【特集】目標は「坂本兄弟」と呼ばれること。日大Vを支えた坂本将典主将





 9月16日に行われた全日本学生王座決定戦で、リーグ戦の覇者・拓大を破って3年連続の優勝を決めた日大。その日大でチームを引っ張るのが、青森・八戸工大一高卒の坂本将典(まさのり)主将だ。“八戸工大一高卒の坂本”と言えば、26日からの世界選手権へ挑む坂本日登美・真喜子の姉妹を思い浮かべる人が多いと思うが、将典は2人の間の兄弟。「坂本姉妹ではなく、坂本兄弟(姉兄妹)と言われるように頑張ります」と、この優勝を機に新たな飛躍を誓った。

 66kg級のレギュラーとして出場した坂本は、1、2回戦をともに2−0で勝ち、準決勝は03年全日本2位であり今夏のインカレでも2位になった鈴木崇之(立命館大)を2−1で破る殊勲を上げてチームを盛り上げた。

 決勝戦
(写真右)では、藤本浩平にクリンチ勝負で惜敗。そのため、優勝の決まったあともちょっと元気がなく「複雑な気持ち。でも拓大の流れだったムードを最後に頑張ってくれてよかった。いい後輩に恵まれてよかった」と第一声。しかし「主将の頑張りがあったからでは?」の声に、「うれしさの気持ちの方が勝っています」と少し表情がやわらいだ。

 日大は03年にリーグ戦と全日本学生王座決定戦で勝ちながら、全日本大学選手権・団体戦で2位。04年は全日本学生王座決定戦と全日本大学選手権・団体戦で勝ちながら、リーグ戦の決勝で日体大に逆転負けしており、ともに年間の三大タイトル独占を逃していた。「今年こそ」の思いで挑んだ05年。スタートのリーグ戦で決勝のマットにも上がれなかったことは、主将として心が痛んだ。

 「(主将は)チームの強化を考えなければならないけど、自分自身の強化も頑張ってきた。それがチームの強化につながるから」と、まず自分自身をとことん追い詰めた。それがチーム全体の底上げにつながったのだろう。

 決勝戦で痛恨の1敗を喫したとはいえ、主将としての責任を立派に果たした4か月間。高松義行部長、松原正之総監督、富山英明監督と続いた胴上げで、監督直々に指名されて宙を舞ったのは
(写真左)、当然のことだった。「胴上げを受けたのは初めて。気持ちよかったですね」という言葉が出た時、初めて会心の笑みが浮かんだ。

 姉と妹が世界へ挑むのに対し、自らは表舞台に出ることは少なかった。小学校の頃はレスリングをやりながらも“本職”は野球だったため、そのあたりが姉妹に遅れた要因かもしれない。しかし、姉の勧めもあり、来春からは自衛隊に進んで世界を目指す予定だ。「姉と妹の活躍はうれしいです。でも、坂本兄弟と言われるように自分も頑張ります」。

 インカレ2位の選手を破った実力は、今後大きく開花する可能性が十分。「口だけの選手にはなりたくないので、あまり大きな声で言えないが、世界で通じる選手になりたい。そのために自衛隊へ行くのです。やるからには、精いっぱい頑張ります」ときっぱり。富山監督は「66kg級としてまだ体が小さい。だが、器用だし、体を大きくすれば面白い存在になれる」と、その潜在能力を口にする。

 その前に、11月の全日本大学選手権・団体で優勝し、2年続いた年間2大会制覇を達成させ、主将としての最後の任務を果たさねばなるまい。もちろん個人優勝を目指すことは言うまでもない。姉と妹が勝負をかける今秋は、将典も主将として最後の勝負をかける季節だ。

(取材・文=樋口郁夫)


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