【特集】世界選手権へかける(16)…男子フリースタイル60kg級・高塚紀行【2006年9月19日】






 大阪・吹田市民教室時代に全国少年少女選手権7連覇や全国中学生選手権2連覇、茨城・霞ヶ浦高時代に高校四冠王、日大へ進んで1年生で大学王者に輝くなど、同世代間の闘いを飛びぬけた強さで突っ走ってきた高塚紀行(日大)が、大学3年生で日本代表権を獲得。世界へ挑戦することになった。

 フリースタイル60kg級はアテネ五輪で井上謙二(自衛隊)が銅メダルを取った階級。自身は昨年の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得している。初出場ではあるが、期待度は大きい。

 8月の「ベログラゾフ国際大会」(ロシア)でロシア選手3人を破って優勝し、その期待は一段と高くなった。しかし、社会人の日本代表選手と違うことは、学生の大会にも出場せねばならず、ハードスケジュールをこなさなければならないことだ。

 6月の全日本選抜選手権で勝って日本代表に決まった2週間後、肩を負傷しながらもモンゴルでの世界学生選手権に参加し、ちょっぴり悪化させてしまい、その後の練習をセーブしなければならなくなった。ようやく治り、ロシアで心身ともに追い込んだ合宿と大会出場に打ちこみ、金メダル獲得という成果を挙げたあと、帰国して約2週間で全日本学生選手権。

 それから3週間もしないうちに全日本学生王座決定戦。これは66kg級で出場したので体重調整の必要はなかったが、団体戦というプレッシャーも加わるので、練習の一環として考えるには厳しい闘いであろう。しかし高塚は言う。「富山監督(英明=日本協会強化委員長)から『自分がオリンピックで優勝できたのは、若いころに試合が重なっても、それを乗り越えてきたからだ』と聞かされています。試合を経験することが、今は必要な時だと思っています」−。

 決して弱音は吐かない。今は試合に出ることが練習の時期。勝つのも経験だし、負けるのも経験。全日本学生選手権では決勝で湯元健一に黒星を喫し、全日本学生王座決定戦でも66kg級学生王者の佐藤吏(早大)に敗れるなど、散々な世界選手権前となってしまったが、本当の弱点とは試合をやってこそ見つかるもの。「もっとできた、という思いを世界選手権へぶつけます」と話し、実戦を通じた実力養成の成果をぶつける。

 闘いたい選手を問われると、アテネ五輪55kg級の王者で、その後1階級アップし、国内予選で昨年の世界チャンピオンを破ってロシア代表となったマブレット・バティロフ
(右上写真)の名を挙げた。「強いと聞いています。どれほど強いか経験してみたいです」。世界一の選手の強さを肌で知れば、はっきりした目標もできる。

 もちろん勝つことが目標。「目標はメダルと言ったら、富山監督から『金メダルを取るつもりでなければ、メダルは取れない』と言われた。その通りだと思った」と考えを変え、五輪王者が相手でも必勝の構えで臨む。

 来年1月の天皇杯全日本選手権にプロ格闘家の山本“KID”徳郁(KILLER BEE)が復帰参戦を希望し、その階級の日本代表選手として、嫌でも高塚に注目が集まっていくだろう。だが高塚は「自分たちはレスリング一筋に何年もかけて強さを身につけようとしています。1、2年やった選手に負ける気はサラサラありません」と語気を強める。

 KIDの恩師でもある山梨学院大の高田裕司監督が、KIDの有利な点としてプロの修羅場を経験してきている度胸を挙げたことを聞かされても、「自分も世界の強豪を相手に何度も試練を経験しています。度胸だって負けるつもりはありません」ときっぱり。負けん気は強く、これだけ強気で度胸のある選手なら、世界の舞台で五輪王者などといった相手の“肩書き”に萎縮してしまうことはなさそうだ。

 吹田市民教室〜霞ヶ浦高〜日大というコースは、現在のレスリング界では最高のエリートコース。全日本チームの中では、誰よりも勝つことが義務付けられている環境の中でレスリングをやってきた選手だと言っていい。そんな中ではぐくまれた勝負度胸と「負けは許されない」という気持ちを世界選手権のマットで出すことができれば、9月27日の広州軍区体育館では、表彰台に上がっている高塚の姿を見ることができるだろう。


 ◎高塚紀行の最近の国際大会

 【2006年2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】


1  回  戦   BYE
2  回  戦 ○ [F1P1:48] Michael Dunkum(米国)
3  回  戦 ○ [2−1(0-1,1-0,3-0)] Josh Moore(米国)
準 決 勝  ● [0−2(0-2,0-4)] Mike Lightner(米国)
敗者復活戦 ● [1−2(3-0,3-3,0-2)] Travis Lee(米国)

 【2006年3月:ウズベキスタン・カップ(ウズベキスタン)】

予 備 戦  ○[2−0(1-0,3-1)] Smat Zhakunov(カザフスタン)
1 回 戦   ○[2−1(1-0,1-2,1-0=2:05)] David Pogosyan(グルジア)
2 回 戦   ●[0−2(0-2,0-1)] Ramzan Saritov(ロシア)
敗者復活戦 ○[2−0(1-0=2:08,2-1)] Ilais Tlegenov(ウズベキスタン)
3位決定戦  ●[0−2(TF0-6=1:27,0-1=2:10)] Murad Ramazanov(マケドニア)

 【2006年3月:ダン・コロフ国際大会】

1回戦    BYE
2回戦  ○[2−0(2-0,3-0)] Shenol Ahmed(ブルガリア)
準決勝 ●[0−2(0-2,0-1)] Anatolie Guidea(ブルガリア)
3決戦  ○[2−0(1-0,1-0)] Rumen Kolev(ブルガリア)

 【2006年6月:世界学生選手権(モンゴル)】

1回戦 ● [0−2(0-2,0-2)] Mostafa Akhoundi(イラン)

 【2006年8月:ベログラゾフ国際大会(ロシア)】

1回戦  BYE
2回戦  ○[フォール、2P0:39(1-0,3-0)] Evoloer Mihail(ロシア)
準決勝 ○[2−1(1-0,1-@,1-0)] Halitov Vadim(ロシア)
決  勝 ○[2−1(1-6,2-0,5-2)] Kutzdev Zalimhan(ロシア)



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページへ戻る》