませんでしたが、クイーンズカップのときはすごく積極的に攻められたと思います。姉からは『ここからもう一つ違うことをプラスしよう!』と言われています。最近は結構よく食べているので体重は1〜2kg増えましたし、練習中何度もタックルに入って相手を持ち上げているので自然と力がついててきました。

 勝つために体を大きくしていますが、きっとオリンピックにも繋がると思います。今のパワーを落とさず、タックル以外のもの、例えばがぶりとかプラスして、力をアップさせます。1日も早くプレーオフで戦いという気持ちと、もっと力をつけてからた戦いたいという気持ちと、どっちもあります。

 ずっと姉のことを見て練習してきたので、レスリングのスタイルが似ているとよく言われますが、最近は直接指導してもらっているのでもっと似てきたと自分でも思います。以前はタックルに入るときもタラタラしていて、入らされているという感じでしたが、姉に指導されて研究するようになってから、相手を動かして入るときに入るようになりました。タックルのタイミングがわかったというか、とれるときに入れるというか、最近それが身についてきました。今は足にさえ触れれば、1 ポイントに繋げられる自信があります。

 人生かけて戦います。クイーンズカップで勝ってチャンスができて本当にうれしかったです。今は、そのチャンスを無駄にしないようにがんばります。アテネには絶対に行きたい、千春先輩に絶対に勝ちたいです」 


 セコンドにつき、自らも復帰する坂本日登美(和光クラブ)「昨年7月1日付けで中京女子大大学院を休学して、青森に帰っていました。一昨年の全日本選手権、つまり左ヒザの手術から復帰した大会で沙保里(吉田)に負けた時は、『なぜ自分はここまで弱くなってしまったのか、何のために手術までしたんだろう、もうアテネはない、何のためにレスリングをやるんだろう』と悩みました。レスリングは自分にとって命より大事なもの、レスリングのためなら何でもできると思っていたのに、それがダメになってどうやって生きていくのかわからなくなっていました。

 青森では3カ月間、ずっと家から出ず、後ろ向きな考えやマイナス思考ばかりで、カウンセリングにも行きましたが。それが10月になって同級生からメールをもらって、みんなからこんなに離れているのに、まだ自分は忘れられていないんだ、独りぼっちじゃないんだと思えるようになって、少しずつ頑張ろうという気持ちになったんです。

 10月上旬、手術したヒザの金具がひっかていたのを1週間ほどギブスして治したら、さらにやる気が出てきて、これからは自分が勝つためじゃなく、チビッ子たちを教えるためにもう一度レスリングをやろうと思うようになったんです。親も心配してくれていたので、『レスリングとかかわっていれば何でもいい』と言ってくれました。

 10月下旬、10日間入院してヒザの金具を取って、12月には先生から『もうレスリングをやってもいいよ』と言われ、少しずつ体を動かすようになりました。どうでもいい、いつ死んでもいいと思って何もしないで生活していたら74kgまで増えてしまって。これじゃダメだと思って、まずは体重を落とすところから始めました。全日本選手権のとき、親は夜行バスで真喜子の応援に行きましたが、私は行かないつもりだったんです。関係者に会ったら、どう思われるだろうとかと考えて。でも、次の日、急に真喜子の応援に行きたくなって、新幹線に飛び乗りました。

 会場に着いたら、中女のみんなが笑いかけてくれたり、話しかけてくれて、『友だちっていいなぁ、来てよかったなぁ』と思いました。真喜子は負けてしまいましたが、負けたからこそ、冷静に見られた自分が来てよかったです。全て終わったわけじゃない。次に勝てばチャンスはあると思っていたら、2人で新幹線に乗って帰るとき、真喜子から『そばに来て』と言われて。最初は『やだ、行けるわけないじゃない』って言ったんですけど、妹が『1年前はお姉ちゃんがそばにいてくれたから勝てたんだ』と言われました。同門対決ですから、監督やコーチもやりにくいでしょうし、今のままではこれ以上強くなれないと思って、私も決意しました。

 青森駅に着いたらすぐに親が監督に電話して、了解をいただきました。全日本選手権の後、1週間ほど地元のチビッ子の合宿に参加して、半年ぶりにレスリングシューズを履いたんです。妹や弟とレスリングをやって、チビッ子たちのレスリングに対する純粋な気持ちにも触れることができて。自分のいる場所、自分ががんばる場所はマットしかないと気づきました。

 それと、自衛隊の合宿にも参加させてもらって。チームの中で練習していたら、教えるのではなく、やっぱり自分のためにやりたいと思うようになりました。1 月10日に中京に戻って妹といっしょに練習するようになって、クイーンズカップでは妹が戦う姿を見て、姉のために必死でがんばって勝ったというのが伝わってきて、自分もがんばらなくちゃと背中を押された気がしました。

 そんなわけで、クイーンズカップ(アジア選手権予選=4月3日)に出場することになりました。51kg級は自分の階級です。今回、連盟の方が合宿に選んでくれて、本当にうれしいです。小学校3年生のときからレスリングを始めて、今一番楽しいです。落ち込んでいたときは、妹がうらやましくて仕方なく、素直に応援できませんでした。『なんで48kg級はオリンピック種目で、51kg級は違うんだ。なんで後から中女に来たあんたがオリンピックを狙えるんだ』と、嫌いになったこともあります。

でも、今は心から応援しています。自分がオリンピックに行きたいとばかり考えていたときとは違って、人を応援できるようになった。真喜子がアテネ・オリンピックに行けたら、自分が行くのと同じくらいうれしいです。4 月13日のプレーオフが終わったら、埼玉でアパート暮らしをして、自衛隊で練習させていただき、来年からは自衛隊体育学校に入学してます』       


アテネ五輪代表選手

 55kg級:吉田沙保里(中京女大) 「他の競技も代表が決まってきて、自分もオリンピック選手なんだなぁと少しずつ思うようになりました。父には、『とにかくケガだけは気をつけろ。焦らず、徐々にかんばれ。今は少しリラックスした練習でいい』と言われました。意識の中ではアメリカ、ロシアがライバルだと感じていますが、向こうから攻めてこないので研究になりません。どう攻めるか、自分の研究をします。

 タックルに入る前の動き、いなしとかがぶりとかを徹底的に練習していきます。パワーで勝ちにいく、近くからも攻められるレスリングができるようにがんばります。手が触れるかどうかの間合いなら、絶対にタックルを決めて勝つ自信があります。まだオリンピックで連覇した日本の女子選手はいないので、自分がアテネと北京で優勝して、2連覇を達成します」


 63kg級:伊調馨(中京女大)「今は姉のサポートに専念したいので、クイーンズカップのあと、自分の練習は始めていません。姉と一緒にウエートトレーニングをしたり、姉のスパーリングを見たり、練習のあと話し合ったりするのは、自分の使命、自分の仕事だと思っています。

 姉が負けた理由も自分になり考え、分析しましたが、戸惑っています。もっと近くで応援すればよかったんじゃないか、かける言葉はなかったかと反省しています。今も、アドバイスはこれでいいのか、それが身についているか、自信になっているか、このままで勝てるか、不安でいっぱいです。それでも、姉は真喜子に負けたことを受け止めて、素直に監督やコーチの話を聞いて、とても前向きになっているので、大丈夫です。

 試合中、姉を見るとリラックスできて、とっても安心して力が入ります。オリンピックも一人で行くのでは不安で、きっと自分は勝てないんじゃないかと悩むと思いますが、2人でいると心強い。プレーオフではセコンドにつきたい。日登美さんもセンコンドにつけば、姉にとっても真喜子にとって一番フェアで、すっきりした試合になると思います。

 今は姉のことだけに集中します。絶対千春と一緒にアテネに行って、二人で金メダルをとります」


 72kg級:浜口京子(ジャパンビバレッジ)「浅草の街を歩いていると、知らない人からも「がんばってね。オリンピック出られておめでとう。よかってね」と言われるようになりました。でも祝福の後には、必ずプレッシャーを感じさせるエールもあって、『これからが勝負だね』と言われるんです(笑) 。

 ライバルと言われるクリスチン・ノードハゲン( カナダ) が先日の世界予選で優勝して出場権を獲得しましたが、来たな、という感じです。プレ・オリンピックのときは、ワールドカップより強さは感じませんでした。そういうコンディションだったのか、自分がワールドカップのときより進歩していたのか。

 モンゴメリ(米国)は、ニューヨーク(03年世界選手権)で戦った時と変わりはなく、今まで通りでした。きん差の判定でしたが、動きは全て分かっていました。それでも、父からはビデオを見た瞬間、頭ごなしに『ダメだ!』と怒られました。勝ったけど、内容が全然だと。私も満足はしていません。

 勝ったり負けたりしたことによって、挑戦者でもいられるし、プライドも持っていられる。気持ち的にはとてもいい状態だと思います。今は、これまでの反省のもとづいて違ったことを練習しています。精神面は父から毎日たたき込まれているので、問題ありませんが、課題は技術面。自分でもまだ伸びる素質があると思うし、もっと磨いていかないと勝利は見えてこない。

 アテネのマットに立ったとき、スキのない状態にもっていきたいです。重点的に鍛えている点はありますが、秘密です(笑) 。今までやってきたことのすべて、うれしかったり、悔しかったリ、落ち込んだり、そうした思いのすべてをぶっつけて、開花する−。アテネは、自分の人生の中で一番花が咲くところじゃないといけないと思います。

 アテネで応援してくださる方々、日本からテレビを通じて声援を送ってくれるみなさんと、心を一つにして感動したいと思います。金メダルを取ると口で言うのは簡単ですが、これからは目に見えないプレッシャーもあると思います。全ては始めての経験なのでわかりませんが、これからは本当に真剣に練習するだけです」




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