【特集】子ども達に夢と希望を! リアルタイガーマスクを目指す専大・平川臣一【2007年11月28日】








 11月21〜22日に行われた東日本秋季学生新人戦のグレコローマン120s級は専大の平川臣一(ひらかわ・しんいち=右写真)が優勝した。スキンヘッドに薄いまゆ毛がトレードマーク。一見、異様な雰囲気をかもし出し、近寄りがたいイメージがあるが、同期からはかなりの人気者だ。

 「宇宙一、心が清くて優しい選手です。レスリングも人一倍努力するので、新人戦で優勝してよかった」(専大同期のフリースタイル120kg級・荒木田進謙)。「ほんとに面白くて、いいヤツなんです。高校からめちゃくちゃ仲良しです」(福井・三井高時代の同期の早大・藤元洋平=フリースタイル55kg級)

 同世代のエリートたちに祝福された平川の表情がほころんだ。「試合内容は投げられたりと悪いところもあったけど、ディフェンス面がよかった」と、持ち前の鉄壁の守りで勝ち抜いた。そんな平川はでっかい夢がある。「プロレスラーになって有名になり、そこで手に入れた利益で事情のある子どもたちの面倒を見たい」。

■プロレスラーになりたい一心で柔道、レスリングに没頭

 平川は福岡市立花畑中学の柔道部に所属し、高校進学時にレスリングに転向した。格闘技を始めたきっかけは、もちろんプロレスラーになるため。小学校3年生の時に地元に巡業に来たプロレスをリングサイドで観戦。「タイガー・ジェットシンに追いかけられて、泣いて帰ってしまった」とプロレス観戦デビューはホロ苦いものだったが、その後、ビデオ屋でタイガーマスクのビデオに遭遇。初代タイガーマスク・佐山聡のパフォーマンスに釘付けになった。

 プロレス入りを目指して2004年アテネ五輪代表の池松和彦選手(現K−POWERS)を輩出した三井高へ進学。主将を任されたが、「結果が残せなくて三井高の伝統をブチ壊しました」と個人成績は今ひとつだったようだ。だが、高校3年間で平川はプロレスラーになる以外の目標をもう一つ見つけることになる。

 「三井高校主催のキッズレスリング教室に、事情があって施設に預けられている子どもたちが通っていて、触れ合ううちに子ども達のための施設を自分で作りたいと思いました」。平川の心に一番刺さった光景は、親との面会とレスリングの試合が重なってしまい、面会が延期になって落ち込んでいた子どもに、「試合に勝ってお母さんに勝利の報告をしよう」とちびっこ教室の先生が励ましの言葉をかけていたシーン。子ども達にレスリングを通して人間教育する姿に心が打たれた。

 わずか18歳にして平川の進路は固まった。子どもたちを預かる資金は、自分がプロレスラーになって稼いだお金で作りたい。子ども達に夢を与えながら、子ども達の面倒もみる。“リアルタイガーマスク”が平川の最終目標だ
(左写真:専大の同僚、荒木田=右=新人戦74`級準優勝の上迫博仁=左=とともに)

■エリートたちにもまれて実力も急上昇

 大学進学時もプロレスラーとしての修行を積むため、重量級に定評がある専大に進んだ。レスリングからプロレスに進んだスター、馳浩監督は「あこがれであり、尊敬しています」。今は馳監督の下で練習を積むことがモチベーションとなっている。チームの重量級には、世界選手権経験者の田中章仁(現FEG)、北村克哉(4年)、そして同期の荒木田らがおり、練習するには最高の環境。朱に交われば赤くなる。専大に入って1年半。新人戦では高校時代には歯が立たなかった平川真也(中大)を倒して同世代の頂点に立った
(右写真=平川真の攻撃をしのぐ平川)

 大学レスリングで実績を残せば、プロレスや総合格闘技、相撲などプロ格闘技の道が開ける。今夏の全日本学生選手権には、九重親方(元横綱千代の富士)がスカウト目的に来場した。昨年は拓大の大学二冠王者・山口竜二が健介オフィスに入門。田中章仁もFEGと契約を結んでおり、北京五輪後は総合格闘技への転向が濃厚だ。

 平川は「プロレス雑誌は毎週欠かさず読んでいます」と業界研究も怠らない。「馳先生はもちろん、武藤(敬司)選手が大好きです」とお気に入りは全日本プロレス。次の目標は大学の頂点だが、荒木田は平川にもっと大きいことを期待した。「やっぱり五輪出身のプロレスラーは売れますよね。僕はフリースタイル120s級で五輪を目指しているので、平川にはグレコローマン120s級で代表になってもらって一緒に五輪に行きたいです」。

 憧れの馳監督は元五輪代表でプロレス界でもトップに立ち、それまでに築いた地位と名声を生かして現在は政界で大活躍している。平川も新人戦のタイトルをステップに、夢へ踏み出すことができるか!? 平川の“リアルタイガーマスク物語”は始まったばかりだ。

(文・写真=増渕由気子)



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