【特集】JOC杯優勝で実力が急上昇! アジア王者へ…フリー69kg級・松本篤史




 日本で初開催となるアジア・カデット選手権。初日の男子フリースタイルで、2選手が決勝進出を果たし、1選手が優勝、1選手が銀メダル獲得という結果に終わった(他に選手が3位決定戦へ進み、1選手が銅メダル獲得)。

 決勝へ進んだのは、69kg級の松本篤史(群馬・館林高3年)と76kg級の永田裕城(京都・網野高2年)。永田が中学時代に全国王者に輝き、今年は3月の全国高校選抜大会と4月のJOC杯ジュニアオリンピックで優勝するなど過去の実績が十分であるのに対し、松本は全国高校選抜大会は初戦敗退で、JOC杯での優勝が初のタイトル獲得。期待度という点では、永田の方が上だっただろう。

 だが、勝ったのは松本の方だった。試合順序の関係で、永田が負けた後の試合での優勝。松本の手が上がった時、日本陣営と日本役員に歓喜と安堵のムードが湧き起こった。

 試合は危ない内容だった。第1ピリオド、タックルの自滅で0−1とされ、なかなか追いつけない。ラスト10秒、辛うじて相手の技術回避で1点を返し、1−1ながら内容によってこのピリオドを先取。第2ピリオドも0−1とされて追う展開となり、ラスト17秒、片足タックルで場外へ押し出して1−1とした。このままならラストポイントで勝てるが、ラスト7秒に片足タックルを決められて、このピリオドを落とす不覚。目の前の勝利を手にできなかった詰めの甘さに、不安が広がった。

 しかし第3ピリオド粘り、0−0のまま2分間が終了。コイントスで勝って攻撃権を得ながら、焦りのためか2度フライング。あと1度のフライングで負けとされるところだったが、セコンドの大沢友博監督の「落ち着け!」という叱責で我を取り戻し、確実にポイントを取って栄冠へつなげた。

 日本の最後のとりでを守った松本は「うれしいです」と第一声。「第2ピリオドは悪いところが出た。第3ピリオドは絶対に取るぞ、という気持ちでした」と、意地で戦った最終ピリオド。フライングを問われると、苦笑いを浮かべながら「最後は冷静にできました。全体として得意な両足タックルがしっかり決まりました」と結んだ。

 館林高校の針ヶ谷豊監督
(写真左)は「まじめで一生懸命にやるタイプ。いいものを持っていたが、それを出せなかった。JOC杯で優勝して自信を持ったみたいだ。主将として、以前にも増して率先して練習するようになった」と、自信が実力を伸ばしたと分析。本人も「(JOC杯の優勝が)自信になりました」と言う。

 兄は日体大のレスリング部員であり、このあともレスリングに打ち込む環境はそろっている。初の国際大会にして初優勝という快挙は、さらなる飛躍につながりそうだ。

 過去、この大会で優勝した選手は、松本真也(2000・01年フリー76kg級)は高校8冠王という快挙を達成。2003年には大学1年生で全日本大学王者に輝き、今はフリー84kg級で北京五輪を目指すホープに成長。斎川哲克(2003年グレコ76kg級)は昨年1年生で学生王者に輝き、アテネ五輪7位の松本慎吾に続く選手にまで成長している。松本の今後に期待ができる。

(取材・文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)




《前ページへ戻る》