【特集】世界選手権へかける(10)…男子フリースタイル74kg級・小幡邦彦【2006年9月14日】






 00年シドニー五輪の日本代表選考会を兼ねた99年の全日本選手権で、本命と対抗の2選手を破り、19歳で全日本チャンピオンに輝いた小幡邦彦(現ALSOK綜合警備保障=当時山梨学院大、左写真)。その後、4年連続学生二冠王や7年連続全日本王者など数々の勲章を手にしながら、いつの間にかフリースタイル・チームで最多の世界大会出場のキャリア(アテネ五輪を含めて5度)を持つ選手になった。

 5選手が世界選手権初出場という今年の日本代表チームの中では、いやがおうでも中心的な立場でのファイトが要求される。そんな状況を意識してか、小幡は「新ルール下での闘い方ができてきた。今までの中で、一番力を出せる大会だと思う」と気合を入れる。

 気持ちの高まりを表すのが、世界V8(五輪2度を含む)の絶対王者、ブバイサ・サイキエフ(ロシア)と闘いたいという思いだ。01年7月の「ヤリギン国際大会」(ロシア)と同年の世界選手権
(下写真)で闘ったものの、その後、対戦する機会がない。「あれから5年。自分がどれだけ強くなったかを試すためにも、闘ってみたいです」と、世界一の選手との対戦を熱望する。

 昨年の世界選手権やビデオで見た今年の欧州選手権では、「サイキエフと闘った選手は、みんな0−0のクリンチ狙いの闘いをしている。でも、結局、最後は攻めこまれているんです」と分析した。「自分なら、そんな闘いはしない」とでも言いたげな表情で、「ボクが闘う時には攻めますよ。それで負けても、(サイキエフが)攻められた時にどんなレスリングをするかが分かれば、次につながりますから」と続ける。こうした言葉がすらすら出てくるあたりに、気持ちの燃え方が感じられる。

 過去4度の世界選手権での成績は、29位(01年)、24位(02年)、10位(03年)、29位(05年)。しかし、負けた相手がいずれもメダルを取っているという組み合わせの悪さを考慮する必要があるだろう。

 「組み合わせは関係ありません。実力がないから負けるんです」とは言うものの、03年世界選手権では延長の末に惜敗したベラルーシ選手が銀メダルを取ったり、05年3月の「ダン・コロフ国際大会」(ブルガリア)では欧州チャンピオンに敗れたものの、あきらかに地元びいき判定での敗戦。

 04年からの2年半で出場した11度の国際大会(アテネ五輪と昨年の世界選手権を除く)のうち、7大会でメダル(金1・銀2・銅4)を獲得している実績からしても、昨年の29位という順位が“本当の順位”のわけはない。世界の第1集団、それがおこがましければ第2集団のトップには位置し、「メダルを狙う」と公言してもおかしくない実力を持っているのは間違いない。

 もちろん、世界のトップレベルともなれば、わずかの間に何人もの選手がひしめきあっており、“ミリ単位”で強さを競っているのが現状。紙一重の差につけているからといって楽観はできず、気を抜けば、すぐに置いていかれる。その“ミリ単位”の争いは、極めて厳しい闘いである。

 では、その“ミリ単位”を勝ち抜くものは何か。小幡は「勝利に対する執念でしょう」と言う。これまでに闘った選手の中には、脚にオイルを塗っている選手もいたし、あと十数秒を守るために喉ぼとけをつかまれたこともあったという。

 「日本ではそんな選手はいないですよ。でも、世界では反則してでも勝ちにくる選手がゴロゴロいます」。それを“スポーツマンシップに反する”ととらえるか、“勝利への執念”ととらえるかは議論の分かれるところだが、小幡はそうした反則をしてくる選手のことを悪くは言わず、「反則も、うまくやれば強さです」と評価すらする。

 「実は、(8月の)ベログラゾフ国際大会で相手の喉ぼとけをつかんでやったんですよ」。リーダーとなってこれまで以上に結果を求められる立場になり、小幡の心境と行動に変化が出てきた。アテネ五輪を含めて6度目の世界大会に期待したい。


 ◎小幡邦彦の最近の国際大会

 
【2005年9月:世界選手権(ハンガリー)】

1回戦 ●[0−2(0-2,0-4)] Joseph Williams(米国)

 
【2006年3月:ウズベキスタンカップ(ウズベキスタン)】 

1回戦 ●[0−2(TF0-6=1:42,TF0-6=1:43)] Semen Semanov(カザフスタン)

 【2006年3月:ダン・コロフ国際大会(ブルガリア)】

1回戦  ○[2−0(1-0,3-0)] Mannel Garcia(プエルトリコ)
2回戦  ○[2−0(3-0,TF7-0=0:48)] Dimitar Kossev(ブルガリア)
準決勝 ○[2−1(3-0,0-1,1-0)] Stefan Gheorghita(ルーマニア)
決  勝 ●[0−2(TF0-6=1:43,0-1)] Mihail Ganev(ブルガリア)

 【2006年8月:ベログラゾフ国際大会(ロシア)】

1  回  戦 ●[0−2(0-1,0-1)] Dzagurov Inal(スロバキア)
敗復1回戦 ○[フォール、1P1:23(6-0)] Atinashivili Amiran(ロシア)
敗復2回戦 ○[2−0(1-0,6-1)] Panin Roman(ロシア)
3位決定戦 ○[2−0(1-0,6-1)] Abdulaev Ahmed(ロシア)



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