【特集】世界選手権へかける(1)…男子フリー55kg級・松永共広





 世界選手権へは初出場になる。しかし、男子フリースタイル55kg級の松永共広(ALSOK綜合警備保障)へ注がれる周囲の期待は大きく、それはこの夏、確固たるものになった。

 2月のヤシャドク国際大会(トルコ)と3月のダン・コロフ国際大会(ブルガリア)で連続優勝。5月のアジア選手権(中国)では2003年世界王者のディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン)に善戦でしての銅メダル。これだけも周囲の期待は高まっていたのに、8月のジオルコウスキ国際大会(ポーランド)で、96年アトランタ・00年シドニー両五輪の王者ナミク・アブデュラエフ(アゼルバイジャン)と今年の欧州王者のゲンナディ・チュルビア(モルドバ)を破って優勝した。

 チュルビアは今年ぽっと出た欧州チャンピオンではなく、01年にも欧州選手権で優勝しているほか、03年には世界選手権で銀メダルを取った選手。アブデュラエフはもう最盛期は越えたと思われるが、26歳の現役欧州王者を破ったことは、松永の実力は間違いなく世界の何本かの指に入っていると考えていい。

 松永は「まだ戦っていない強豪も多いです。油断しないようにしたい」と気をゆるめない。しかし世界選手権を前にして自分のいる位置がはっきり分かり、マークする選手を何人かに絞れる段階まできたのは、大きなアドバンテージだろう。松永がマークする選手として挙げたのは米国、キューバ、北朝鮮、ベラルーシ。だが、この中でベラルーシとキューバは一段落ちるとみたい。とりあえずマークすべき相手は00年シドニー五輪2位のサムエル・ヘンソン(米国)と今年のアジア2位のヨン・ヒョンクク(北朝鮮)だろう。

 ヘンソンは00年シドニー五輪2位で、ことし34歳ながら、2月のセロ・ペラド国際大会(キューバ)と3月のメドベジ国際大会(ベラルーシ)で優勝するなど元気いっぱい。ヒョンククはアジア選手権決勝でマンスロフ(前述)を追い詰めた選手。ピリオドスコアは1−2だが総ポイントは4−4の互角で、北朝鮮の往年の“軽量級最強神話”を復活させそうなムードのある選手だ。

 ほかにも、出場してくるかどうか分からないがアテネ五輪王者のマブレット・バティロフ(ロシア)などマークしなければならない相手は少なくない。それでも、五輪V2王者を破り、欧州王者を破った松本の実力が彼らよ大きくり劣るとは思えない。マンスロフ(前述)を「決して勝てない相手ではないです」と口にするほどだから、差があっても紙一重。勝つ気持ちを強く持つことで、勝利を引き寄せられるくらいの差なのである。

 そして、松永には気持ちで負けることのない強さが備わっている。「どんなに実績のある選手であっても、名前負けしたことはありません」ときっぱり。2002年の世界学生選手権(カナダ)で優勝した時は、準決勝で前年の欧州王者だったチュルビア(前述)を破り、決勝で前年世界2位のババク・ヌルサド(イラン)を破っての優勝だった。今夏の結果といい、「名前負けしません」という言葉を証明してきたのであり、相手選手の過去の実績などものともしない強さを持っている(写真右=アジア選手権でマンスロフを攻める松永)

 初出場にもかかわらず、松本の見すえる目標は“優勝”。そしてコーチ陣の期待も“優勝”だ。「あと1か月。今から体力が上がるものではないから、技の確認をしっかりしたい。けがをせずに、気持ちをしっかりと高めて臨みたい」。2002年の世界学生王者は、真の世界一へ向けてまっしぐらだ。


 ◎男子フリースタイル55kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 
《ロシア》アテネ五輪王者のマブレット・バティロフ(写真左)は5月のアリ・アリエフ国際大会(ロシア)では60kg級に出場した。このまま階級をアップするか? 今年の欧州選手権へは01年世界3位のアレクサンダー・コントエフが出場して3位。ロシア最高レベルの大会とも言われる1月のヤリギン国際大会でも優勝している。

 
《米国》代表はシドニー五輪2位のサムエル・ヘンソン(本文参照)。1月のヤリギン国際大会(ロシア)3位、2月のセロ・ペラド国際大会(キューバ)優勝、3月のメドベジ国際大会(ベラルーシ)優勝と国際大会で成績を残している。

 
《キューバ》今年のパンアメリカン選手権はアンディ・モレノが優勝したが、02年世界王者でアテネ五輪13位のレネ・モンテロ(本文参照)が5月のアリ・アリエフ国際大会(ロシア)で優勝し、6月のウマハノフ国際大会(ロシア)で3位。世界選手権はやはりモンテロか?

 
《ウズベキスタン》03年世界王者で、アテネ五輪10位のディルショド・マンスロフ(本文参照)が、3月のワールドカップ(ウズベキスタン)60kg級4位、5月のアジア選手権(中国)優勝、6月のウマハノフ国際大会(ロシア)優勝と実力を見せている。世界選手権への出場も間違いないところ。

 
《その他(欧州)》ことしの欧州王者は02年世界2位のゲンナディ・チュルビア(モルドバ=本文参照)、欧州2位はアテネ五輪9位のラドスラフ・マリノフ(ブルガリア)

 
《その他(アジア)》アジア2位は初顔のヨン・ヒョンクク(北朝鮮=本文参照、写真右)。松永とともにアジア3位に入ったのは02年アジア・ジュニア選手権50kg級優勝のタキ・タダシ(イラン)。ユニバーシアード優勝はアテネ五輪12位のナランバータル・バヤラー(モンゴル)。アテネ五輪出場のバウルザン・オラズガリエフ(カザフスタン)は20歳の伸び盛りで、ことしの世界ジュニア選手権3位。松永が03年アジア選手権で負けている相手だ。


 ◎松永共広の最近の主な国際大会成績

 【2003年アジア選手権】=
6位(7選手出場)

予選1回戦 ●[2-3=6:21] Bauyezhan Orazhalyev(カザフスタン)
予選2回戦 ●[4-5=7:20] Mohammad Aslani(イラン)
予選3回戦 ○[7−5] Enkhtur Badamgoikhan (モンゴル)

 【2005年ヤシャドク国際大会】=
優勝(22選手出場)

1回戦  ○[2−0(4-1,TF7-0)] Yang Jae Hoon(韓国)
2回戦  ○[2−0(5-0,1-0)] Asgahhan Novruzov(アゼルバイジャン)
準決勝 ○[2−0(1-0,5-2)] Vusal Axundov(アゼルバイジャン)
決  勝 ○[2−0(1-0,1-0)] Namid Sevdimov(アゼルバイジャン)

 【2005年ダンコロフ国際大会】=
優勝(13選手出場)

1回戦  ○[フォール、2P0:54] Berguia Anoha(フランス)
2回戦  ○[2−0(2-0,2-0)] Amzah(フランス)
準決勝 ○[2−0(TF6-0=1:55,3-3)] Yosefi Magid(イラン)
決  勝 ○[2−1(1-0,0-1,2-0)] Besik Gochashivili(グルジア)

 【2005年アジア選手権】=
3位(14選手出場)

予備戦 ○[2−0(4-0,1-0)] ANIL KUMAR(インド)
1回戦  ○[2−0(2-0=2:10,2-0)] ENKHTUR BADAMSAIKHAN(モンゴル)
準決勝 ●[0−2(0-1,1-@last] DILSHOD MANSUROV(ウズベキスタン)
3決戦  ○[フォール2P1:41(1-0,4-3=1:41)] KIM JONG DAE(韓国)

 【2005年ジオルコウスキ国際大会】=
優勝(16選手出場)

1回戦  ○[2−1(4-2,0-1=2:24,1-0)] Namig Abdullaev(アゼルバイジャン)
2回戦  ○[フォール2P0:53(1-0、F3-0=0:53)] Evgeny Kolbrin(ロシア)
準決勝 ○[2−0(3-0,4-2)] Zalimkhan Kutsaev(ロシア)
決  勝 ○[2−1(0-1,4-0,5-4)] Ghenadi Tulbea(モルドバ)




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