【特集】世界選手権へかける(9)…男子グレコローマン55kg級・豊田雅俊【2006年9月11日】






 現在の男子グレコローマンの“顔”といえば、02年アジア大会で金メダルを取り、04年アテネ五輪7位、05年世界8位の84kg級の松本慎吾(一宮運輸)が真っ先に思い浮かぶのが普通だ。その次が、00年シドニー五輪に22歳の若さで出場して8位に入賞し、01年も世界7位に入賞した60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)。公開練習における報道陣のインタビュー要請も、まずその2人に希望が集まる

 だが、彼らより早くからその名を日本のレスリング界にとどろかせていたのが、55kg級の豊田雅俊(警視庁=
左写真)だ。93年(徳島・穴吹高2年生)のJOC杯ジュニア選手権を圧倒的な強さで勝って以来、その名は全国へとどろいた。グレコローマンのずば抜けた技量は、不振の真っ只中にいた日本のレスリング界を救う選手として期待された。

 拓大1年生で全日本大学グレコローマン選手権に勝ち、階級区分変更によって52kg級から54kg級へ上げなければならなかった壁を乗り越えて4連覇を達成。04年アテネ五輪の代表選手となり、他にも「コンコードカップ」(米国)、「ピトラシンスキ国際大会」(ポーランド)など国際大会での優勝経験もある。04年3月の五輪第2次予選では、2年前の世界チャンピオンを破る殊勲も挙げての堂々たる優勝だった
(右写真)

 にもかかわらず、松本や笹本に比べると印象が薄い。00年シドニー五輪出場を逃したあと低迷したため、世界選手権への出場では遅れを取ったことと、まだ世界での入賞がないことが大きな理由だろう。チーム最年長であり、彼こそがグレコローマン・チームを支えなければならない選手のはず。そのためにも、今年の世界選手権では最低でも入賞、できればメダル獲得といった成績が望まれる。

 世界のトップ級の実力を持っていることは、いろんな事象から考えても間違いない。アテネ五輪では、初戦で大激戦し延長にもつれて逆転負けしたイストバン・マヨロス(ハンガリー)が、その後勝ち続けて優勝した。昨年の世界チャンピオンのハミド・ソリアン(イラン)には、世界選手権の1か月半前にあった「ピトラシンスキ国際大会」対戦しており、互角近くに闘った相手だ。

 今年8月の「ピトラシンスキ国際大会」では、ソリアンと世界2位のパク・エウンチョル(韓国)が、ともにカザフスタン選手に黒星。豊田は60kg級に出場したため、その誰とも対戦はなかったが、そのカザフスタン選手には大会前のトルコでの合同合宿で何度も手合わせし、「スタンド技術と俵返しでは絶対に負けない」と感じた選手。こうしたことから、世界トップ選手には絶対に引けを取らない実力を持っていると実感している。メダルは十分に射程距離だ。

 2度目の世界選手権出場となった昨年は、「オリンピックの延長の気持ちがありましたね」と振り返る。オリンピックまでの貯金で闘った、という表現は不適当かもしれないが、けがもあって05年の冬の遠征には参加できず、ほとんど国際大会の経験がないまま臨んだ世界大会だった。

 そこで見て感じたことは、「新しい選手が次々と出ていた」であり、“アテネ五輪代表”という肩書きなど役に立たなかった現状だ。世界チャンピオンのソリアンは20歳。闘志が燃え上がり、「1年間、挑戦者に戻って必死にやってきました」と振り返る。

 8月の「ピトラシンスキ国際大会」で60kg級に出場したのは、「本番の1ヵ月半前は、減量に気を使っての勝負ではなく、伸び伸びと闘ってみたい」という目的のため。初戦のポーランドの選手相手に課題のひとつだったスタンドでポイントを取ることができ、「成果はありました」と言う。

 その「ピトラシンスキ国際大会」では、前述のソリアン以外に、昨年の60kg級世界王者のアルメン・ナザリアン(ブルガリア)も途中で敗れ、世界王者といえども絶対ではない勝負の世界の厳しさをまざまざと見せつけられた。逆に考えるなら、世界のトップクラスに位置している豊田も、優勝の可能性は十分にあることを意味する。

 最高に燃え上がった気持ちを胸に秘め、“グレコローマンの逸材”が世界一に挑戦する。


 ◎豊田雅俊の最近の国際大会

 【2005年9月:世界選手権(ハンガリー)】

1回戦 ○[2−1(1-@Last,TF11-2=1:40,TF1:07=5-0)] Jiao Hufeng(焦華峰=中国)
2回戦 ●[1−2(1-4,5-0、TF0-7=1:30)] Rivas Lazaro(キューバ)

 
【2006年3月:ポーランド・オープン(ポーランド)】

1  回  戦 ○[警告2P2:00(4-0,@Last-1)] Onur Sensoy(トルコ)
2  回  戦 ○[2−0(TF7-0=0:35,TF6-0=1:24)] Igor Roitman(イスラエル)
3  回  戦 ○[フォール1P1:50(F9-0))] 長谷川恒平(青山学院大)
準  決 勝 ●[0−2(5-DCau.,TF0-5=1:05)] Hamid Szawaiew(ロシア)
3位決定戦 ○[2−1(TF6-0=1:25,1-2,5-0)] Pawel Kramarz(ポーランド)

 
【2006年3月:ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)】

1回戦 ●[1−2(1-1Last,4-1,0-3)] Jasem Amiri(イラン)

 
【2006年8月:ピトランシンスキ国際大会(ポーランド)】=60kg級

1回戦  BYE
2回戦 ○[2−1(3-0,0-4,2-1)] Tomasz Swierk(ポーランド)
3回戦 ●[0−2(1-5,3-4)] Heinz Marnette(ドイツ)



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