【優勝選手特集】女子48kg級・伊調千春(ALSOK綜合警備保障)【2007年12月23日】








 男女全階級を通じて最多エントリー(20選手)となった女子48kg級。最激戦区かと思われたが、各大会をにぎわすトップクラスが順調に勝ちあがった末、頂点の座についたのは、やはり世界チャンピオン伊調千春(ALSOK綜合警備保障)だった。

 今年9月の世界選手権で2年連続の金メダルを獲得。すでに北京五輪の日本代表に内定している。ともに世界王座を奪取した吉田沙保里、妹の馨(ともにALSOK綜合警備保障)にとっては、「アテネでも金、北京でも金」だが、千春にとっては「北京こそ金」。来年8月のクライマックスに向け、ここで気を抜くわけにも歩みを止めるわけにはいかない。今大会の優勝は、自他共に認める“最低条件”だった。

 世界の強豪との戦いを通して「1ピリオドわずか2分の中で、1点を確実に取れるレスリングをする」ことを課題としてきた。2、3回戦ともに積極的に仕掛けながらバックへ回ってポイントを稼ぎ、最後は力強いフォールでねじ伏せた。準決勝の第2ピリオドでは、昨年の全日本選手権3位で今年の世界ジュニア選手権銀メダルの三村冬子(京都・網野高)が仕掛けるタックルでバックを取られ、ポイントを先取されたものの、冷静な表情は変わらない。終了ホイッスルとほぼ同時に押し倒し、苦戦を感じさせることなく勝ち名乗りをあげた。

 迎えた決勝の相手はライバルの坂本真喜子(自衛隊)。3試合すべてフォールで勝ち上がってきた坂本に、これまで以上の気合いを感じながら臨んだ一戦。押し合い、崩しあい、すきを探す両者だが、お互いの力が拮抗(きっこう)したままポイント0−0からは動かなかった。「真喜子とはアテネ(五輪)の選考会の頃からずっと戦ってきて、お互い手の内を知り尽くしているので、試合の展開をつくることができなくて。今日は今までで一番やりにくかったですね」

 第1、 第2ピリオドとも、試合はコイントスによる延長戦へ。二度とも攻撃権を得た千春は確実にポイントを奪い、まさに「1点を確実に取れるレスリング」でライバル対決を制した
(右写真=第1ピリオド、コイントスから伊調が先制)

 「本当は迷っていた。(北京五輪のあと)レスリングを続けようか、やめようか」。試合後、正直に気持ちの揺れを告白した千春だが、今、その答えははっきりと出ている。「引退するのはやめました。自分で終わりをつくると逃げに走ってしまう気がする。それから、今日、馨が優勝したのを見て、『私たちはやっぱり2人で金を取って、初めて1つの金メダルだな』と思ったんです」

 代表合宿、ワールドカップ、アジア選手権…。2008年早々から、息つくひまなく続く日々は、すべて北京へとつながっていく。姉妹で初めてかなえる夢へとつながっている。

(文・藤村幸代、撮影=矢吹建夫)



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