【特集】目標は五輪V2のジョン・スミス(米国)。6試合圧勝の53kg級王者・田中幸太郎





 全国中学生選手権の男子53kg級は、昨年2年生ながら優勝した選手同士が決勝を争い、田中幸太郎(京都・男山三3年=昨年の47kg級王者)が小石原拓馬(京都・網野3年=昨年の42kg級優勝)を2−0で下し、2年連続優勝を達成。最優秀選手賞に輝いた。

 1回戦からの6試合で、奪われたピリオドどころか失ったポイントもないという“完全優勝”。フォール勝ちも2試合あり「内容も満足」だと言う。しかし「100点満点?」と問われると、「いえ、90点くらいです」との自己評価。攻撃し切れなかったところがあったり、あわや失ポイントというシーンがあり、そのあたりが「マイナス10点」と自己に厳しい姿勢を見せた。

 小学校4年生の時、ラグビーをやっていた父の勧めでレスリングに取りくんだ。「父はラグビーをやらせたかったみたい。タックルの勉強をさせるためにレスリングをやらせたみたいです」。しかし6年生の時に全国少年大会で36kg級で優勝し、レスリングにのめりこんだ。「中学のレスリングは小学生とは違った」との戸惑いも1年で克服し、昨年は6試合で3失点という素晴らしい優勝。今年はそれを上回る無失点での優勝。どこまで伸びるか楽しみな逸材だ。

 目標とする選手は、1988年ソウル五輪と92年バルセロナ五輪を含めて世界を6度制したジョン・スミス(米国=フリースタイル62kg級)。かつては全世界にその強さをとどろかせ、多くの選手・ファンの憧れでもあった“米国レスリング史上最高のレスラー”といわれる選手だが、中学3年生の口からこの選手の名前が出てくるのは意外だ。理由はスミスのテクニックビデオを繰り返し見て技の研究をやっているからだ。確かに構えはジョン・スミス流で、相手の足首を狙うローシングルも見せた。「スミスの低い片足タックルをマスターしたい」。強くなるための目標や心がけは十分すぎるほど持っている。
(写真下:田中=青=のジョン・スミスばりのローシングル)

 8月には、この大会の優勝選手で構成される全中チームの主将として韓国遠征に臨む。韓国選手との練習は昨年も経験しており、「パワーは向こうの方があったけど、技は自分の方が上だった」と振り返る。ジョン・スミスを目標にして磨きをかけたテクニックが、今年も韓国選手相手に爆発するか。

 遠征の前には日本レスリング協会主催による強化合宿があり、ナショナルチームのコーチからの指導を受ける予定になっている。ソウル五輪金メダリストの佐藤満・専大コーチや、日本屈指のテクニシャンで“和製ジョン・スミス”と言われた和田貴広・日本協会専任コーチらの指導を受けることで、一回り成長することが期待される。

 高校へ進んでもレスリングを続けることを決めており、将来の夢はオリンピック。「卒業まで、けがをしないで頑張りたい。出場する大会はすべて勝ちたい」と気合は十分。日本レスリング界に、心強い新芽がしっかりと育っている。

(取材・文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)



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