【特集】世界チャンピオン奪取をきっぱりと宣言!…フリー66kg級・池松和彦





 今の全日本チームは、ミーティングで選手に“話す練習”をさせることが多い。目標、課題、大会の反省…。それらを頭の中できちんと整理し、理路整然と言える“大人の選手”でなければ、世界で勝ち抜くことはできないという観点からだ。7月15日から長野・菅平で始まった合宿の初日のミーティングでも、世界選手権代表に世界選手権での目標をしゃべらせた。

 「メダルを取りたい」「少しでも上位へ行きたい」…。大言壮語をしたくないのだろう、多くの選手が控えめな発言に終始したが、その中で堂々と「(日本にとって)1983年以来の世界チャンピオンを取ります」と宣言し、居並ぶコーチに頼もしさを感じさせたのがフリースタイル66kg級の池松和彦(K−POWERS)だ。

 池松は「(世界チャンピオンは)20年以上出ていないことを知りまして、誰かがやらなければいけないことと前から思っていました。自分で口に出してみようと…」と、時に照れ笑いを浮かべながら振り返る。だが、03年アジア2位、世界3位、04年アジア優勝、アテネ五輪5位、05年アジア3位という実績からすれば、照れることなく口にする資格を持っている選手であることは間違いない。

 チャンピオンになる選手は、言葉に出すことで引っ込みがつかなくなる場所に自分を追い込み、頑張るエネルギーにすることがよくある。「黙して語らず」「不言実行」も大切だが、ここは、きっぱりと世界一を口にした勇気を評価したい。

 世界一宣言をしたもうひとつの理由が「全日本チームに若い選手が多く入ってきて、先頭に立つ選手が必要と思った。指導者が“世界一”と言うのではなく、選手が言わなければならない」ということ。「選手だけで練習できるぐらいにならないとダメなんです。戦うのは選手なんですから」とも。これまでの全日本チームには、負けて笑っている選手がいたという。「負けて当りまえ、なんて気持ちでやっているから。恥ずかしいことですよ」と苦言を呈し、そんな“負け犬根性”を一掃するための行動でもある。

 グレコローマン84kg級の松本慎吾(一宮運輸)ほど気迫を前面に出すことはなく、どちらかというとおとなしいイメージのある選手だが、自立心やリーダーシップはチームの大黒柱にふさわしいものを持っている。

 技術、体力、精神力、試合運びのどれをとっても世界トップレベル。世界一に上り詰めるのに必要なことは、「納得できる試合ができること。勝負どころで勝負できること」などを挙げた。ほかに、世界選手権で優勝するは1日に5、6試合も戦うことが必要となってくるので、体力の維持を絶対に必要な要素と見ている。「パワーが必要です。パワーがないと1試合で体全部の力を使わなければならいので、何試合も続かないですよ」と説明する。

 逆に考えれば、優勝した04年アジア選手権を別にして、それ以外の大会はこの点で足りなかったのだろう。これの克服が世界選手権へ向けての課題となる。

 「2年前は全体的に実力が足りなかった。でも、あれから体力もつき、経験も積んだ」と言う。その年の世界選手権の時に切れを見せた外無双
(写真右)は、その後、世界の舞台であまり使う機会がなく、今年の世界選手権では“隠し技”として威力を発揮しそう。五輪の翌年で選手の入れ替わりが予想されるだけに、なおさらだ。

 その世界選手権の1か月半前の8月中旬にはユニバーシアードが待っている。5月のアジア選手権、6月の全日本選抜選手権と続いて、また大会、その40数日後には世界選手権という日程になるが、「そんなにハードスケジュールとは感じません。絶好の実戦練習になるような気がします」と言う。アジア選手権は反省点が多かっただけに、優勝して自信をつけ、世界選手権に臨みたいところだ。

 レスリングにとっても久しぶりのユニバーシアードとなるだけに(1981年大会以来の実施)、「勝たなければなりません」と、気合を入れている。世界選手権を待たず、朗報を期待したい。

(取材・文=樋口郁夫)


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