【特集】世界選手権へかける(21)完…女子72kg級・浜口京子






 「気がついたら、もう10年。あっという間でしたね」

 東京・国立スポーツ科学センターで行われた代表合宿中の公開練習後、記者に囲まれた女子72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)は、静かに、ゆっくりと語った。

 「先日、自宅で食事しているとき、フッとアタマに浮かんだですよね。今度の世界選手権が10回目の挑戦、オリンピックも合わせると11回目かって。自分でもよくやってきたなぁと思います。ケガしても、戦い続けてきた。毎回毎回、それぞれにいい思い出。この歴史は、何にも変えがたい大切なモノです」

 1995年、世界選手権(ロシア・モスクワ)に初めて挑んだ京子は、17歳だった。成績は13位。翌年も日本代表となり世界選手権(ブルガリア・ソフィア)に出場したが、7位。だが、帰国した京子が父・アニマル浜口氏に「力負けはしなかった」と告げたことから、父娘鷹の壮絶な闘いは始まった。

 1997年、京子は世界選手権5度の優勝を誇っていた劉東風(中国)を破り、初優勝を飾ると、99年まで3連覇を樹立。その後、00年は3位、01年も4位と落ち込んだものの02年に復活を果たすと、2連覇の実績を引っさげてアテネ・オリンピックへ乗り込んだ。

 ところが、オリンピック準決勝、電光掲示板の表示ミスという考えられないアクシデントが起こった上、これまで取られたことのなかった警告でポイントを失い、まさかの敗退。銅メダルに終わったが、「メダルの色は変わってしまったけど、金メダル以上の経験でした」とさわやかなコメントを残し、金メダリスト以上に人気を高めた。京子が、レスリングの第一人者であることは変わらなかった。

 オリンピックから1年が過ぎた今も、新聞・雑誌の取材、テレビ・イベントへの出演依頼は山のように舞い込んでくる。それでも、彼女は少しも満足することなく、うぬぼれることもなく、そして迷うことすらなく、アテネから戻るやいなや再び艱難辛苦の道を歩き始めた。08年北京オリンピックに向けて。今度こそ、オリンピックで頂点に立つために。いくらく敗北を喫しても、谷底に突き落とされても、さらにさらに強くなってはい上がることこそ、京子の真骨頂。彼女のレスリング人生、そのものだ。

 泣き言は吐かなかった。誰にも、一言の文句もぶつけなかった。全ては自分の弱さゆえと自らに言い聞かせ、逆に周囲を気づかう笑顔の下でかみしめた。アテネのあの悔しさ、あの屈辱、あの無念をはらすには、再び世界の頂点に立つしかない。

 「邪念がなく、闘う女としてでき上がりました。真っ白な気分で挑戦します。必ず勝つという気持ちを、勝利の女神は見てくれていると信じて戦います。今回も家族の支えを感じました。世界選手権では、ガムシャラに、気合の入りまくった暴れ馬のようなレスリングします」

 京子は、最後にそう記者たちに伝えた。

 9月30日、ハンガリーの首都ブタペストで京子はリベンジをかけて戦う。同時にそれは、クリスティン・ノードハゲン(カナダ)、浦野弥生と並ぶ最多タイV6の大記録への挑戦であり、ニコラ・ハートマン(オーストリア)がマークした9回連続出場、10回出場を凌駕(りょうが)する世界選手権10回連続出場の偉業達成となる。

(取材・文=宮崎俊哉)


 ◎女子72kg級展望

 《中国》アテネ五輪金メダルのワン・シュは出てくるか? 5月のアジア選手権は03年67kg級世界7位のワン・チアオ(写真左)が出場して優勝した。


 《ドイツ》アテネ五輪6位のアニータ・シャツルが、1月のヤリギン国際大会、3月のクリッパンン国際大、4月の欧州選手権、7月のカナダカップでそれぞれ優勝と、好成績を残している。

 
《ロシア》アテネ五輪には出場できなかったが、常連ともいえるスベトラーナ・マルチネンコが、4月の欧州選手権で2位に入った。5月のワールドカップはユリア・バルトノブスカヤが出ており、誰が出場するかは不明。

 
《ウクライナ》アテネ五輪4位のスベトラーナ・サヤエンコが、4月の欧州選手権5位と不調だったが、5月のワールドカップは2位へ。

 
《カナダ》世界V6のクリスチン・ノードハーゲンは休養。04年ワールドカップ2位のオヘネワ・アクフォが代表で1月のデーブ・シュルツ国際大会、3月のミロン・トロフィー大会優勝。8月のユニバーシアードで優勝している。

 
《米国》03年世界2位でアテネ五輪代表のトッカラ・モンゴメリは休養で、アイリス・スミスが代表。5月のワールドカップは3位だった。


 ◎浜口京子の最近の主な国際大会成績

 【2003年クリッパン国際大会】=
優勝

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[フォール] Anita Schatzle(ドイツ)
予選3回戦 ○[フォール] Cecilia Ahlenius(スウェーデン)
準々決勝  ○[フォール] Christine Nordhagen(カナダ)
準 決 勝  ○[判 定] Svetlana Martynenko(ロシア)
決    勝  ○[フォール] Monika Kowalska(ポーランド)

 【2003年ポーランド・オープン】=
優勝

予選1回戦 ○[5−0] Nina Englich(ドイツ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[4−2] Svetlana Martinenko(ロシア)
準 決  勝 ○[フォール、2:47=8-0] Katerina Burmistrova(ウクライナ)
決    勝 ○[フォール、2:54=6-0] Anita Schatzle(ドイツ)

 【2003年世界選手権】=
優勝(23選手)

予選1回戦  ○[3−0] Svitlana Sayenko(ウクライナ)
予選2回戦  ○[フォール、1:43=9-1] Sonika Kalirman(インド) 
予選3回戦   BYE
決勝T1回戦 ○[4−0] Edyta Witkowska(ポーランド)
準  決 勝  ○[4−2] Stanka Zlateva Hristova(ブルガリア)
決     勝  ○[4−1] Toccara Montgmery(米国)

 【2003年ワールドカップ】=
3位(7選手出場)

リーグ1回戦 ●[5−6] Nordhagen Christina(カナダ)
リーグ2回戦  BYE
リーグ3回戦 ○[4−0] Schatzle Anita(ドイツ)
リーグ4回戦 ○[3−0] Ma Bailing(中国)
リーグ5回戦 ○[フォール、2:40=6-4] Shamova Anna(ロシア)
リーグ6回戦 ○[フォール、0:20=3-0] Kourtelesi Alexia(ギリシャ)
リーグ7回戦 ●[3−5] Montgomery Toccara(米国)

 【2004年プレ五輪大会】=
優勝(16選手出場)

予選1回戦 ○[フォール、5:22=3-1] Christin Nordhagen(カナダ)
予選2回戦 ○[フォール、0:57=3-0] Alexia Kourtelesi(ギリシャ)
予選3回戦   BYE
準 決 勝  ○[4-3=6:31] Toccara Montgomer(米国)
決    勝  ○[5−1] Mander Unda(スペイン)

 【2004年アジア選手権】=
優勝(6選手出場)

予選1回戦 ○[Tフォール、4:59=11-1] Zhang Dan(中国)
予選2回戦 ○[フォール、0:22=3-0] Sonika, Kaliraman(インド)
予選3回戦  BYE
決    勝 ○[フォール、0:34=3-0] Burmaa Ochirbat(モンゴル)

 【2004年アテネ五輪】=
3位(12選手出場)

予選1回戦 ○[8−4] Toccara Montgomery(米国)
予選2回戦 ○[Tフォール、5:17=10-0] Stanka Zlateva(ブルガリア)
予選3回戦  BYE
準 決 勝  ●[4−6] Wang Xu(中国)
3位決定戦 ○[4−0] Svitana Sayenko(ウクライナ)

 【2004年ワールドカップ】=
優勝(6選手出場)

リーグ1回戦 ○[フォール、2:21=4-3] Ohenewa Akuffo(カナダ)
リーグ2回戦 ○[不戦勝] ---- (米国)
リーグ4回戦 ○[途中棄権4:41=6-0] Alena Starodubtseva(ロシア)
リーグ5回戦 ○[3−0] Ma Bailing=馬佰玲(中国)

 【2005年ワールドカップ】=
優勝(7選手出場)

予選1回戦 ○[フォール1P (4-0)] Iris Smith(米国)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[2−0(2-0,2-0)] Elena Perepelkina(ロシア)
決    勝 ○[判定、4:00] Svitlana Sayenko(ウクライナ)




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