【特集】元世界王者から首投げ一閃! 世界選手権で初白星!…男子グレコローマン96kg級・加藤賢三【2006年9月26日】







 男子グレコローマン96kg級の加藤賢三(自衛隊)が日本重量級の意地を見せた。世界選手権2日目、加藤は初戦でチェコのマレク・スベッツ(1998世界選手権銀メダリスト)に敗れたものの、スベッツが決勝進出したため敗者復活戦出場の権利を獲得。敗者復活1回戦では、「日本一厳しい練習」と自負する自衛隊での練習の成果がようやく実って世界選手権で初白星を挙げた。

 敗者復活2回戦では元五輪王者のハムザ・イェルリカヤ(トルコ)に敗北し、メダルには届かなかったが、加藤にとって何かひとつ希望を見出した大会となった。

 白星までの道のりは険しかった。過去2度の世界選手権ではともに初戦敗退。そのほかの国際大会でも思うように成績が残せず、12月のアジア大会も派遣が見送られている。「スタンドは大丈夫だけれどもグラウンドでのパワーの差がありすぎる」と週に4回ウエイトトレーニングを取り入れて、パワー補強に時間を割いてきた。

 「スタンドは得意」と胸を張る加藤だったが、初戦のスベッツ戦
(右写真)、第1ピリオドで強引に首投げにいったところを潰されてバックを奪われる。そこから腕を極められ、連続ローリングで0−6。自信のあったスタンドからテクニカルフォールでピリオドを失った。続く2ピリオドも、0−0でグラウンド勝負で返され、ストレート負けを喫した。

 試合後、「またグラウンドでやられてしまった」とうなだれた加藤。これで3回目の世界選手権も白星なしで幕が下りたかに見えた。現在のトーナメントは以前のような予選リーグ制ではなく、その代わり敗者復活制度があり、対戦相手が決勝戦に駒を進めると、最高で銅メダルまで勝ち進める。

 加藤の相手、スベッツは元世界2位、今年は欧州3位という成績を持つものの、33歳のベテランであり、チェコの記者もアトランタ、シドニー五輪金メダリストのイェルリカヤと同ブロックであることを考慮して「入賞できれば」と評価するなど優勝最右翼ではなかった。

 しかし、そのスベッツがトルコのハムダ・イルリカヤにアップセットでフォール勝ち。その勢いで決勝進出を果たした。初戦敗退から4時間半後、再び加藤が世界選手権のマットに上がるチャンスが回ってきた。加藤は「敗者復活戦まで気持ちは切れなかったです」とすぐに戦闘モード切り替えられたそうだ。
 
 敗者復活戦1回戦の相手は、ギリシャのデーオドロス・ドゥヌシディス。この試合で、ついにウエイトトレーニングの成果が表れる。第1ピリオド、3点リードされて迎えたグラウンドのオフェンス。ホイッスルと同時にガッツレンチの組み手をローリングクラッチに切り替える。そこから裏投げに移行するかに見せて連続ローリングで4点をマーク。5−3と力で相手をねじ伏せた。

 そして勝負の第3ピリオド。同じくリードされて後がないグラウンドでの攻撃で、何度もポジションをずらしてローリングをかけ、時間いっぱいで、相手の体を90度傾けた。一瞬だったため、ビデオ判定にもつれたが結果は有効。加藤がパワーレスリングで世界のマットで初白星を挙げた。

 敗者復活2回戦では、元五輪王者のイェルリカヤ。「胸を借りるつもりで試合をしました」と残った力をすべてぶつけたが、ストレートで敗退。加藤の2006年世界選手権は終わった。しかしハムダ戦も収穫があった。第1ピリオド、相手がバックを取った瞬間、「勝手に体が反応した」とこれ以上ないタイミングで首投げがかかったのだ。ハムダのバランスがよかったため1点で抑えられたが、加藤の十八番を世界のマットで披露することができた。

 1回戦後のインタビューで「ウエイトの効果は出たと思う」と自信なさげに答えた加藤だが、ハムダ戦後は、はっきりと「効果が出ている」と断言。敗者復活戦で自分の実力を十分に出し切れた加藤は、今後も更なる進化を誓った。

(取材・文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)


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