【特集】異国の生活の寂しさに耐え、学生王者に輝いたマキシモ。目標は北京五輪





 全日本学生選手権の男子フリースタイル74kg級は、ベネズエラからのレスリング留学生、ブランコ・マキシモ(日大=写真右)が優勝。宮城・仙台育英高時代から7年目を迎える異国の生活で最高の結果を出し、「北京オリンピックとロンドン・オリンピックへの道が見えた」と喜びを表わした。

 少年時代はテコンドーに打ち込んでいた。14歳の頃にいとこがやっていたレスリングと出会い、レスリングをやるために日本へ渡ってきた。ベネズエラから日本へのレスリング留学といえば、1993〜95年に3年連続でフリースタイル90kg級学生王者に輝き(グレコローマンでも1度)、96年アトランタ五輪に出場したルイス・バレラがいる。現在では仙台育英高で教員を務めており、そのバレラさんを頼っての渡航。「父は『行って来い』と言ってくれたが、母は反対した」という。

 高校時代はインターハイ・国体とも1勝しただけに終わった。日大では新人戦で02年秋に66kg級で、03年秋に74kg級で優勝と順調に伸びたが、昨年のこの大会は初戦敗退し、「死のうと思った」というほど落ち込んでしまったという。今春、団体戦レギュラーといえるまでに成長したが全勝というわけにはいかず、チームに十分貢献できなかった。

 それらの屈辱をすべて晴らしての栄光。準決勝の大月葵斐(早大)との試合が「一番きつかった」そうで、その難関を乗り越えたこともあって、「決勝はそれほどきつくなかった」と言う。持ち味というスピードと(体の)柔らかさが生きたほか、「リラックスして試合に臨むことができたのがよかった。学生の最後の年なので、優勝を狙って頑張りました」と振り返る。富山英明監督は「スタミナがついたこと」を勝因に挙げた。

 今夏には約3年ぶりにベネズエラへ帰り、全ベネズエラ大会に出場して優勝することができた。「日本で鍛えていかたら自信ありました。来年からはパンアメリカン選手権などに出てみたい」と話し、大陸予選・世界予選を乗り越えてのオリンピック出場という目標も視野に入ってきた。そのためにも、日本代表でもある小幡邦彦選手(ALSOK綜合警備保障)と対戦してみたいという気持ちがあり、「ぎりぎりで勝てる段階まできたと思う」と自信を見せる。

 しかし、全日本選手権は外国籍選手の参加が認められていないため、試合で対戦する機会がないのが残念そう。その分、9月16日の全日本学生王座で団体優勝し、11月の全日本大学選手権ででも優勝して実力をアピールしたいところだ。

 「電話は高いのでメールで連絡はしているけど、家族と離れているのはさびしい」と、15歳から7年にもなる異国での生活を振り返る。しかし、卒業後も日本で鍛え、北京とロンドンの2度の五輪出場を目指すつもりだ。「そうなったら、お母さんも喜んでくれると思います」。異国で戦う21歳(10月で22歳)。卒業までにもうひと花咲かせ、世界へ飛躍したいところだ。

(取材・文=樋口郁夫)


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