女子48kg級プレーオフ 両選手のコメント&熱戦写真

(4月13日、東京・駒沢体育館)


【女子48kg級プレーオフ】

伊調千春(中京女大)○[3−0]●坂本真喜子(中京女大)

《経過》坂本がタックルで再三攻めるが、伊調がことごとくカット。両者とも決め手を欠き、0−0で第1ピリオドを終了。第2ピリオドのクリンチは伊調が粘り勝ち、
坂本を背中からマットに落として3−0とした。こうなると伊調が有利。
坂本の攻撃をしのぎ切り、五輪出場を決めた。


     

    

       


 死力を尽くしての6分間は終わった。同チーム選手の対戦ということで、応援席が熱狂することはなかった。また、相手を思いやってか、勝った伊調にはガッツポーズも大きなアクションもなく、試合終了直後の会場は大一番が終わったようには思えない空気だった。

 だが、紛れもなく4年に1度晴れ舞台を目指した壮絶な死闘がそこにあった。「金メダルを取ってきてほしい」という坂本のエールに、伊調は「取ってきます。真喜子がいてこそ、ここまで来れた。真喜子の分までがんばりたい」と答えた。

 負けても、き然とした態度で報道陣に対応し、相手を賞賛した坂本の姿に、スポーツマンとしての“勝者”の姿を見た人は多かった。


 伊調千春の話「信じられません。うれしいです。クイーンズカップで負けてから、ずっとつきっきりでやってきてくれた妹に、心から『ありがとう』といいたいです。馨には『リラックスしていけば大丈夫』と言われ続けてきましたが、それができたと思います。

 手を出し続けて、相手の攻めもつぶすことができました。今日は、冷静に戦えました。タックルを切る練習もしてきたので、取られる心配はありませんでした。真喜子がいてくれて、こまでで来れたと思います。簡単にオリンピック代表になれたら、こんなに練習しなかったでしょう。今はとっても感謝しています。

 真喜子の分までがんばって、必ず金メダルをとってきます。きのう、馨からノートをもらったんですが、みんなからのメッセージが書かれていて。最後に馨が『待っているから早く来い』と書いてくれていました」


 伊調馨の話「よかったです。これで2人で一緒にアテネに行くことができます。2人で絶対金メダルをとります。千春は誰よりも落ちついていました。周りの方が逆に緊張していたくらいです。第1ピリオドはちょっと後ろ向きなところもありましたが、諦めないで叫び続けてよかったです。いっぱい声をかけましたが、何を言ったかは全然覚えていません。セコンドは難しですね。何て言ってあげたらいいのか、自信がなくて。

 クイーンズカップが終わってから、毎日遅くまで2人で練習してきたよかったです。勝った瞬間は涙が出ました。自分の試合より疲れますね。千春のせいでやせてしまったので、焼き肉でもおごってもらいます」


 坂本真喜子の話「正直、悔しいです。負けてしまったけど、姉といっしょにやってきたことは全て出せたと思います。姉の教えに、間違いはありませんでした。今は姉に、『勝てなくてゴメンネ』と言いたいです。

 クリンチでは、場外へ押し出せると思ったんですけど、投げられてしまいました。負けたという現実を受け止めて、姉と2人で北京オリンピックを目指します。千春先輩、アテネでは必ず金メダルを取ってください。応援しています」


 坂本日登美の話「厳しく指導してきたので辛かったと思いますが、真喜子はよくがんばったと思います。今日は千春の方が上でした。2人でがんばって北京オリンピックを目指します」


 中京女大・栄和人監督の話「千春の粘り勝ちでした。たいしたもんです。試合経験の差もありました。千春にはここでオリンピックを逃したら2度と行けないという気持ちがあったんでしょう。人生かけてやってきた執念の勝利。2002年世界選手権の決勝で負けたときの涙、2003年世界選手権で優勝して流した涙を思い出しましたが、頭が下がります。

 千春も真喜子も、誰よりも練習する選手なので、できることなら2人ともオリンピックに行かせてやりたかった。真喜子にはもう1回やり直して、次の世界選手権、次のオリンピックを目指してもらいたいと思います」


 全日本女子チーム・鈴木光強化委員長の話「伊調千春選手も坂本真喜子選手も、ここまでよくやってきました。クイーンズカップが終わってから、2人とも一気に力を伸ばしてきたと思います。スポーツは勝ち負けがあるので、仕方ないですね。今さらですが、7階級あれば、と思います。

 代表選手に決まった伊調千春選手は、坂本真喜子選手の分までがんばってくれるでしょう。今日勝ったイメージを大切にして、アテネでも戦ってほしいと思います。伊調選手は、世界チャンピオンのメルニク(ウクライナ)にも勝っているので(2001年世界ジュニア選手権)、オリンピックでもやってくれるでしょう。これで金メダル4個獲得できる陣容が整いました。これからまだまだもっと厳しい合宿を重ねていきますので、応援よろしくお願いします」


 ○…日本における姉妹での五輪出場は、96年アトランタ五輪のバドミントンで水井妃佐子・泰子(シングルス)、宮村愛子・亜貴子(ダブルス)、00年シドニー五輪のシンクロで米田祐子・容子(チーム=銀メダル)がいる。伊調千春・馨は日本女子4組目になる。


(取材・宮崎俊哉、構成・樋口郁夫)