【特集】世界選手権へかける(17)…男子グレコローマン60kg級・笹本睦【2006年9月20日】






 「朱に交われば赤くなる」ということわざがあるように、強くなるためには、強い選手と練習し、そこから何かを吸収するに限る。昨年の8月、目標としていた96年アトランタ・00年シドニー両五輪王者のアルメン・ナザリアン(ブルガリア)を破り、世界選手権ではアテネ五輪4位のアレクセイ・シェフツォフ(ロシア)を破るなど世界でトップレベルの実力を証明してきた男子グレコローマン60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)は、今夏、トルコでの合宿で1階級上の元世界王者シェレフ・エログル(トルコ)との練習で実力を養成した。

 合宿の最後には左のろっ骨を痛めてしまったものの、そこに至るまでのとの練習は「充実していた」と振り返る。けがの回復具合に心配は残るものの、「けがをしたのは自分のせいだし、理由にならない。100%の力が出せなくても、その中で自分の力を出せればいい」と、一切の言い訳を排除し、2度の五輪を含めて7度目の世界大会に臨む。

 昨年からの1年間を振り返ってみても、進歩したと感じることがあった。世界選手権の4回戦で完敗したエウセビウ・ディアコヌ(ルーマニア)相手に、実力差を縮められたと実感できたことだ。

 世界選手権での対戦
(右写真)は、最初のグラウンド戦で2点を失ってペースをにぎられると、第2ピリオドにもリフトを決められて0−6とされ、攻撃の糸口すらつかめないまま敗れた。強烈なリフトは、ある意味ではナザリアン以上の宿敵と感じたことだろう。

 ことし3月の「ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)での対戦も0−5、0−4で黒星。やはりリフトを決められ、1ポイントも取れなかった内容に、先行きの暗さがただよった。

 しかし4月にドイツとハンガリーで単独修業を敢行し、モスクワでの欧州選手権でディアコヌの闘いをじっくり研究。こうした努力が実り、6月のゴールデン・グランプリ決勝大会(アゼルバイジャン)では、敗れはしたものの、ポイントどころかピリオドも取ることができた。

 強烈なリフトになす術もなかったのが、「持ち上げられることがなかった。守れる。ポイントをしっかり取れれば勝てる」と変わり、実力差が縮まったのは明白。「グラウンドの防御に力を入れてきた成果だと思います。ディアコヌのリフトを守れれば、ナザリアンのリフトも守れるでしょう」。勝つことはできなかったものの、この自信は勝つことに匹敵する大きな自信となってくれたに違いない。

 攻撃では、世界のトップ選手に対して俵返しはかからないことが多いので、素早く組み手を変え、ローリングで攻める攻撃パターンの確立を目指して練習してきたという。「グラウンドの攻撃の30秒のうち、持ち替えるまでに10秒から15秒かかる。そこをいかに早くするかでしょうね」。30秒で方向転換するのは無理があると、俵返しにだけかける選手もいる反面、双方の攻撃を確立して攻撃するのもひとつの手。新ルール施行後、1年以上たって、ようやく自分にあった攻撃パターンが見えてきたようだ。

 8月、全日本チームが参加した「ピトラシンスキ国際大会」には、社の行事の関係で不出場。けがもしたので、ちょうどよかったとも言えるが、出場するにしても66kg級に出て、減量を避ける予定だった。2kgオーバーで計量する大会なので(注:この種の国際大会は2kgオーバーで計量するのが慣例)、60kgまで落とす必要はないが、それであっても、減量するとどうしても筋力が落ちる。「去年までは、1か月前に体重を落として試合に出場し、筋力が完全に戻らないまま世界選手権を迎えていた」という反省から、今回は十分に体力をキープして臨む予定だった。

 けがによって、その思いは大幅に軌道修正しなければならなくなった。ここは、2度の五輪を含めて6度の世界大会に出場し、10位以内を4度経験している笹本の精神力に期待したいところだ。「技術的にこの選手にどうしても勝てないという選手はもういない。あとは気持ちの問題。正直、練習不足な面があるが、ディフェンス面、オフェンス面でひとつひとつを確認していきたい」と最後の課題を挙げる。

 昨年は最終日の試合出場で、メダルのなかった男子の最後の砦(とりで)という重責を背負っての闘いだった。メダルこそ取れなかったが、初戦でアテネ五輪4位のロシア選手を撃破し、最低限度の意地は見せた。

 ことしは一転して初日での闘い。日本チームを先陣を切り、幸先いいスタートとなる思い切ったファイトが望まれる。


 ◎笹本睦の最近の国際大会

 【2005年10月:世界選手権(ハンガリー)】

1回戦  BYE
2回戦 ○[2−1(TF6-0=1:35,TF0-6=1:36,5-0)] Aleksey Shevtsov(ロシア)
3回戦 ○[2−0(1-1,3-0)] Jung Kyung-Ho(鄭京鎬=韓国)
4回戦 ●[0−2(0-3,TF0-6=2:00)] Eusebui Diaconu(ルーマニア)
                           
 
【2006年3月:ポーランド・オープン(ポーランド)】
                       
1 回 戦  ○[2−0(TF8-0=1:15、TF8-0=1:11)] Willie Madison(米国)
2 回 戦  ●[0−2(1-@Last,0-5=1:10] Ugur Tufenk(トルコ)
敗者復活戦 ○[2−0(TF6-0,5-0=1:13] Haki Ville(フィンランド)
敗者復活戦 ○[2−0(TF7-0,5-0)] Ede Komaroni(ハンガリー)
3位決定戦  ○[2−0(TF7-0=1:50,4-0)] Tomasz Swierk(ポーランド))

 
【2006年3月:ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)】

1回戦  ○[2−0(3-0,@Last-1)] Tengizbayev Nurbakhit(カザフスタン)
2回戦  ○[2−1(0-5,4-0,2-1)] Bunjamin Emik(トルコ)
準決勝 ●[0−2(0-5,0-4)] Diaconu Eujebiu(ルーマニア)
3決戦  ○[2−1(TF7-0,TF0-9,TF6-0)] Davor Stefanek(セルビアモンテネグロ)

 
【2006年6月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】

準決勝 ● [1−2] Diaconu Eujebiu(ルーマニア)



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