【特集】生きた筋力トレーニング。今夏の目標は“豊田越え”…グレコ55kg級・平井進悟




 ALSOK綜合警備保障の選手が好調だ。2〜3月のフリースタイルの欧州遠征では、55kg級の松永共広が「ヤシャドク国際大会」(トルコ)と「ダン・コロフ国際大会」(ブルガリア)で連続優勝。74kg級の小幡邦彦が「ダン・コロフ国際大会」で銅メダルを獲得。グレコローマンでは、3月13日の「ポーランド・オープン」で55kg級の平井進悟が銅メダルを獲得した(写真右の右から2人目=撮影:ポーランド・レスリング・マガジン、提供:ウィリアム・メイ)

 「笹本さん(睦=ポーランド・オープンではメダル獲得を逃す)は元々強い選手で、メダルを取ると思っていましたし、一人だけ置いてきぼりは嫌でした」。所属の4選手がそろって全日本王者に輝いただけに、一人だけ蚊帳(かや)の外になるわけにはいかなかった。

 もっとも「ポーランド・オープン」へ臨むまでは、満足な練習ができなかった。今年初めの練習で左手甲を骨折し、2度にわたる全日本合宿では、打ち込みやスパーリングで汗を流す同僚を横目に体力トレーニングに終始することを余儀なくされたからだ。

 2月28日からのポーランド遠征に参加したものの、全力ファイトはできない状況。大会が近づくにつれて気持ちも高まり、けがも気にならなくなって試合に出ることを決めて最低限度の練習はやったものの、不安の方が大きかったという。

 それでも結果は銅メダル。敗れたポーランド王者のパウェル・クラマラズとの準決勝
(写真左=同)は、地元びいき判定とも思える内容で、ここを勝ち抜いていれば優勝もありえた内容だった。「練習できないうっぷんがたまっていたからでしょうかね」と笑うが、スパーリングなどができない分、徹底して筋力トレーニングをやっており、欧州の選手に力負けしない体力がつくれたことも大きかっただろう。

 大会では投げ技がよく決まったという。これは押す力があればこそ。押して、相手が押し返してきたところに投げをかけるから決まるのであり、押す力が弱ければ、投げ技はそうそうかかるものではない。「技も大事だけど、体力の必要性を肌で感じました」と、この2か月の練習が無駄ではなかったことを強調する。

 新しい技術をマスターしない状態ででも外国選手に通じたという自信もつき、ここに新たな技術を加えればもっと上へ行けるという手ごたえもつかめたそうだ。「(他人の練習を見て)イメージトレーニングもしっかりできましたしね」。いずれにせよ、がむしゃらに練習するだけがすべてではない。練習量で強くなる時期は終わったのであり、考え、工夫することで強くなる段階に入っていることを実感したという。

 試合前に不安にかられると、ついオーバーワークになってしまって体調を崩すケースはよくあること。「疲れを残さずに試合に臨むことの重要性も感じた。練習しない勇気が必要です」と、あらゆる面で次につながる銅メダル獲得だったようだ。

 もちろん今回の銅メダルに安心する気持ちはない。「負けた相手は、練習ではずっと勝っていた選手なんです。練習を通じて自分の攻撃パターンを読まれてしまいました。最初は勝った相手でも、研究されれば、次はどうなるか分かりません」。しかし、戦いの出し惜しみをしても意味はない。研究されれば、研究し返し、その中で確固たる強さを身につけていきたいという。

 今回得た自信をもって臨めば、5月のアジア選手権(中国)では金メダル、最低でもメダル獲得が期待されるが、それを実現したとしても、6月にまだ大きなチャレンジが待っている。「豊田さん(雅俊=アテネ五輪代表、全日本選手権は不出場)に勝たなければ、本当の日本代表とはいえません。全日本チャンピオンとして受ける、という気持ちはなれません。豊田さんに挑むという気持ちなんです」。

 今回の銅メダルに満足していては、世界で通用する選手になることはありえまい。豊田の壁を乗り越えることこそが、世界に力強い一歩を踏み出すこと。アジア選手権で好成績を挙げることもさることながら、そのあとの“豊田超え”に全力を尽くし、真の日本代表を目指してもらいたい。
(写真右は、4月の全日本合宿で。左は同じ綜合警備の松永共広)

(取材・文=樋口郁夫)


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