【特集】高校7冠王者、花開く! グレコ55kg級を熱く燃やせ、長谷川恒平(青学大)





 ことしの世界選手権で金メダルも期待できるまでに成長した松永共広(ALSOK綜合警備保障)の出身クラブ、静岡・焼津リトルが輩出した男子グレコローマン55kg級の長谷川恒平(青山学院大3年)が学生王者に輝いた。

 焼津リトル時代の93〜96年に全国少年選手権4連覇、98・99年に全国中学生選手権2連覇を達成し、世界カデット選手権へも出場した選手。焼津中央高へ進んでも全国高校グレコローマン選手権と国体グレコを2年連続で制し(01・02年)、02年のインターハイなどを合わせて7つのタイトルを獲得。02年アジア・ジュニア選手権(グレコ50kg級)で3位に入るなど、タイトルを取り続けてきた逸材だ。

 大学へ進んでからも03年JOC杯ジュニア・グレコ55kg級で勝って世界ジュニア選手権へ出場。ほかに東日本学生春季新人戦両スタイル55kg級で勝ち、昨年は全日本大学選手権(フリースタイル)でも勝つなど、順調に伸びた。

 しかし昨年のJOC杯ジュニア選手権決勝で、当時滋賀・日野高3年だった倉本一真(現拓大)に敗れる屈辱も経験。ここ1、2年の間にどんな成績を残すかで、世界へ飛躍するか、並の選手になって現役生活を終わるかが決まる分岐点におかれている状態。勝負の大会だった。

 その倉本とはこの大会の準決勝で対戦し、第3ピリオドのラスト12秒の段階で負けているという苦戦をしいられた。しかし、そこから逆転して決勝進出を決めたのだから
(写真右=青が長谷川)、その実力は本物であり、勝利への執念は「すばらしい」の一語に尽きる。長谷川は最後の最後に逆転できた要因を「(JOC杯で負けた)あの悔しさは、この1年半、忘れたことがありませんので」と説明し、メンツをかけた攻撃だったことを強調した。

 決勝の藪内正則(日体大)戦は、微妙な判定の末に、勝ったと思った第1ピリオドが、掲示板を見たら自分の負けだということが分かって驚くシーンも。しかし「準決勝であれだけの逆転ができるのだから」と言い聞かせて気持ちを立て直し、第2ピリオドにしっかりとフォールを決めた
(写真下)

 「去年の全日本大学選手権で優勝したといっても、得意なグレコローマンで勝てなかったから満足できませんでした」。この優勝の持つ意味は、昨年の全日本大学選手権での優勝の何倍もの価値がありそうだ。

 昨年まで学生の大会で壁となっていたのが、今年のユニバーシアード代表の和田宗法(現日体大ク)。3月下旬にあったユニバーシアード代表選考会でも、九分九厘勝てた試合を最後の最後で落としてしまっていた。今後は和田への雪辱のみならず、世界選手権日本代表の豊田雅俊(警視庁)やアジア選手権日本代表の平井進悟(ALSOK綜合警備保障)らへの挑戦も視野に入ってくるだろう。

 「まだ(豊田、平井には)すべての面で劣っています」としながらも、「3年生ですし、勝負をかけます。結果を出していきたい」と気合を入れる。焼津リトルの先輩の松永共広も学生王者に輝いたのは3年生の時。層の厚い軽量級では、このくらいで順調な伸びといえるだろう。

 逸材を預かり指導している太田浩史ヘッドコーチも、この優勝にホッとした表情。「あれだけの選手を預かった責任があります。もう少し早く勝たせなければならない選手だった。(勝たせることのできない)プレッシャーも感じていたんですよ」と言う。「準決勝のあの逆転勝ち。普通の選手なら、あきらめるか、そうでなくても勝てないケース。それを勝ってくれるんだから、すごい精神力ですよ」と、精神面での成長が頼もしそう。

 体は小さくてもパワーがあるそうで、発展途上の選手にありがちな「ウエートトレーニングで体力をつけさせる」という練習はそう多くは必要ないという。その分、技術や戦術の上達に力を注ぐことができる。グレコローマンのルールが変わったあとも、スタンドでポイントを取りにいき、取れる選手だそうで、これも大きな武器になることだろう。「勝つことが最高の薬であり、エネルギーになる。全日本選手権でも何でも、これからは勝ちにいかせます。勝つことで、また大きくなってくれる」と、今後の指導の方針を示した。

 10月の全日本大学グレコローマン選手権で勝って二冠を獲得しなければならないが、豊田らの後姿が見えるところまで来たのは間違いない事実。日本代表をめぐるグレコローマンの最軽量級の闘いが熱く燃えそうだ。

(取材・文=樋口郁夫)




《前ページへ戻る》