【特集】選手生活原点の大会でリベンジ…女子63kg級・伊調馨【2006年12月13日】







 女子63kg級の決勝戦。恒例の選手紹介のあと、青のシングレットを着ていた伊調馨(中京女大)とセコンドの栄和人監督は、なぜか赤コーナーへ向かった。大試合でも「あがったことがない」という度胸満点の伊調馨も、この大舞台にさすがに緊張していたのか?

 だが、その堂々とした行動に、相手のインド陣営は「自分のコーナーはこちらか」という感じで青コーナーへ。レフェリーもチャーマンもジャッジも、誰もがその間違いに気がつかずに試合がスタート。この段階で、伊調は周囲の誰をも自分の世界に引きずりこんでいたのだろう。

 対戦相手は、05年アジア選手権決勝でも闘ったギーティカ・ジャカール(インド=
左写真の赤)。その時はバッティングをかなり受け、試合後はぶ然とした表情だった。今回も時おり、頭を突っかけてくる仕種があったが、伊調は決してひるまなかった。崩してバックを取ると、着実にポイントを重ね、最後はフォール勝ち。吉田沙保里の100連勝には及ばないものの、国内外の連勝記録を「77連勝」とし、先輩の跡をしっかりとたどっている。

 アテネ五輪を含め、5年連続で世界一になっている伊調にとって、アジア大会は特別の思いがある大会だ。2002年の釜山大会。これが初めての国際大会だった伊調は、準決勝までを順調に勝ったものの、決勝の許燕海(中国)戦でなぜか動きが硬くなってしまい、黒星を喫した。

 その黒星の影響は、今年の世界選手権で許燕海との4年ぶりの再戦でも残っており、「腰が引けて積極的に攻撃できない自分がいた」と振り返る。その試合は勝ったものの、それで1勝1敗。今度の対戦が決着戦であり、これを勝たなければ、いつまでもその思いを引きずってしまう可能性があった。

 準決勝でその許燕海と対戦。第1、2ピリオドとも2分の試合時間を0−0で終わり、クリンチでの勝負へ
(右写真)。コイントスが2度とも自分の方に上がり、その末での勝利。満足はいかなかったが、勝ったという事実は、伊調の心にひとつだけ引っかかっていたものを払しょくしてくれた。「4年前に聞けなかった国歌を聞くことができて、自分も成長したな、と思いました」とうれしそう。

 「今振り返れば、この4年間は早かった。あの時の悔しさがあったから、今の自分があり、きょう優勝することができました」としんみり振り返った伊調だが、その後の質問には笑顔の連続で、報道陣を笑いの渦に引き込んだ。

 その質問と答えは次の通り。「学生最後の国際大会ですか…」「はは、そう言えば、そうでしたね。全然思っていませんでした」「楽しめましたか?」「いえ〜、楽しんでなんていないですよ」「午前の部が終わったあと、千春選手と歌を歌ってリラックスしたそうですが、何を歌ったんですか?」「え! アイツ、変なことばかり言うんだから!」。

 カオリ・ワールドは誰をも引き込むだけの強力な磁力があるようだ。


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