【特集】世界選手権へかける(13)…女子59kg級・正田絢子
1999年世界選手権(スウェーデン・ボーデン)、正田絢子(当時京都・網野高=現ジャパンビバレッジ)は、衝撃のデビューを飾った。17歳、初出場初優勝。チビッコレスラー憧れの山本美憂と肩を並べた。
「ただ無我夢中で、がむしゃらに戦っただけ。まぐれだったかもしれませんよ」
本人はそう振り返る。だが、周囲の期待は一気に高まった。こかられ何度、世界を制するのか。日本の中量級は10年安泰と思われた。
しかし、栄光は一瞬だった。翌00年、アジア選手権で優勝するも世界選手権代表を逃すと、ケガに泣かされ続けた。世界選手権はおろか、国内大会にも出場できず、満足に練習できない。正田は、脱きゅうがくせになっていた右肩にメスを入れる決心をした。手術が無事終わり、麻酔から覚めたベッドで見たテレビは「女子レスリング、アテネ・オリンピック採用」を告げていた。
間に合うか。焦りがなかったといえば、うそになるだろう。それでも、女子レスリングが長年夢見てきたオリンピック採用が現実になれば、むざむざ諦めるわけにはいかない。アテネ・オリンピック出場権獲得に向け、懸命のリハビリに励んだ。
1年半。その間、伊調馨(愛知・中京女大附高→中京女大)が台頭していた。高校3年で出場した02年アジア大会で銀メダルを獲得したあと、世界選手権2連覇。
正田はアテネ・オリンピック金メダル候補ナンバー1と言われるようになった馨に挑むも、2003年全日本選手権、2004年ジャパンクイーンズカップと立て続けに敗れ、オリンピック出場の夢は破れた。複雑な気持ちでテレビ観戦したアテネ・オリンピック。華々しい舞台で、ライバルは金メダルを獲得していた。
そのオリンピックから7カ月。今年3月に行われたジャパンクイーンズカップ、正田は馨へのリベンジをひとまず棚上げにし、階級を変更した。減量はきつい。だが、自分にとって、まずは世界チャンピオンに返り咲くことが何よりも先決だと考えた。あの17歳での世界選手権優勝がまぐれでなかったことを、自分自身確認するために。
ジャパンクイーンズカップ59s級を制した正田は、ワールドカップ(フランス・クレルモンフェラン)で3戦3勝をマークし、日本チームの優勝に貢献するとともに個人でも優勝。8月にトルコ・イズミールで開催されたユニバーシアードでも、圧倒的勝利の連続で金メダルに輝いた。
完全復活に向け、残されたのは世界選手権優勝のみ。だが、それは正田にとって始まりでしかない。最終目標は「自分の階級」と断言する63s級に戻り、馨を破ること。そして、北京オリンピックに出場して、金メダルを獲得すること。
そのことを宣言するように、正田は59s級代表として出場したユニバーシアードの日本代表選手団名簿に、自らの体重を“63s”と記した。
(取材・文=宮崎俊哉)
◎女子59kg級展望
※出場選手が判明した場合は差し替えます。
《米国》03年世界3位・ワールドカップ優勝のサリー・ロバーツ(写真左)が代表。1月のヤリギン国際大会と2月のデーブ・シュルツ国際大会優勝 5月のワールドカップ2位。3月のクリッパン国際大会では西牧未央に敗れて2位。
《スウェーデン》アテネ五輪55kg級4位のイダ・テレス・カールソンが、04年に続いて今年の欧州選手権でも優勝。力をキープしている。
《イタリア》アテネ五輪55kg級代表のディレッタ・ジアンピッコロが、3月のメドベジ国際大会優勝、4月の欧州選手権3位、6月の地中海選手権優勝と力をつけている。
《ノルウェー》世界V3のグドルン・ホイエが現役続行。6月のオーストリア・オープンで優勝している。8月のワルシャワカップは55kg級で3位。どちらの階級出てくるか?
《韓国》04年アジア選手権2位のキム・ヒヨン(写真右)が、5月のアジア選手権で優勝と、力をつけている。
◎正田絢子の最近の主な国際大会成績
【2003年アジア選手権】=優勝(7選手出場)
予選1回戦 BYE
予選2回戦 ○[F2:55=10-0] Chuang, Shu-Fang(台湾)
予選3回戦 ○[7−2] Hang, Jin-Young(韓国)
決 勝 ○[TF4:11=0-10] Geetika, Jakhar (インド)
【2003年ワールドカップ】=8位(10選手出場)
リーグ6回戦 ○[不戦勝] ---(ギリシャ)
【2004年カナダカップ】=優勝(7選手出場)
準決勝 ○[F] Yaniik, Viola(カナダ)
決 勝 ○[F] Hennick,Helen
(以上、63kg級。以下は59kg級)
【2005年ワールドカップ】=優勝(7選手出場)
予選1回戦 ○[2−1(1-2,5-1,3-2)] Sally Roberts(米国)
予選2回戦 BYE
予選3回戦 ○[2−0(1-0,3-0)] Viktoria Zagaynova(ロシア)
決 勝 ○[F1:46] Natalia Synyshin(ウクライナ)
【20005年ユニバーシアード】=優勝(10選手出場)
予備戦 ○[フォール1P1:10] Maite Piva(フランス)
1回戦 ○[2−0(4-0,5-3)] Breanne Graham(カナダ)
準決勝 ○[2−0(2-0,2-0)] Elena Komarova(ウクライナ)
決 勝 ○[2−0(4-0,6-0)] Justyna Barciak(ポーランド)