【特集】試合後のウォーミングアップ場で練習を開始…女子72kg級・浜口京子(ジャパンビバレッジ)【2007年9月23日】







 納得のできない判定で昨年の世界チャンピオン、スタンカ・ズラテバ(ブルガリア)へのリベンジに失敗した女子72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)。母・初枝さん
(右写真の右端)の「(判定は)審判が決めるんだ。何も言うな」というゲキを受け、気を取り直して午後のセッションに向かった浜口に、さらなる“地獄”が待っていようとは、誰も想像できなかったことだろう。

 敗者復活戦の第2試合で、オルガ・ザニベコバ(カザフスタン)にまさかのフォール負け。日本から駆けつけた約20人の浅草応援団の悲鳴が会場にこだまする中でレフェリーは片手でマットをたたき、フォール負けが決まった。

■悔しさが残っているうちに練習だ

 ウォーミングアップ場に戻り、しばらくはひとりにさせてもらった浜口。ある程度の時間がたっても、その姿に、ウォーミングアップ場への出入りが認められていた報道陣はもちろんこと、誰もが近寄ることができない。それでも、父のアニマル浜口団長、金浜良コーチや赤石光生コーチらが取り囲み始める。

 そして、何言かのやりとりをしたあと、金浜コーチを相手に練習が始まった
(左写真)。鉄は熱いうちに打て−。悔しさが残っているうちに練習だ。約30分の練習が終わると、やっとその顔に笑みが浮かんだ。チームメートらにあいさつし、そばで励まし続けてくれた母に抱きついて感謝の気持ちを表す。そして報道陣にもきちんと相対してくれた。

 「現実が信じられないんです」。2001年世界選手権3位決定戦以来のフォール負け。1996年世界選手権以来のファイナル(3位決定戦を含む)に進めない成績。ズラテバ戦での誤審によって狂った歯車は、最後に大きなつまずきを呼び起こしてしまった。

 やることはすべてやって乗り込んだという自負がある。五輪出場権がかかっている世界選手権であるということに、いつも以上のプレッシャーがあったのは確かだが、それが特別に動きを硬くしたことはなかったという。

 「ズラテバは去年より強くなったとは思えない。いけるという気持ちがあった」。それだけに、もどかしさがあるのだろう。問題となった無双で逆転すれば、ズラテバがばてていたあけに、第3ピリオドでの反撃につなげられたはずだ。

■「落ち込んでいる場合ではない」−

 だが現実も見つめなければならない。一見すると自滅のような形で倒されて追い込まれたザニベコバからのフォール負けだが
(右写真)、栄和人監督(中京女大職)は「バランスをもっと考えれば、あんなふうにはならなかった」と分析。脚の置く位置を反撃されても大丈夫な位置におけば、あの技を受けることはなかったと言う。

 そのことは、試合後の金浜コーチとの話し合いと練習の中で、十分に話し研究したことでもあるようだ。金浜コーチからは「今投げられるのと、オリンピックで投げられるのと、どちらがいい?」と聞かれたという。

 「オリンピックへ向けて、もっと強くならなければならない。落ち込んでいる場合ではない。出場権を取りにいかなければならないし」。気を取り直してそう宣言した浜口。これまでのオリンピックの優勝者を見ると、前年の世界選手権で10位に入っていない選手などざらにいる。今回の9位という成績は、浜口の北京五輪での金メダルを絶望にするものではない。

 団体優勝の記念撮影を終えたあと、華やかな舞台にはいたくなかったのか、金浜コーチといち早くアリーナを後にした。心の中は悔しさで煮えたぎっているに違いない。その思いが熱ければ熱いほど、努力のエネルギーになる。本当の勝負は来年夏。どん底からはい上がる姿を見せてほしい。

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)



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