【特集】世界選手権へかける(19)…男子フリースタイル96kg級・小平清貴【2006年9月22日】






 レスリングと柔道は似て非なる競技のひとつだ。「兄弟とは言わなくとも、親戚みたい」と表現する人も多く、ともに五輪競技で相手を投げたり、押さえ込むとポイントが与えられる。同じような競技なのに日本人選手の活躍ぶりはけっこう違う。アテネ五輪に限って言えば、男子柔道は7階級で金メダル3個、銀メダル1個の快進撃。一方レスリングは銅メダル2個だった。一大会に限らず長い歴史をとってみると、軽量級でのスターが多いレスリングに比べ、柔道は山下泰裕、斉藤仁、小川直也、井上康生と過去から現在まで通して重量級にもスターがいるのが特徴的。

 同じような競技なのに、柔道の重量級は五輪金メダル候補、レスリング重量級は五輪出場枠が取れれば御の字……。そんな現状に唇をかみ締める選手がいた。フリースタイル96kg級の小平清貴(警視庁)。今回の世界選手権のの男子チームの主将だ。

 フリー、グレコともに、重量級が世界で苦戦を強いられている日本勢。小平も例外ではなく、アテネ五輪は全日本王者となりながら出場権利を得られず、また今年12月のアジア大会(カタール・ドーハ)の派遣も見送られてしまった。「アジア大会に出場できないのは自分が作った結果なので自分を責めるしかない」と冷静にその判断を受け止める。

 あと1勝の壁が破れずアテネ五輪を逃した時は、「今まで何をしてきたんだろう」とショックを隠せなかったが、今ではレスリングのためだけに日々生活を送っている。ウエイトもトレーナーをつけて専門的に行い、さらには効果的なサプリメントの取り方などの栄養学もかなり勉強しているようだ。そんな努力も次が最後の挑戦となるであろう北京五輪に出場するためだ。

 今回で4度目の世界を経験する小平。ベテランらしく調整は万全といいたいところだが、昨年に引き続き、一番大事な夏場の遠征をけがで棒に振ってしまった。「(4月の)アジア選手権から戻ってきた後に、ひざを脱きゅうしてしまったんです。本格的に練習を再開したのは7月の菅平の合宿
(右写真)から。本当はみんなと一緒にロシア遠征に行きたかったです」。

 昨年も8月のポーランド遠征前にけがをしてしまい、2年連続で世界選手権前の最後の実戦練習の機会を逃してしまった。「ロシアのレスリングはしつこくて、次から次へと技が出てくる。日本で味わえない部分がたくさんあります」と、ロシアでの経験が貴重と分かっていただけに、参加できないもどかしさがあった。

 8月下旬には「ひざの具合はもう万全」と笑顔で回復をアピールしたが、焦りはあるはず。しかし、そんな不幸もなんのその! 今の小平には、2つの追い風が吹いている。

 今年の6月、レスリングナショナルチームは8年ぶりに柔道ナショナルチームと合同練習を行った。レスリングチームが柔道チームを迎え入れる形をとったため、慣れない練習をこなした柔道チームには戸惑いを見せる選手もいた。アテネ五輪金メダルの鈴木桂治も「キツイ練習で帰りたくなるくらいでした」とコメントするほど。

 “世界の表彰台常連”柔道チームと、“世界で苦戦続き”レスリングチームに運動能力の差はなく、むしろ体力に限ってはレスリング選手の方が一枚上手だった。練習後、倒れこむように休む柔道選手を尻目に、レスリング選手はポーカーフェイスのまま。この練習で「世界で活躍する柔道選手とは同じ人間なんだなと思ったし、自分もできると思った」と小平は自信を深めたようだ。

 さらに小平を勇気付けたのは、フリースタイルのチームメート選手の活躍ぶりだ。自身は参加できなかった8月の「ベログラゾフ国際大会」で、55kg級の田岡秀規(自衛隊)、60kg級の高塚紀行(日大)、66kg級の級の小島豪臣(周南システム産業)が金メダルを獲得。国際大会で久々のメダルラッシュを記録した。

 今年のフリーナショナルチームは7階級中5人が初出場。「今年の代表は世界で勝てる!」という空気を遠征組がもたらした。「田岡たちが優勝したことはうれしかったです。特に田岡は大学(山梨学院大)の後輩ですから。でも、その分、自分も行きたかったなぁと寂しくなっちゃいました」と本音をもらすものの、日本のレベルが世界でも通用することを悟った。

 「自分は外国人みたいに柔らかいレスリングができない」と言う小平は、9月13日の公開練習で、「最後に一発逆転できるような飛び道具を考えてます」と秘策を練っていることを明かした。具体的な技の内容は明かさなかったが、その技は1カ月前から練りに練ってきたものだという。現行ルールは、3点ノルマ制だった旧ルールとは違い、1点で勝負を決してしまう。さらに各ピリオド2分と短いために、最後一発逆転技を持っていることはとても強みになるだろう。

 果たして、小平の飛び道具とは井上康生ばりの豪快な投げ技か、それとも鈴木桂治もびっくりの華麗な足技か。小平は、「足をかける技は重要」「外人は体がでかいので入り込めばなんとか」と意味深なコメントを残して会見を締めた。ナショナルチーム主将の名にかけて小平がメダルに挑戦する
(左写真=壮行会であいさつする小平主将)

(取材・文=増渕由気子)


 ◎小平清貴の最近の国際大会

 【2005年9月:世界選手権(ハンガリー)】

1  回  戦 ●[0−2(0-2、TF0-5=0:50)] Khadshimourad Gatsalov(ロシア)
敗復1回戦 ●[0−2(1-@Last,1-3)] Gergely Kiss(ハンガリー)

 
【2006年4月:アジア選手権(カザフスタン)】

1回戦   BYE
2回戦 ●[1−2(0-2,2-1,1-5)] Cui Xiao Cheng(中国)



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