【特集】欧州遠征でルールを把握し、今後の練習の指針へ…笹本睦





 松本慎吾とともに全日本グレコローマン・チームを引っ張る男、60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障=
写真右)が、アテネでの悪夢(誤審による敗戦)を引きずることなく、世界のメダル獲得へ向けて動き出した。

 アテネ五輪の準々決勝、五輪3連覇を目指すアルメン・ナザリアン(ブルガリア)との一戦は、逆転をかけてナザリアンを持ち上げたものの、手で脚をさわられて防がれ、これを審判が見逃したため、納得できない敗戦を喫した。

 試合の直後は「4年間やってきたのに! 審判に負けにされた!」と吐き捨て、泣きじゃくってしまったが、すぐに気持ちを切り替えて5位を確保。その後は負けを審判のせいにすることもなく、「それまでにリードされていたことが悪いんです」と、黒星を実力として受け止めた。

 相手をリフトして投げる技術は松本と双璧。国内では他の選手と実力差があるので、より豪快なリフト技が爆発し、見る者にグレコローマンの醍醐味を存分に伝えることができた。

 そんな笹本も、ルールの変更、特に伝えられているコイントスで勝った選手がもろ差しでスタートするクリンチに対する不安はある。「受けることになったら、勝つことは厳しいですよ。攻めることになったら楽ですけど…」。

 2分1ピリオドという短期決戦では、実力差があってもピリオドを落としたり、0−0で終わってしまうこともある。実際に、新ルールで実施された昨年12月の天皇杯全日本選手権の決勝で、笹本は日ごろの練習相手であり絶対に勝てるという確信のある北岡秀王(日体大)と第1ピリオドを0−0で終わっている。この時はクリンチで豪快なそり投げを決めて
(写真右)フォール勝ちしたものの、新ルールのクリンチだったなら、このピリオドを落としてしまった可能性もあった。

 こうしたことを避けるためには、0−0で終わることを避ければいい。実際に戦ってみて、2分という試合時間は、開始から全力で攻めてもバテないことが分かった。これこそが国際レスリング連盟(FILA)の思惑なのかもしれないが、スタートからのハイスパート・レスリングで先制するファイトを目指したいという。

 新しい技のマスターにも取り組んでいる。「自分は技が少なく、もう世界の選手から研究されています。嘉戸コーチから教えてもらっている技を
(写真右=中央が嘉戸コーチ、座っている選手が笹本)、しっかりと自分のものにしたいです」と、今の自分には満足することなくどん欲な姿勢がある。

 2月28日から約2週間にわたるポーランド遠征では、外国選手相手にそれらの技を試し、磨きをかけることが期待されるが、それ以上に「ルールをしっかりと把握することを一番の目的にしたい」と言う。ルールはまだしっかりと確定しておらず、話を聞くたびに違うことが耳に入ってくるので、何をどう練習していいのかが分からないからだ。

 「とにかく自分の目で見て確認し、経験してきたいです」と遠征の最大の目的をポーランド・オープン(3月12〜13日)での新ルール経験におき、今後の練習の指針を確立させたいという。

 「今年の目標は世界選手権(9〜10月、ハンガリー)でのメダル獲得です。何だかんだと言っても、まだ世界選手権でのメダルがありませんから」と言う笹本に、「アジア選手権(5月、中国)は?」と聞いてみると、「あ、アジアもありましたね」と苦笑い。「もちろん優勝が目標です」と返したが、世界を見すえていればこそだろう。秋の世界選手権が期待される。

(取材・文=樋口郁夫)


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