【特集】「井上さんに勝って日本代表を意識」…フリー60kg級・湯元健一



 混戦が予想されたフリースタイル60kg級を制し世界選手権へコマを進めたのは、アテネ五輪銅メダルの井上謙二(自衛隊)でも、全日本王者の小島豪臣(日体大)でも、ユニバーシアード代表の高塚紀行(日大)でも、6月のアジア・ジュニア王者の大沢茂樹(山梨学院大)でもなく、全日本で3位だった湯元健一(日体大)。4選手による優勝争いを予想した記者の鼻を見事にあかした。

 準決勝で井上を2−0で破り、決勝も高塚を2−0でそれぞれ快勝。日体大の藤本英男部長と安達巧監督がそれぞれセコンドにつき、一切アドバイスを送らない中で行なわれた小島とのプレーオフは1−1のあとの第3ピリオド、コイントスで負ける不利。しかし、うまい身のこなしで小島のテークダウンを許さず、30秒をこらえて栄冠を手にした。

 2002年に全国高校選抜大会とインターハイで優勝しており資質は十分にあった。しかし昨年の全日本大学選手権では高塚に敗れて上位進出を逃すなど、若手の台頭にともすると埋没しそうな状況に置かれていた。その状態を打破しての優勝、そして世界選手権出場に「うれしいです」と表情がなごんだ。

 「井上さんに勝ったあと、これは代表権を取らなければ、と思いました」と振り返る。アテネ五輪の時は韓国へ遠征していて銅メダル獲得のフィーバーなどは知らなかったようだが、「こういう人と戦えると思うとうれしかった」と言う。決勝、プレーオフは「このルールは守ったら負け、と思いながら戦った」と言う。

 今冬、繰上げで全日本チームの欧州遠征に参加した時は、初の全日本チーム入りに「小さくなってしまった。もっと堂々としていなければ」という反省を口にした。今回はアテネ五輪の銅メダリストと全日本王者を破っての文句なしの全日本チーム入り。もう小さくなってはなるまい。世界選手権では堂々と戦い、銅メダル以上の成績を残してもらいたい。

(取材・文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)





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