【特集】俵返しで勝負する前に負けて「悔しい!」…男子グレコ66kg級・飯室雅規





 2回戦の李岩岩(中国)戦の第1ピリオドで得意のリフト技が爆発し、吹っ切れたと思われた男子グレコローマン66kg級の飯室雅規(自衛隊)。第2ピリオドは落としてしまったが、第3ピリオド、先にグラウンドの攻撃権を獲得。「さあ勝負!」という矢先に、非情にも3度目の警告を宣せられ、不本意な2回戦敗退に終わった。

 クロス・ボディ・ロック(俵返しの組み手)を組もうとする飯室に対し、チェアマンが立ち上がって、「それじゃあダメだ。こうしろ」とゼスチャアつきで指示する。左腕を深く差し込んではならず、相手の腹の下でクラッチを組めという内容。この日の朝、国際レスリング連盟(FILA)から各国に通達されていた。

 飯室にもそのことは伝わっていたはずだが、1度くらいは注意されても自分の得意な体勢をつくってスタートするのは、この世界の鉄則。「まだ大丈夫だろう」と思っていたであろう飯室は、急に警告を宣言され、俵返しにトライすることもなくマットを降りざるを得なかった。

 「今までで一番悔しい負け方だ…」。飯室は絞り出すような声で言った。ルールの通達は知っていたが、審判によって判断に違いがあり、あの場面で警告がくるとは思っていなかったという。「決して強い相手ではなかったし…。格下に負けた、という気持ちです」と話した後、「一番悔しい負け方です」と、同じ言葉を口にした。

 飯室が記者団に囲まれる前に、長時間、厳しい表情で叱咤(しった)した伊藤広道コーチ(自衛隊)は「2コーションを受けていたし、もっと注意しなければ」と悔やんだ。「注意は1度しかしていなかったのでは?(ルールで攻撃側は3度目の注意でコーション)」という問いに、「チャーマンがビデオで確認している。指を差しての注意は1回だったかもしれないが、口頭ででも注意していたんでしょう」と説明。「勝てる相手だった」と、飯室と同じような言葉を口にした。

(取材・文=樋口郁夫)


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