【特集】3年ぶりの姉妹優勝「北京五輪へ向けていい弾みになった」…女子63kg級・伊調馨【2006年10月1日】






 世界V5を達成した瞬間、女子63kg級・伊調馨(中京女大)のトレードマークである“馨スマイル”がはじけた。決勝の相手は中国の許海燕。国際試合では13大会連続優勝の記録を持つ馨だが、許海燕には4年前に黒星をつけられている相手だ。

 「ずっと引きずっていた」と、アテネ五輪で真の世界チャンピオンになっても、その悔しさは忘れたことがなかった。試合前、姉で女子大会初日の48kg級で優勝した千春に「リベンジして来い」と送り出され、気持ちは高まった。もちろん、ここは中国。姉・千春が経験したように完全アウェイの状況で、許海燕への応援が多かったが、それをねじ伏せてストレートで勝利し、世界選手権4連覇、そして世界V5を達成した。

 この日、馨の右肩には見るもの痛々しいほどテーピングが巻かれており、準決勝を終えた後、「肩が痛いんで、思うように動けなくて」と、けがの状況を告白した。

 古傷の右肩痛の再発で、初戦から得意のタックルを封印せざるを得なかった。しかし、馨はどんな戦い方もできるマルチな選手。タックルができなければ、「崩し」を使っての戦法でバックポイントを確実に積み重ねた。5時間の休憩を取ってから行われる決勝戦では、「あと1試合なんで、どんどん攻めようかな」と、けがの部位をまともに使うタックルで勝負することほのめかした。

 世界V6、五輪2連覇で女子柔道界の顔・谷亮子(旧姓田村)は、何度も大会直前に回復不可能なけがに見舞われながら、それを克服して世界女王の地位を守り続けている。今大会は、馨も谷亮子と同じように女王の貫録がうかがえた。

 仕上がりは本来の半分ほどの状態なので、けがのことを考えて決勝戦では、結局、「ガンガンガンガン入ると肩が痛いので、相手がバテテからここぞというところで1発、2発入る」と心に決めていた。

 その作戦は見事的中。第1ピリオドラスト10秒でタックルが決まり、1−0でものにすると、第2ピリオドも後半勝負に出た。ここぞと思って繰り出すタックルがすべて決まってストレート勝ち。優勝した瞬間は、「私、何をしていましたっけ?」と思い出せないくらい興奮に浸っていた。

 「今年が一番うれしい世界一です」と笑顔でコメントする馨。その理由は、許海燕にリベンジを果たしただけではない。それは、姉・千春と3年ぶりに姉妹優勝を果たしたことだ。

 「姉妹優勝は、北京五輪に向けてすごくいい弾みになったと思います。また2人で切磋琢磨します」。おごりのない伊調姉妹に今のところ、死角は見つからない。

(取材・文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)



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