【特集】この悔しさで、本当に気持ちが燃え上がった…男子グレコ84kg級・松本慎吾





 男子グレコローマン84kg級・松本慎吾(一宮運輸)の豪快な俵返しがさく裂。レフェリーが片手を大きく広げた(5点)。2回戦(初戦)、3回戦と勝ち抜いたものの、目にすることのなかった必殺技が、アテネ五輪6位のダラガン(ウクライナ)相手に見事に決まり、第2ピリオドにつなげた。

 しかし、あと一歩及ばず、無念の黒星。この選手が次の試合でアテネ五輪王者のアレクセイ・ミシン(ロシア)に敗れたため、銅メダルを目指した闘いに進むことなくマットを降りた。

 「第2ピリオドを落としても、第3ピリオドでの勝ちパターンは頭にあった。しかし、上げ切れなかった…」。グラウンドの防御の時に立ち上がったことで、逆に3点を失うことになり、攻守交替したあとの相手に余裕を与えてしまったのかもしれない。30秒間こらえるだけの方が、最後の30秒につながったかもしれないが、それは結果論。勝つために、最後まで闘争心を燃やして相手に向かっていった姿勢は伝わってくる。

 このウクライナ選手を含めて、この階級の準決勝、3位決定戦、決勝はいずれも大激戦で、紙一重で競っている状況。最終的な8位という順位とともに、松本の実力が世界のトップに近いことは証明された。大学院へ進んで環境が変わり、授業によって練習の量が減ったという面があったが、実力は決して落としていない。

 しかし、本人は世界選手権までの道のりに不満は少なくない。「世界チャンピオンになる、と口にはしていたけれど、実際は、授業を理由に練習を休んだりしたこともあった。そのちょっとした積み重ねが、この結果につながったのだと思う」。

 自己を厳しく責めたあとは、「今回、本当に悔しい思いをした。オリンピックのあと停滞していた気持ちが、やっと晴れた。来年こそは世界チャンピオンを目指す気持ちが本当に燃え上がってきた」ときっぱり。「授業を言い訳にしない。授業があっても練習量は落とさない」と考えが変わったという。

 国内では相手になる選手が少なく「フラストレーションがたまるだけ」と、2年前に実行したようなソ連圏への長期修行も視野にいれている。「海外でもまれて強くなると思う。機会があれば、どんどん海外へ練習にいきたい」と話し、「もう明日から闘いが始まっています」と締めくくった。

(取材・文=樋口郁夫)




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